ちょっと思い出しただけ/松居大悟監督
まず男女の別れがあって、過去のエピソードにさかのぼり、どういう事情というか、二人のなれそめと行き違いが描かれる。嫌いになったという訳では無かったのかもしれないが、気持ちの行き違いの在り方が、大きな分かれ道になったということなんだろうか。
エピソードを見て楽しむタイプの映画なので、実際そのスジというのはあんまり関係が無いというか、雰囲気を楽しむものだろう。楽しむというのが適当なのかどうかもよく分からないが……。そういえばこんな感じの恋愛ってあるのかもしれないな、とは思う。例えば舞台は東京で(実際そうだが)、そこで出会った男女が自然に惹かれあうものがある。そんなに特殊ではないかもしれないが、二人にとっては特別なことが起こるのである。そうして試行錯誤があり、結構気の合う二人であることも分かる。そのまま上手く行くように思われるが、ちょっとしたアクシデントがきっかけで、ガタガタと行き違いが溝を深めていくのである。
ここで題名の意味が何となく浮かぶ。ちょっと思い出しただけのことであるけれど、それは「ちょっと」では本当は違ったのかもしれない。それは確かにありそうな、もう一つの自分たちの未来だったかもしれないのだ。振り返ることはあるにせよ、もう戻ることは難しくなってしまったが……。そのような取り返しのつかないものが、今の自分の一部であり続ける。そういうことが、現在進行形の恋愛には含まれている。既に大きく道が違ってしまったが、それでも自分の中に生き続けている思い出以上のものなのかもしれない。
まあ、そういうことなんだが、はっきり言って、ここまで気持ちが残っているというのも、なんだか違う人生を歩んでゆくことにおいて、支障がありそうな気もする。いつもいつもちょっと思い出すようじゃ、良くないのではなかろうか。そんな人がどれくらいいるものなのかは定かでは無いにせよ、そういうのって、そんなに幸福な人生じゃないような含みがある。過去の恋愛というのは、一定時間で忘れてしまえるものなら、忘れた方がいいのかもしれない。