13人の命/ロン・ハワード監督
何年か前に実際に起きた、タイの洞窟内少年救出事件を題材に、その顛末を描いた作品。事件は連日報道もされていた記憶もあるし、内容もおおかた知っていたと思っていたはずだが、改めて映画で観てみて、その驚愕の事実に只々驚かされるばかりだった。
少年サッカーチームが練習をはねて洞窟探検のような感じで、コーチとともに遊びに行く。ところが直後に季節外れの豪雨が近くで降ったらしく、洞窟内の水位がどんどん増して、奥まで入り込んでしまった13人は、洞窟内に閉じ込められてしまう。おそらく洞窟内だということは分かってはいるものの、大人たちはどうすることもできない。大変な騒ぎになり、国内外から様々な支援の人々が、このタイの農村へ押しかけてくる。
そんな中、洞窟の専門のダイバーをやっている英国人グループがいる。タイにも軍専属のダイバーがいるが、洞窟内の視索という任務で、ベテランである英国グループが、とりあえずできるだけ奥まで探索することになる。彼らとしても既に時間が経過しており、事態はたいへんに厳しいため、遺体の回収ができればという考えもあったが、洞窟内は複雑でかなり奥までの経路があり、5時間以上もかけた先に、すべて生き残っている少年たちを発見するのである。それまでに既に一週間の時間が経過していた。
生きていることは良かったが、さて、救出方法が無い。洞窟内にはいくつかスポットのような空間があるが、その出口から一番近い空間に軍隊の人間が一人取り残されてしまったおりに、ベテランが付き添って洞窟を潜水したが、途中で恐怖に暴れ出してしまい、たいへんに危険な状態に陥ってしまった。ましてや5時間を超える洞窟内の移動を、まったく素人の少年たちが行うのは、ほぼ不可能と思われた。その間に水かさが増すなどの問題もあり、洞窟内の酸素濃度も減っていく。実際の雨季までの時間もそんなに余裕が無い。そういう中物資輸送中のタイ人ダイバーが、事故で亡くなってしまうのだった。
ついつい、ぜんぶあらすじを書いてしまいたいくらい次々に問題が起こり、関係者は頭を抱えてしまう。事情は複雑に絡んでいて、救出に伴う様々な困難や条件の悪さが、どんどん露呈してくる。洞窟前はさながらキャンプ地になり、遭難している家族だけでなく、報道陣や各国の要人や、おそらく野次馬などの人間と、それらの食事などので店が立ち並ぶようになり、どんどんお祭り騒ぎになって行くのだった。
こういう映画は過去に観たような記憶があると考えていたが、おそらくそれはハワード・ホークス監督の名作「地獄の英雄」である。リメーク作品とはいえないのだが、落盤事故で閉じ込められた男を救出する騒ぎが大きくなって、有名になっていく記者を描いた作品である。それの原題が「Ace in the hole.The big carnival」である。世間の注目を集める中、事件はどんどんお祭り化していく。ある意味では仕方が無いが、そういう中、死と隣り合わせの任務を遂行する人々の思いはどういうものだったのか、しっかりと見ごたえのあるサスペンス作品に仕上がっているのではなかろうか。結果を知っていても、かなり面白いので、何も知らないで見たら、とてもこれが実話だとは信じられないかもしれない。少なくとも天気の悪い日に、洞窟に入るなんて気には、とてもなれなくなるだろう。