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「復讐 天橋立」を読む 20

(田んぼのハクセキレイ)

この田んぼには水だけ張られて、稲が全くない。確か、田植えはしたと思われるが、思うに、どうやらジャンボタニシにやられたようだ。ジャンボタニシは稲の苗が好物で、食い尽くしてしまうと、今日、テレビで見た。その様子が、この田んぼとそっくりであった。ある程度稲が成長すれば、もう食べられることのないという。この一枚の田んぼはちょうどタイミングがあってしまったのだろう。写真をよく見ると、ジャンボタニシらしき粒々も写っている。

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「復讐 天橋立」の解読を続ける。

その上、これに並み居る人々の中にも、師の免許を取るべきもの数多(あまた)あり。されどもそれには赦(ゆる)さずして、殿に印可(いんか)を奉りしは、林田が謟諛(てんゆ)にして、実に殿のその業(わざ)に熟し給う故にはあらず。この境をも弁(わきま)え給わずして、猥(みだ)りに無謀(むぼう)譫言(たわごと)を吐き給うを以って、右のごとく申したりと。弁舌(べんぜつ)水の流るゝが如く、憚(はばか)るけしきもなかりければ、座中弥(いよいよ)冷や汗を流し、いらざる臺右衛門が身の程をも知らざる放言(ほうげん)かなと、口を閉じて扣(ひかえ)るにぞ。
※ 印可(いんか) ➜ 武道・芸道などで、極意を得た者に与える許し。免許。
※ 謟諛(てんゆ) ➜ 人の気に入るようにふるまうこと。こびへつらうこと。
※ 無謀(むぼう) ➜ よく考えずに行うこと。
※ 譫言(たわごと) ➜ ばかばかしい話。また、ふざけた話。
※ 弁舌(べんぜつ) ➜ ものを言うこと。また、ものの言い方。話しぶり。
※ 放言(ほうげん) ➜ 他への影響などを考えずに、思ったままを口に出すこと。無責任な発言。(原文は「方言」とあるが、明らかに間違い)


城主、憎しとは思し召せども、わざと怒りを抑え給いて仰せけるは、いかさまその方が申す条、一理ありといえども、また我が手裏(しゅり)にも聊(いささ)か覚えあればなり。人をあざける汝が手のうち、さこそと思われ、奥床(おくゆか)ければ、いざや某(それがし)と立合い、その妙手(みょうしゅ)を示すべしと。傍(あたり)に指揮し給い、その用意を儲(もう)けられ、稽古(けいこ)場に入らせ給えば、近習(きんじゅう)の人々、臺右衛門を(しっ)、無益の一句に御気色(きしょく)を損じたり。はやく御詫びをいたし、お相手赦免(しゃめん)を願わるべし。勝劣ともに足下(そっか)のため、悪(あ)しかるべし。
※ 手(しゅ)裏(り) ➜ 手のうち。手中。掌中。
※ 奥床(おくゆか)し ➜ 奥にひそむものに強く心がひかれる。さらによく知りたい。
※ 近習(きんじゅう) ➜ 主君のそば近くに仕える役。近侍。
※ 叱(しっ)す ➜ しかる。(原文は「吃」とあるが、間違い)
※ 気色(きしょく) ➜ 機嫌。気分。
※ 赦免(しゃめん) ➜ 罪や過ちを許すこと。
※ 足下(そっか) ➜ 二人称の人代名詞。同等以下の相手に用いる敬称。貴殿。
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「復讐 天橋立」を読む 19

(散歩道のタカサゴユリ)

午後、「駿遠の考古学と歴史」講座に出席した。30分ほど前に行き、教授のSTさんと、「天正の瀬替え」について話した。今、考えているのは、天正の瀬替えは、実は慶長の瀬替えだったということで、まだまだ仮説の域を出ないが、いずれこのブログで論じてみたい。

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「復讐 天橋立」の解読を続ける。

殿これを聞こし召され、只今次にて我を誹謗(ひぼう)し、あざ笑いたるは、臺右衛門の声と覚ゆるなり。臣下の分際(ぶんざい)として過言(かごん)を吐く奇怪さに、これへ呼べと、気色(けしき)を変えて曰(のたま)いける。御側(そば)の人々、手に汗をにぎり、すわや例の麁忽(そこつ)ものが、また殿の御機嫌を損ないたりと。各(おのおの)顔見合わせ、いかにとも言い出すべき詞もなく、座中ひそまり黙々(もくもく)たり。
※ 誹謗(ひぼう) ➜ 他人を悪く言うこと。そしること。
※ 分際(ぶんざい) ➜ 身分・地位の程度。身のほど。
※ 過言(かごん) ➜ 度を過ぎた言葉。無礼な言葉。
※ 気色(けしき) ➜ 表情や態度に現れた心のようす。顔色。
※ すわや ➜ 突然の出来事に驚いて発する語「すわ」を強めた言葉。
※ 麁忽(そこつ) ➜ 粗忽。軽はずみなこと。そそっかしいこと。軽率。
※ 黙々(もくもく) ➜ 黙っているさま。


されども、大胆不敵の臺右衛門、恐るゝいろなく召しに応じ、御前に罷り出れば、殿大きに急(せ)かせ給う様子にて、その方唯今某(それがし)をさして、身のほどをも知らぬ愚か者なりとさみせしは、緩怠至極(かんたいしごく)の曲者(くせもの)かな。言い開くべき子細(しさい)あらば、速やかに申すべし。
※ さみす(狭みす)➜ 見下げる。軽んじる。
※ 緩怠至極(かんたいしごく) ➜ 無礼なこと、この上ない。
※ 子細(しさい) ➜ 特別の理由。こみいったわけ。


臺右衛門、承り参(さん)候。只今、君の自負(じふ)し給うは、下世話(げせわ)に大名の懐子(ふところこ)とかや申すごとく、英雄才士も(あまね)世塵(せじん)に渡らざれば、この間違いを引き出すことあるものなり。殿すでに諸士と立合い、及ぶもの無きを、自(みずか)らその芸に長じたりと誇り給うは、これ愚かなるの甚だしきなり。その故、家来の身として、主人に仕勝(しか)ち、益なしと、各(おのおの)わざと打ち負け、扨(さて)も殿は天晴(あっぱ)れの手練(しゅれん)、我々が未熟の及ぶところにあらずと、追従(ついしょう)軽薄(けいはく)し、おもねり諂(へつら)うをまことと思召さるゝかや。
※ 下世話(げせわ) ➜ 世間で人々がよく口にする言葉や話。
※ 懐子(ふところこ) ➜ 大事に育てられた子。転じて、世間知らずの子。
※ 普(あまね)く ➜ もれなくすべてに及んでいるさま。広く。一般に。
※ 世塵(せじん) ➜ 世の中の煩わしい雑事。俗事。
※ 手練(しゅれん) ➜ 熟練した手際。よく慣れてじょうずな手並み。
※ 軽薄(けいはく) ➜ 人の機嫌をとること。おせじ。ついしょう。


読書:「鼠草紙 新酔いどれ小籐次 13」 佐伯泰英 著
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「復讐 天橋立」を読む 18

(散歩道のノボタン/一昨日撮影)

午後、掛川古文書講座に出席した。先日来、遠州の各村々の江戸時代の知行関係を調べていたが、どれも断片的で、網羅された資料がなかなか見つからないでいた。講座の先生は郷土史が専門で、村がどの時代に誰が知行していて、石高がどれくらいと、講座の中で説明される。相給もあってかなり複雑なのだが、いったいどんな資料を見れば出ているのか、講座の後、直接に聞いてみた。何年か前、磐田の教育委員会から、それぞれの村の地方文書から調べた、遠州の各知行地と石高の調査資料が、冊子にされていて、それがほとんど唯一の資料だと聞いた。次回、現物を持ってきて下さるという。楽しみである。

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「復讐 天橋立」の解読を続ける。

さすればこの道とて、さまで(むつか)しきものにあらず。稽古だに怠らざれば、その業(わざ)に熟すること、案の外、心易し。大見崎、飯貝の両人せめてわが術(じゅつ)ほど心懸けあらば、たとえ相手鬼神(おにがみ)なりとも、やわか仕負(しま)くることは有るまじきに、近頃残念千万なり。汝等、今より必ずしも怠ることなかれと
※ さまで ➜ それほど。そんなにまで。
※ 案の外(あんのほか) ➜ 予想外。意外。
※ 鬼神(おにがみ) ➜ 荒々しく恐ろしい神。
※ やわか ➜ よもや。まさか。
※ 必ずしも怠ることなかれ ➜ 決して怠ってよい訳ではない。


(ぎょう)の内より、諸士各(おのおの)(ことば)を揃えて申しけるは、誠に若(わか)怜悧(れいり)にわたらせ給うが故に、一を聞きて萬(よろず)しろしめされ、忽(たちま)ち発達し給うこと、我々が短才(たんさい)の及ぶ所にあらずと。追従(ついしょう)謟諛(てんゆ)し、恐れ入りてぞ、居たりける。
※ 仰(ぎょう) ➜ 上を見あげる。あおぐ。
※ 怜悧(れいり) ➜ 頭のはたらきがすぐれていて、かしこいこと。
※ しろしめす ➜(「知る」の尊敬語)知っていらっしゃる。おわかりでいらっしゃる。
※ 短才(たんさい) ➜ 才能が乏しいこと。また、その人。自分の才能をへりくだっていう。
※ 追従(ついしょう) ➜ 他人の気に入るような言動をすること。こびへつらうこと。また、その言動。
※ 謟諛(てんゆ) ➜ 人の気に入るようにふるまうこと。こびへつらうこと。


この時、大見崎臺右衛門、お次の間にありて、殿の自負(じふ)し給うを聞くより、高声に笑い罵(ののし)り申しけるは、扨(さて)も我が殿は、天性聡明叡智の良将と思いつるが、存の外の愚将かな。御身のほどをも顧み給わぬ、大言(たいげん)こそおかしけれ、と横手をうちて笑いけるにぞ。
※ 自負(じふ) ➜ 自分の才能・知識・業績などに自信と誇りを持つこと。
※ 存の外(ぞんのほか) ➜ 思いのほか。存外。
※ 大言(たいげん) ➜ 物事を誇張していうこと。えらぶって大きいことを言うこと。
※ 横手をうつ ➜感心したり、思い当たったりするときなどに、 思わず両方の手のひらを打ち合わす。
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「復讐 天橋立」を読む 17

(散歩道のハナトラノオ/昨日撮影)

俳句に続いて、短歌も詠んでみよう。昨日の夕食で、

  祖父ちゃんの ゴーヤチャンプル 苦くない ネットレシピを そっと隠せり

この際、短歌とは何かなど、難しい話は置いて、五七五七七の数合わせに徹する。当面は、孫が題材になるのだろうか。

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「復讐 天橋立」の解読を続ける。

(すで)にその日も黄昏(こうこん)におよび、藤弥太は院主の饗応にあい、酩酊のうえ心よく風に吹かれて、若党どもとうち語りつゝ、帰路をさして行きける。道の傍らなる木立の陰より、待ち設(もう)けたる大見崎臺右衛門、踊り出て、物をも言わず切り掛けたり。これは、という間もあらばこそ、一刀に切り提(さ)げられ、藤弥太、不期(ふご)にして、(あ)え無き最期(さいご)を遂(と)げにける。
※ 黄昏(こうこん) ➜ 日の暮れかかること。夕暮れ。たそがれ。
※ 不期(ふご) ➜ 意図せぬ。だしぬけ。
※ 敢(あ)え無い ➜ あっけない。もろく、はかない。


すわ狼藉ものと若党、下部(しもべ)が立ち騒ぐ間に、臺右衛門は難なく逃げ延び、先々(まずまず)壱人は討ち留めたり、この上は元伊勢の家臣、大谷木九郎兵衛を仕留(しと)めんとは思えども、彼は容易の敵にあらず、その内手便(てだて)をめぐらし仕形(しかた)こそあらんと、ひと先ず永尾に立ち帰り、さあらぬ(てい)して勤めける。
※ すわ ➜ 突然の出来事に驚いて発する語。そら。さあ。あっ。
※ 狼藉(ろうぜき) ➜ 無法な荒々しい振る舞い。乱暴な行い。
※ 手便(てだて) ➜ 目的を達成するための方法・手段。
※ さあらぬ ➜ なにげない。なにくわぬ。


(さて)もこの永尾家は、城主何がしどの、専ら雅道(がどう)を好ませ給いて、家中おのずから安逸(あんいつ)に慣れ、風雅の道のみ流行して、自然と武道に怠り、扨こそ、大見崎、飯貝の両人不心懸(ふこころが)けにて、かゝる汚名を残せりと。城主をはじめ後悔ありて、これ以後、風流を禁ぜられ、一同武芸を相励むべきよし、仰せ出され、俄かに、一刀流の達人、林田右膳といえるものを召し抱えられ、御師範として、日夜稽古(けいこ)、少しも懈怠(けたい)なく励み給いけるが、
※ 雅道(がどう) ➜ 風雅、風流の道。
※ 安逸(あんいつ) ➜ 気楽に楽しむこと。何もせずのんきに過ごすこと。
※ 風雅(ふうが) ➜ 詩歌・文章の道。また、文芸・書画など芸術一般。
※ 懈怠(けたい) ➜ なまけること。おこたること。怠惰。
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「復讐 天橋立」を読む 16

(散歩道のアブラゼミ)

今年はこれほど暑くなっても、クマゼミのシャン、シャン、シャンと鳴く、かしましい声が少ないような気がする。夕方、散歩途中に、焼け付くようなアブラゼミの声を聞き、姿をカメラでとらえた。エドヒガンの幹には他にもアブラゼミが居るように思えた。当地にはクマゼミがアブラゼミより圧倒的に多いと思っていたから、意外に感じた。何か天候と関連するところがあるのだろうか。

朝から掛川の孫三人を一日預かる。保育士の免許更新講習の最終日。夕方、さすがに疲れたようで、みんなで夕飯を食べて帰った。

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「復讐 天橋立」の解読を続ける。

然るに藤弥太は、この度の一件、老人の比類(ひるい)なき手柄(てがら)なりとて、帰宅のうえ、褒賞(ほうしょう)を賜わり相勤めけるが、今日、御菩提所霊光院といえるに、御使いを蒙(こうぶ)り、供人引き具し立ち出でけるに、大見崎臺右衛門、途中にて行き合い、何心なくこれを見るに、年齢と云い、人品(じんぴん)格好、中禅寺にて聞き糺せし藤弥太によく似たりと、目を配れば、(かれ)が持たせし鑓(やり)の柄(え)、凡そ六尺もあらんと思うほどなれば、扨(さて)こそ紛(まぎ)れなしと大いに悦び、合羽篭(かっぱかご)担(かた)げたる下部(しもべ)に近寄り、これは誰人(だれびと)にてわたらせ給うや、承りたきことありと囁(ささや)き尋ぬるに、下部答えて、当所の侍臣、日下部籐弥太なりという。
※ 比類(ひるい) ➜ それとくらべられるもの。同じたぐいのもの。
※ 褒賞(ほうしょう) ➜ すぐれた行為や作品などをほめたたえること。また、そのしるしとして与える金品。褒美。
※ 人品(じんぴん) ➜ 人としての品格。特に、身なり・顔だち・態度などを通して感じられる、その人の品位。
※ 渠(かれ) ➜ かれ。三人称の代名詞。
※ 合羽篭(かっぱかご) ➜ 大名行列のときなどに、供の人の雨具を入れて下部にになわせた籠。ふたのある二つの籠で、前後を棒でかついだ。
※ 下部(しもべ) ➜ 雑用に使われる者。召使い。
※ わたらせ給う ➜ (「あり」の尊敬語)~で、いらっしゃる。



(「復讐 天橋立」挿絵6)

臺右衛門、天の与えと跳悦(ちょうえつ)し、猶(なお)その跡をしたい行くに、栗原の郷なる霊光院の門内にうち入りければ、頓(やが)てその帰宅を待ち受け、只一刀に討ちて捨てんと、臺右衛門その便りよき所に待ち伏せし、今やおそしと扣(ひか)ゆるにぞ。
※ 跳悦(ちょうえつ) ➜ 跳び上がって喜ぶ。
※ 便(たよ)り ➜ 都合のよいこと。便利なこと。


読書:「走るジイサン」 池永陽 著
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「復讐 天橋立」を読む 15

(庭のムクゲ)

庭のムクゲは根が傷んで、半ば倒れそうに立っているが、花をたくさん咲かせた。風が吹けば倒れそうで、根から新しい芽も大きくなっているから、何時か切らなければならないと思っている。

10時、TSさんとの約束で、吉田町に行く。暑い時期ゆえ、いつもの倉庫は50℃を越えて、とても日中は居れないので、作業は専ら早朝に行うようにしているという。だから、今日は二人して近くの喫茶店に行った。それからお昼まで、2時間ほどお話した。TSさんの自宅は吉田町でも海に近い地域で、東日本大震災後、多くの人たちがもっと内陸へ引っ越して、近辺の地価や家賃が下落し、今は近辺に勤める外国人たちが、借家して住むようになったと話す。古文書に係わる様々な情報交換をして、改めてTSさんの古文書に対する知識の広さに驚かされた。お昼を過ぎて、幾つかの資料を頂いて帰った。

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「復讐 天橋立」の解読を続ける。

〇第二回
当国永尾家の藩中、大見崎貞義が兄に、同苗(どうみょう)、臺右衛門というものあり。きわめて性質狼戻(ろうれい)にして、少年のうちより武芸を励み、心猛々しく我意の槍舞を好み、おのずから柔弱(にゅうじゃく)なることを嫌いけるが、
※ 同苗(どうみょう) ➜ 同じ一族。同族。
※ 狼戻(ろうれい) ➜ 欲深く道理にもとること。
※ 我意(がい) ➜ 自分一人の考え。我流。
※ おのずから ➜ そのもの自体の力、成り行きに基づくさま。自然に。ひとりでに。
※ 柔弱(にゅうじゃく) ➜気力や体質が弱々しいこと。


弟貞義、中禅寺において横死(おうし)せし始末を聞くより、無念骨髄(こつずい)に徹し、そのうえ無宿ものとなりて、末代まで恥辱を残すことを安(やす)からず思い、病気と披露(ひろう)し、勤仕(きんし)を断り、姿をやつして中禅寺に立ち越し、委細のことを聞き糺(ただ)し、そのまま岩屋(谷)の城下にいたり、爰(ここ)かしこ徘徊(はいかい)して、何とぞ便りを求め、弟の敵(かたき)、日下部藤弥太を打ち果(はた)さんと思いこんでぞ居たりける。
※ 横死(おうし) ➜ 殺害されたり、災禍などのため、天命を全うしないで死ぬこと。不慮の死。非業の死。
※ 骨髄(こつずい) ➜ 心の奥。心底。
※ 披露(ひろう) ➜ 広く人に知らせること。世間一般に発表すること。
※ 勤仕(きんし) ➜ 職務・役目をつとめ、つかえること。
※ やつす(窶す)➜(服装を)目立たないようにする。みすぼらしくする。
※ 徘徊(はいかい) ➜ あてもなく、うろうろと歩きまわること。
※ 何とぞ ➜ 手段を尽くそうとする意志を表す。なんとかして。ぜひとも。
※ 便り(たより) ➜ あることをするきっかけ、手がかり。
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「復讐 天橋立」を読む 14

(散歩道のフヨウの花)

フヨウは一日花と言われて、朝咲いて、夕方にはしぼんでしまう。何日も持つように見えるのは、毎日、新しい花が咲いているらしい。散歩した夕方、日は傾けども、まだ高かったけれども、早くもどの花もしぼみかけていた。

数日前から、吉田町のTSさんに連絡を取っていたけれども、スマホが繋がらず、どうかしたかと心配していたが、今日連絡が取れた。どうやら昨日まで地元の神社のお祭りだったようだ。明日、会う約束をした。

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「復讐 天橋立」の解読を続ける。

藤弥太、九郎兵衛が労を謝すれば、おみなおとせも初めて安堵の思いをなし、悦ぶことは限りなし。

さてしも、かゝる騒動、兼ねて所の者どもが訴えにより、代官所の役人ここに来り、始末を具(つぶさ)に聞きとどけ、先ず藤弥太、その外掛かり合いの者ども、今泉方に預け置き、即死の両士は、永尾の家中のよしなれば、急ぎ飛脚を馳せて、その子細を申し遣しけるに、かの方には貞義、丹下が武士にあるまじき段々(だんだん)の始末、殊に両人とも相手に薄手(うすで)も負わせず相果てたる不覚者(ふかくもの)を、家来と云わんは家の恥辱と。
※ 段々 ➜ 事柄の一つ一つ。条々。
※ 薄手(うすで) ➜ 戦いなどで受けた、軽い傷。浅手。
※ 不覚者(ふかくもの) ➜ 臆病な人。卑怯者。また、不覚をとる人。


永尾家にはこの方に於いて、さようの家来曽(かつ)てなしとの返答により、無宿者となりて、藤弥太が切徳(きりどく)、何の故障なく落着におよび、九郎兵衛、殊に褒称(ほうしょう)を得て、面目(めんぼく)を施(ほどこ)ければ、藤弥太も悦喜(えつき)し、再会を約し、既に双方立ち別れて帰宅をぞなしたりける。
※ 切徳(きりどく) ➜ 人を斬っても咎(とが)めを受けないこと。
※ 褒称(ほうしょう) ➜ ほめたたえること。称賛。
※ 面目を施す ➜ 評価を高める。体面・名誉を保つ。
※ 悦喜(えつき) ➜ 非常に喜ぶこと。


去るにても大見崎、飯貝の両人、誠に若気(わかげ)浅智(せんち)にて、藤弥太を殺害し二人の娘を奪い取りて立ち退かんと工(たく)みつるも、終(つい)におのれが身に報いて、人のあざけりにあう種となりぬ。
※ 若気(わかげ) ➜ 若者の、血気にはやる気持ち。
※ 浅智(せんち) ➜ あさはかな知恵のこと。

(第一回 おわり)
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「復讐 天橋立」を読む 13

(金谷図書館前のハナスベリヒユ)

よくお花の名前を知っていますね、と感心されたことがある。もちろん、花の名前に委しいわけではない。写真を撮って帰り、ネットの花の図鑑で調べるのだが、似た花が多い。しかし、似ていてもそれぞれに特徴がある。最近では花を順番に見て行くと、花の方から自分だと手を挙げてくるような気がする。それだけ、花の見方の要領が掴めてきたのであろう。

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「復讐 天橋立」の解読を続ける。

藤弥太、未練なりと振り切りて、正英(しょうおう)に立ち出で、貞義、丹下の両人に向って大音(だいおん)に言うよう、汝等(なんじら)、某(それがし)に対し、何等の遺恨あるにもせよ、足手まといを召し具(ぐ)したる弱みへ附け込み、是悲(非)を論ぜず勝負を望む。心中の(たく)のほども、大方(おおかた)は推察せり。
※ 正英(しょうおう) ➜ ルビから推量して「正央」の間違い?。真っ只中。真正面。
※ 大音(だいおん) ➜ 大きな声。
※ 遺恨(いこん) ➜ 忘れがたい深いうらみ。
※ 工(たく)み ➜ たくらみ。



(「復讐 天橋立」挿絵5)

いでや、誠(まこと)の武士が手並みのほどを見すべきぞと、件(くだん)の鑓(やり)の柄をひっしごき、繰り出す穂先の尖(するど)さに、貞義、はじめの詞(ことば)にも似ず、さんざんに突き立てられ、果ては刀も巻き取られて、差し添えに、手を掛くる所を、何の苦もなく胸先を貫(つらぬ)かれ、そのまま倒れ死したりける。
※ いでや ➜ とにかく。さて。
※ 手並み(てなみ) ➜ 腕前。技量。
※ ひっしごく ➜ ひきしごく。細長いものを握ったり指で挟んだりして、強く押さえつけるようにしながら、その手や指をこするように動かす。
※ 差し添え ➜ 刀に添えて差す短刀。わきざし。


丹下、これを見るより気おくれし、一太刀(ひとたち)も合わせず逃げ出すを、九郎兵衛、得たりと飛鳥(ひちょう)のごとく馳せ付き、丹下が肩先よりあばらをかけて、一刀に斬り倒し、立ち帰れば、見物の諸人(もろびと)さてもしたりや、天晴れ、希代(きだい)手の内やと、感じ合いてぞ、散乱(さんらん)す。
※ 得たり ➜ 事がうまく運んだときや、事をうまくしとげたときに発する語。しめた。うまくいった。
※ さてもしたりや ➜ なんとまあ、うまくやったものだ。
※ 希代(きだい) ➜ 世にもまれなこと。めったに見られないこと。
※ 手の内 ➜ 腕前。手並み。
※ 散乱(さんらん) ➜ 散り乱れること。ちらばること。思い思いに立ち去ること。
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「復讐 天橋立」を読む 12

(金谷図書館脇のアベリア)

アベリアは別名、ハナゾノツクバネウツギという。小さな花だが、この季節、公園などの生垣となって、花をよく見かける。きのう、静岡城北公園でも咲いていた。

午後、YMさんの葬式に参列した。お通夜同様、ホールが参列者で溢れた。

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「復讐 天橋立」の解読を続ける。

猶予(ゆうよ)せば比興(ひきょう)の汚名を蒙(こうぶ)るべしと、藤弥太、身繕いして立ち出でるを、九郎兵衛、袖をひかえて言うよう、卒爾(そつじ)ながら御辺には平生何を鍛錬し給うや。藤弥太聞きもあえず、某(それがし)若冠(じゃくかん)の頃より、六尺の柄の鑓を好みて遣いしゆえ、聊(いささ)か手に覚えあれば、その持鎗(もちやり)だに、ここにあらば、やわか両人のうち、壱人は仕留めんものを、残念なりと、
※ 猶予(ゆうよ) ➜ ぐずぐずして物事を決めないこと。
※ 袖をひかえて ➜ 袖をとらえて。袖をとらえて引きとめて。
※ 卒爾(そつじ)ながら ➜ 突然で失礼だが。
※ 御辺(おへん) ➜ 二人称の人代名詞。 対等以上の相手に、武士などが用いた。 そなた。
※ 聞きもあえず ➜ 聞き終わらないで。
※ 若冠(じゃくかん) ➜ 弱冠。年が若いこと。
※ やわか ➜ どうしても。必ず。



(「復讐 天橋立」挿絵4)

言いも終わらざるに、九郎兵衛、我が持たせし鎗を取りよせ、柄をたぐって六尺に切り折り、さあらば、これにて勝利を得給うべしと、藤弥太に与えければ、藤弥太小踊りして押し頂き、今泉が玄関先に馳せ出れば、待ちもうけたる大見崎貞義、飯貝丹下、各(おのおの)厳重に出で立ち、悠然(ゆうぜん)と立ち向えば、見物の老若、門前に押し合い/\、上を下へと騒動す。
※ 悠然(ゆうぜん) ➜ 物事に動ぜず、ゆったりと落ち着いているさま。

かゝる騒ぎに、おみな、おとせは一心癲狂(てんきょう)せしごとく、馳せ来りて、藤弥太が袂(たもと)にすがり、詞(ことば)も出ず泣き入りけるを、九郎兵衛これを押しなだめて、さまで思うは理(ことわり)ながら、もの数ならねど、某(それがし)後援となり附き添ううえは、決して老体に虚事(きょじ)、過(あやま)ちはあるまじきなり。かまえて気遣いなく給いそ、と力を付くれど、退(ひき)もやらず、左右に取りつき放さばこそ。
※ 癲狂(てんきょう) ➜ 狂気。ものぐるい。
※ 虚事(きょじ) ➜ むなしいこと。空虚なこと。
※ かまえて ➜ 決して。
※ 退(ひき)もやらず ➜ 退くこともしないで。


読書:「下町やぶさか診療所」 池永陽 著
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「復讐 天橋立」を読む 11

(静岡市中央図書館館内)

午後、駿河古文書会に出席した。この暑さからか、出席者がやゝ少なかった。発表担当のM会長が体調不良で欠席され、急遽、N副会長がピンチヒッターで担当された。この酷暑は老齢の会長には相当のダメージだったのだろう。お互いに、何とかこの夏を無事に乗り切りたいものである。

夕刻、女房と、YMさんのお通夜に行く。長く教職にあり、地区の旧家でもあったYMさん故か、会場のホールは、参列者が溢れんばかりで、驚かされた。家族葬が普通になってきた現代、これだけ参列者が多い通夜は初めてであった。明日の葬式も、同じホールであるが、参列者を収容しきれるであろうか。

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「復讐 天橋立」の解読を続ける。

藤弥太、聞きて、御芳志(ほうし)過分(かぶん)には存ずれども、助太刀の事は御断り申すなり。いかに我れら老衰したればとて、後援を頼みて仕合したりと言われんも、口惜しければ、只それよりも娘どもの身の上、おしてお頼み申したし。
※ 芳志(ほうし) ➜ 相手の親切な心遣い(気持ちを敬っていう語)。
※ 過分(かぶん) ➜ 分に過ぎた扱いを受けること(謙遜しながら感謝を表す場合に)。


九郎兵衛いう。いやとよ、それはいわれざる斟酌(しんしゃく)なり。相手は両人、御身は壱人、殊更(ことさら)老体と言い、比興(ひきょう)は十分さきにあり。かかる無謀の奴原(やつばら)がために、一命を失うは、寔(まこと)に犬死(いぬじに)同前なり。しからば好んで命を捨てる期(ご)にあらず。
※ いやとよ ➜ (感動詞)いや、そうではない。いやいや。
※ 斟酌(しんしゃく) ➜ 相手の事情や心情をくみとること。また、くみとって手加減すること。
※ 比興(ひきょう) ➜ 卑怯。正々堂々としていないこと。
※ 奴原(やつばら) ➜ 複数の人を卑しめていう語。やつら。


能々(よくよく)勘考(かんこう)あるべしと、しきりに諌め進めれども、なお藤弥太は性質堅く、ただ幾たびも助太刀の儀は用捨あるべし、心がかりは女どもの儀、強いて頼み入るなりと、ゆっつかえしつ、互いの論談(ろんだん)果てしなく、さてしも夕陽(せきよう)西に傾き、既に時刻になん/\とす
※ 勘考(かんこう) ➜ よく考えること。思案。
※ ゆっつかえしつ ➜ 行ったり来たりをくりかえすこと。
※ 論談(ろんだん) ➜ 物事の是非・善悪を論じ述べること。
※ さてしも ➜ 「さて」を強めた語。それにしても。
※ なん/\とす ➜ まさになろうとする。
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