カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

情熱は忘れたころに見つけ出される 「8人の青い宇宙」

2022-09-09 | ドキュメンタリ

 BSのドキュメンタリー「8人の青い宇宙」を観た。8年前に成層圏に気球を飛ばした8人の工業高校生がいた。やってみようとなったのは、もともとカナダでそんなことをしている人がいるというのを知って、僕らもやってみたくなった、ということらしい。同じクラスの仲間たちが集まって、グループ実験ということだったのかもしれない。
 大きな風船にカメラを付けて飛ばせば、成層圏に達したときに、地球の映像を撮ることができはずである。仕組みは単純だが、風船が割れた後にパラシュートが開くようにして、機材を守らなくてはならない。さらに落ちてくるものが、人や危ないところに着地するのはまずい。実は気球を飛ばすには、様々な規制が絡んでいる。飛ばして落ちるまでの経路を計算して、比較的安全なやり方を導き出さなくてはならない。とはいえ日本列島は、気球を飛ばすには幅が微妙に狭い。上空には偏西風の吹くところもある訳で、長い間流されていると、落ちるところが海になる。そうなると機材の回収が困難になる。
 元々仲の良かったグループと、おとなしいが頭のいい連中が協力して、役割分担をしながら、作業を進めていく。最初のころは屋上からパラシュートを落とす実験をしたりして、なかなかに楽しいものだった。しかしながら確実に実験を成功させるためには、気象庁などが実際に使っているバルーンであるとか、本格的な機材を使わざる得ないことを知っていく。さらに気象データを検証し、バルーンがどういう経路を飛ぶかをあらかじめ計算する必要がある。回収するためには位置情報をGPSで追うことになる。おそらく大人たちの協力もたくさんある中で、長野県にある工業高校(今は廃校になった飯田工業という)なのに、福井県の河川敷でバルーンを飛ばし、関東の埼玉あたりで回収することになる。そうやって朝から空に向かって順調にバルーンは放たれ、夕方落ちてくるだろう埼玉まで車を走らせることになる。
 ところが埼玉に差し掛かる山中で、GPSからの通信は途絶えてしまう。電波の届かない場所(要するに山奥)であるだけでなく、場所の特定が極めてむつかしくなったのだ。しかしながら途中までは送られていた通信データをもとに捜索を行うのだが、結局見つけ出すことは叶わなかった。そうして彼らは卒業し、それぞれの人生を歩むことになったのだった。
 あるものは地元に、あるものは県外へ、散り散りに就職し、なかには進学後遠くに行くものもいる。東京で力士になったものもいる。何しろ卒業して8年の歳月が流れている。元高校生たちの人生は、個人個人でさまざまである。結婚して子供のいる者さえいる。
 そういう中で、林業関係者が「それ」を見つけて連絡をくれたのである。高校は廃校になっており、別の学校で教鞭を取っていた当時の指導の先生のところに連絡が入った。皆は8年ぶりに、当時の映像を見ることができるようになったのだ。
 このことは少なからぬ話題を呼び、さまざまなところで取り上げられそれなりのニュースになった。いわばちょっとした奇蹟である。成層圏の映像はネット上でも何度も取り上げられ、実は僕も観たことがあると思い出した。このドキュメンタリーとは、「あの」ことだったのだ。
 当時の高校生たちの思いと、現在の青年たちの思いが、この出来事を交えて語られることになる。あるものは楽しいだけの思い出で、あるものには苦いつらい思いがあった。当時を詳細に振り返ってみると、実際の実験に向き合うスタンスも違うし、成功させたいがための準備に懸ける度量も違う。注目を集めたために、かえって複雑な心境をメディアに対して言いにくいと考えたものさえいる。
 そういうドラマを含みながら、単に成層圏から地球を見たいという8人の夢が、時を隔てて実現したのだ。やはりそれは一種の奇跡であり、情熱の結果だった。簡単でなかったからこのようなことになったし、単純さがあったから最後までやれたのかもしれない。そうして映像が戻ったことで、また8人は新たに歩き出すことになるのだった。そうした人生の区切りのようなものを、改めてドキュメンタリーは語っていた。そうしてその後というものがメディアに取り上げられるようなことは、おそらく無いのかもしれない。
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