白鳥の歌・刑事コロンボ/ニコラス・コラサント監督
新興宗教に染まっている妻をわずらわしく思った(ほかにもいろいろあるが)歌手が、自家用セスナを墜落させて殺害(一緒に関係のないコーラスガールまで殺してしまう。かわいそうじゃないか?)。自分はパラシュートで逃げて、現場に戻って倒れて助けられるという演技をしている。そのトリックをコロンボが徐々に見破っていくという話である。
犯人の歌手を実際のカントリー歌手のジョニー・キャッシュが演じている。日本だと加山雄三のようなものか。いや、南こうせつの方かな。カントリーだし。
という事だが、けっこうアクロバティックなトリックだし、最後はコロンボの罠にまんまとはまる犯人が哀れでもある。途中ギターを弾いてる姿は、やっぱり上手いな、とは思ったが。
この犯人は前科があって、宗教活動家の妻から保釈金を積んでもらって釈放されたことがあるようだ。いわば恩がある。しかしそのために新興宗教団体への寄付という圧力があって(女性関係の弱みもある)、せっかく音楽で稼いでも報われない思いがあるようだ。要するになんとなく同情できる立場なのである。飛行機事故に見せかけるトリックなので、具体的に手をかけて殺すような印象も薄い。悪いには悪い奴であるけれど、捕まってしまうのは、少し可哀そうではないかという気分にさせられるのかもしれない。近年はそのような犯人が必ずしも悪人ではないと思わせられるような設定というのはありふれているが、当時の世相において、このような犯人像というのは斬新なものがあったのではあるまいか。
コロンボ・シリーズでは、比較的最初からコロンボは犯人に目星をつけている場合が多いが、今回は流れの中で、なんとなくコロンボが確信を深めていくような感じもある(それでも結構早くから分かっていた風にも考えられるけど)。最終的には罠にはめて捕まえる訳だが、コロンボも特に犯人を悪者扱いにしている訳では無い。妙な哀愁の漂う作品なのであった。