ほそかわ・かずひこの BLOG

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人権13~生命と人間

2012-09-29 13:49:03 | 人権
●生命と人間

 今日、人間の尊厳の基礎づけは、生命から考察する必要があると私は思う。世界人権宣言をはじめ国際人権規約、あるいは地域的なものである欧州人権条約、米州人権条約、アフリカ人権憲章のどの人権条約も、すべての個人が生命に対する権利をもっていることを規定している。そして生命に対する権利をすべての人権のリストの冒頭に置いている。それゆえ、人間の尊厳の基礎づけには、生命の考察から始めなければならない。
 たとえば、国際人権規約の自由権規約は、第6条1項に次のように定める。「すべての人間は、生命に対する固有の権利を有する。この権利は、法律によって保護される。何人も、恣意的にその生命を奪われない。」
 自由権規約委員会は、この条文に定める生命権を、「人間の至高の権利(the supreme right of the human being)」であり、「すべての人権の基礎である」と評価している。
 確かに人は生命を奪われるとすべての権利を失う。したがって、生命に対する権利は、最も基礎的な権利である。自由権規約は、第4条1項にて国家の緊急事態の時は、条約で保障する権利のいくつかについてその効力を一時的に停止することを認めている。これを国家の derogation の権利と言う。derogation は効力停止あるいは条約上の義務からの離脱を意味する。だが、生命権は、緊急時であっても効力を停止できない権利 non-derogable right とされている。
 生命権は、生命の価値を認め、これを権利として保障しようとするものである。生存権ともいう。確かに人間の尊厳は生命の尊厳に基づくことは間違いない。だが、人間は他の生物を食料として摂取することによってのみ、生存することができる。もしすべての生命に尊厳があるとし、それを尊重するならば、人間は他の生物を食することができず、絶滅するしかないだろう。ベジタリアン(菜食主義者)は動物を食料にするのはいけないが、植物なら食料にしてよいと考えるが、これも生命の尊厳という考えとは矛盾する。それゆえ、人間にとって貴いのは、生命一般ではなく、人間的生命であることを認めねばならない。他の動物・植物等の生命に価値を認めるとしても、人間的生命とは区別し、人間は自らの生命を相対的に価値の高いものと暗黙の裡にみなしているのである。
 ただし、人間的生命に尊厳を認めるとしても、私はこの尊厳は絶対的なものではないことを認識する必要があると思う。人間は、国家や社会の秩序を守るために、規範に従って人の生命を奪うことがある。犯罪者の処刑や戦争における敵の殲滅がそうである。他人の生命を救うために、自らの生命を懸けることもある。親が子を守る時、軍人が国を守る時などがそうである。また、人間は、より価値のあるもののために、生命を捧げることもある。誇りや名誉のために、命を捨てる場合がそうである。それゆえ、生命は大切な、価値あるものではあるが、絶対的なものではない。相対的な価値である。そうした生命の尊厳を絶対的な価値として、人間の尊厳を説くならば、矛盾を生じ、欺瞞となりさえする。
 それゆえ、生命的な価値以外に、人間の尊厳を根拠づける価値が必要である。人間は生命ある存在というだけなら、他の生物と同じであるが、知恵と自由を持ち、文化を創造し、発展させるものである点に特徴がある。それゆえ、文化の創造・発展に価値を置き、その価値を人間の尊厳の根拠とすることができる。ここで文化とは、人間の社会の持つ生活・活動の総体、つまり慣習・知識・制度・科学・芸術等を意味する。
 私は、生命的価値と文化的価値を合わせて、人間の尊厳を考えるべきだと思う。文化には、物質面と精神面がある。すなわち、大まかに言って、経済・科学・技術などの外面的・物質的所産と宗教・道徳・芸術などの内面的・精神的所産がある。前者を物質文化、後者を精神文化と呼ぶならば、文化的価値には、物質文化的価値と精神文化的価値がある。略して物質的価値、精神的価値ともいう。私は、これらの価値の間に、「生命的価値<物質的価値<精神的価値」という三つの段階があると考える。
 精神とは、理性だけでなく感性を含み、また霊性・徳性を孕むものである。理性的・感性的かつ霊性的・徳性的な精神の働きが生み出す価値が、精神的価値である。ここで先に述べた人格という概念を用いるならば、この精神的価値を実現し、体得するものが、人格である。人間に人格を認め、人格の形成・成長・発展をめざすことは、精神的な価値を認め、個人における精神的価値の増大をいうものである。私は、生命的・物質的・精神的という重層的な価値を創造するものとして、人間をとらえ、そこに人間の尊厳を基礎づけたいと思うのである。

 次回に続く。

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