カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

貧乏はかっこいいか   沈黙のサラリーマン

2014-08-05 | 読書

沈黙のサラリーマン/マイクル・Z・リューイン著(ハヤカワ文庫)

 日本の私立探偵はどんな仕事をしているのだろう。主に米国のこのような作品を読んでいると時々そう思う。基本的に浮気調査とか家柄の調査なんかをしているらしいということは聞いたことがあるが、僕の日常とはかなり遠い。恐らく刑事事件とは関係が無く、しかし個人では少し面倒というか、とにかく人手が必要で、ちょっとした秘密めいたものを調べてもらうということになるのだろうか。
 さっそく脱線するが、以前人探しをする必要があって、その方面に相談した方がいいのではないか、という話が出た。人づてに人探しの専門のような人(自称)がやってきて、金を持って逃げたような人なら、ヤクザ関係が確実ですよ、と教えてくれた。彼らのネットワークは、警察とは違った素晴らしさがあるらしい。もっとも探してはくれるが、その持ち出した金が、捜索料として相殺されるシステムだという。回収方法は見つけたヤクザみたいな人たちがするから心配ない、ということだった。つまり懲罰的なことを請け負うわけで、金は諦めてくれ、ということらしい。面白いお話だとは思ったが、もちろん依頼しなかった。何しろお金を持ち逃げした人を探していたわけでもなかったし…。
 さて、主人公のサムスンさんは、客の依頼が少なくて、困窮している。調査料の割引の広告を出して客引きをするが、それを見ずに依頼に来た人間に、妙な調査を依頼されるに至り、値引きをし、さらに高いといちゃもんをつけられ、結局半分しか払ってもらえない。やっと調査をつないで依頼人の橋渡しに成功するが、結局その依頼人からも事情があって料金の回収が出来なくなる。途中に事務所は荒らされて金は盗まれるし、支払いに困るばかりか、事務所も立ち退かねばならない運命だ。基本的に貧乏物語のようなことになってしまったが、そういう悲哀が、ハードボイルド的な側面であることは間違いがない。
 勝手に妄想を膨らまして精神的な窮地に陥っているし、聞き出そうとすることに強引にことを運びすぎて乱暴な口を利いたりする。人も殴るが、酷く殴る蹴るの暴行を受け、監禁された上に殺されそうになる。捜査のためとはいえ不法侵入して、目的のものは何とか見つけるものの、結局捕まるという頓馬なことになる。何故か拳銃を持たない主義らしく、逃げ出す術は無い。警察には追われているし、妻からは逃げられているし、10年ぶりくらいに会いに来た娘にも気付かない。なんだかこの人本当に大丈夫なんだろうか、ということなんだが、とにかくそれでもかっこいいという不思議な物語なのであった。
 まあともかく僕はそんなに間違ったことを書いているわけではないが、これを読んだ人なら分かってもらえるだろう。ハードボイルドとはつまりその文体というか描き方であって、このような事実がならんで描写されているけれど、なかなか渋くてカッコいいのがサムスンさんの物語であるという結論に至るのである。まったく面白いことである。
コメント
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