パーフェクト・ワールド/クイント・イーストウッド監督
脱獄した二人組は、最初からうまが合っていない。家宅侵入した家で相方が欲情してしまい、家事をしていた女性を襲おうとする。それを止めようとしてごたごたしたが、結局そこの少年を人質に逃避行となってしまう。逃げている際中に相方とは結局うまくいかず殺してしまい、しかし子供はなんとなくというか、ちょっとしたきっかけもあるが結局連れて逃げていく。車で逃げている道中、子供の父親は居ないか出ていったかして、ろくでもない奴であるらしいことも分かる。犯人の男の父親も酷い親だったらしく、何か共通の苦しみというか親近感というか、疑似的な親子のような感情が芽生えていくようだった。
一方追いかけている警察の方も、地元の警察署長自ら陣頭指揮し、FBI捜査官、知事からの派遣で若い女性の犯罪心理学者などで構成されていて、足並みが悪い。犯人のブッチは無謀ながらなかなか機転が利く男で、要所要所で関門をすり抜けていく。
見つからないようにトウモロコシ畑の中に車を突っ込ませて休眠していると、夜間の方が涼しいという理由で作業していた農夫が彼らを見つける。まあ事情を知らないので、朝まで自分の家で休んだらいいと誘われる。厚意に甘えて休ませてもらうことになったのだが……。
一種の暴力の連鎖とは何か、ということを見事に描いたストーリーになっている。犯罪者は悪いことをしたから刑務所に入っているのだが、その家庭の事情までは誰もみてはいない。実際のところまでを僕は専門的に知っているわけではないが、暴力的な男の多くは、家庭などでもひどく暴力を受けていた、いわば心の傷のようなものを抱えている場合が多いという。そうしてまた、そういう男が子供を持つと、また自分の子供にも暴力を働いてしまう。そういう連鎖が、いつまでも続く傾向があるということなのだ。特に子供のころに受けた暴力というのは、いつまでもその人の人生を苦しめることになる。だから犯罪を犯していいということのはならないけれど、諸悪のもとを何とかしないことには、なかなかこういう問題は複雑なまま根を張っていくことになるのだろう。
救いの少ない話ではあるのだが、人殺しである犯人のことを、段々と救いたいような、そんな気分にさせられる物語だ。そののちに誘拐された少年が、母親から願いをかなえられたものかは分からない。しかし暴力を許さなかった志は、この犯人とのやり取りの中で、結果的には培われたのではないか、などと期待するより無いのだろう。