留守番を杏月ちゃんに頼む場合は注意が必要である。彼女は犬なので、低いテーブルの上などに食べられる物を放置しておけない。高いテーブルであっても椅子をしまうことを忘れてはならない(階段として使用するため)。以前なら犯人はすべて小琳ちゃんだったと思われるのだが、彼女の死後、しばらくは何事も無かったのだけれど、徐々に頭角を現し、杏月ちゃんもハンターの血が騒ぐようになったらしい。
そういう訳で、帰宅すると家人の悲鳴を聞くことが時々でてくる。形式上罵倒して叱るが、おなかを出して許しを請う姿を見ていると、逆に虐待をしているようにも思えて、つらい。人間の側で注意するより無いのだが、しかし世の中には食べ物があふれており(本当にそうなのだ!現代の日本で飢えることは限りなく難しい)すべての食べ物を高所にしまうなんてことは不可能に近いのだ。
ということで、いつものように悲鳴が聞こえて、今回はなんだろうと思っていたら、実家の義母から早めに頂いた高価なチョコレートだったらしい。全滅では無かったが、息子が楽しみ(好みらしい)にしていた種類は消えていたようだ。
何となくは聞いたことがあったが、犬はチョコレートで中毒を起こすという。見たところ普段通りかわいらしいが、さて、どうしたものか。どの程度の分量がいけないのか、全く知識が無い。正直に告白すると、時にはかけらを与えることもあったような気もする。いつも通りちょろちょろしているし、先ほど叱ったせいか、早く許してもらおうという魂胆さえ透けて見える程度には、こちらの顔色をうかがう余裕さえあるようだ。
ということで一連の騒ぎが落ち着くと、いつも通り酒を飲んでいた。そうすると今度は二階から悲鳴が聞こえる。杏月ちゃんが寝室の布団の上に大量に吐いたらしい。足元を見ると、前足や口の周りを濡らした杏月ちゃんが尻尾を振っている。相当吐いたようで、かなり酸っぱくすえた匂いがする。しかしながらこれで本当に具合が悪いのだろうか。
その後観察すると、水を大量に飲んだりしているようで、脱水症状を起こしている可能性もある。ある程度は具合も悪いはずで、しかしその原因とチョコレートの関連性を理解してくれるものなのだろうか。
さてしかし、押し入れから別の布団を出して寝ることは可能にせよ、汚された布団や毛布を家庭の洗濯機で洗うのは不可能だ。すでに10時になろうかという時間でもあり、コインランドリーしか無かろうということになった。僕は中学生の頃に兄の家に遊びに行った折りと長期の旅行(学生時代)にしかコインランドリーに入ったことが無くて、なんだか非常に感慨深いのだが、それは別に置いておいて、さらに夫婦一緒に初めて行く場所というイベント性が、なんだか楽しい気分でさえあった。とにかく寒いことを除けば。
まあしかし入ってみると、職場にある大型洗濯機がたくさん並んでいるという光景と変わらない訳で、当たり前だがそんなに初体験という感じがしない。とにかくでかい容量の空いているドラムに詰め込んで、コインをじゃらじゃらと投入した。1,300円也ということで、そのことだけは少し驚いた。
当たり前だが勝手に洗ってくれるので出直すことにして、また家で少しだけ飲み直し、時間が来たので取りに行った。それだけでもうなじみの場所のような感覚も出てきて(早)、これからは一人でも入ることが出来る自信がついた。もちろんその機会がいつ来るものなのかは予想できないが。
その後杏月ちゃんの方は変わらず元気である。もちろん反省の色は無いが、僕らの方がいくらか反省している。チョコレート中毒というのは本当であることは確認できたので、愛犬家の皆さんはくれぐれもご注意を(って、普通は知ってるのでしょうけど)。