僕はテレビを見ながらメモを取る習慣がある。そうしないと内容が頭に入っていかないような印象がある。実はそうまで真剣に見ているわけでは無いのだが、基本的にはテレビは録画しているものを見ていて、何か意図的に見ようと考えていたはずのものを見ている。そうするとそれはいったい何の話なのかということになり、メモを取るのではないか。
しかしながら映画を観ているときはメモを取るわけではないので、録画で観る番組の内容で、何か気になる部分を切り取って残しておこうという気になる、という感じかもしれない。映画でも気になるところはたくさんあるが、物語を追う時に、メモの時間が省略されてしまうのかもしれない。実際映画の中で語られる別作品であるとか、画面に映っている気になるものについては、メモを取る場合が皆無ではない。面白そうな商品であるとか、あとでアマゾンで検索しようと考えるのだろうか(というのは、実際はそんなことはあまりしないので)。
ところがこの数か月、テレビを見ながらメモをする機会がだいぶ減ってしまった。厳密にいうと選挙などで物理的に家に居なかった時期などもあるのだが、一応そういう期間を除いたとしても、メモを取ることを阻まれている要因がある。それが何かというのは明確にわかっていて、しかし排除し難いものなのである。
それはずばり睦月ちゃんである。睦月ちゃんは飼っている犬のことで、彼女がメモをすると邪魔しに来るのである。ボールペンの動きが気になるというのもあるし、テーブルに置いてある手帳類が気になる。おそらくそれらには僕の匂いのようなものが付いていて、たとえそうでなくとも、噛みついて破るのが面白い可能性がある。だからもう、睦月ちゃんの手の届きそうなところには手帳やメモ帳は置いていない。噛みつかれるのが分かっていてそうするのは愚かである(しかしときどきいまだに噛まれているが)。そうするとすぐにメモする動作に入ることができなくて、一度席を立って、それらが置かれている場所に移動しなければならない。そうすると睦月ちゃんは当然反応するので、その後メモするのがバカらしくなるに違いない。もう席も立てないのである。
しかし僕の服の胸のポケットには、小さなメモ帳が入っている。そうなのだが、このメモ帳を取り出す動作においても、睦月ちゃんは目ざとく反応する。一度近寄られると、もちろんメモは取れない。排除しようとする動きにはさらに興奮を呼んでしまい、焼け石に水である。暴れる彼女を抑えるには、一定の時間そうさせておくより仕方がない。そうすると、メモを取るタイミングを逸してしまう。
つまりはそういうことで、テレビを見ながらメモを取ることが困難になってしまった。その為の損失が何であるのかはまるで分らないので、そもそもメモの意味というのは何だったのだろうか……。