●尊称保持案とは
現在浮上している尊称保持案は、女性宮家創設に伴う問題点を解決し得るものと考えられている。尊称保持案は、女性皇族が婚姻により皇籍離脱した後もご公務を担えるよう、内親王・女王などの尊称の保持を可能とする案である。
女性皇族が婚姻後も尊称を保持することにより、皇籍離脱してもご公務を担える立場にあることを公的に保障する。皇族としての経験を生かし、婚姻後も皇室活動を継続して、天皇家を支えていただくことができる。皇室活動を続けられるようこれに伴う費用や住居については、支出を保障する必要がある。皇室御用掛(仮称)、宮内庁参与等の役職についていただくという案も出ている。
尊称保持であれば、身分は民間人であり、戸籍は配偶者の籍に入る。子供も民間人として家族の一体性が保たれる。女系天皇につながらず、皇室の男系継承の伝統を崩壊させる恐れはない。
尊称保持案は、歴史的前例にならう方法である。旧皇室典範は、第44条に次のように定めていた。
「皇族女子ノ臣籍ニ嫁シタル者ハ皇族ノ列ニ在ラス但シ特旨ニ依リ仍内親王女王ノ称ヲ有セシムルコトアルヘシ」
大意は、「皇族女子が臣籍の者と結婚した場合は、皇族の列から外れる。但し、特旨により、その内親王・女王の呼称を持つ場合がある」ということである。
伊藤博文の『皇室典範義解』に、この条文について、次のように書かれている。「恭(つつしみ)で按ずるに、女子の嫁する者は各々夫の身分に従ふ。故に、皇族女子の臣籍に嫁したる者は皇族の列に在らず。此に臣籍と謂へるは専ら異姓の臣籍を謂へるなり。仍内親王又は女王の尊称を有せしむることあるは、近時の前例に依るなり。然るに亦必ず特旨あるを須(ま)つは、其の特に賜へるの尊称にして其の身分に依るに非ざればなり」
大意は、「慎んで思うに、女子で婚姻する者は、それぞれその夫の身分に従う。故に皇族女子が臣籍の者と結婚した場合は、皇族の列から外れる。ここに臣籍というのは、専ら異姓の臣籍をいう。その内親王または女王の尊称を持つことがあるとは、近時の前例によるものである。然るにまた必ず特旨を必要とするのは、その特に賜る尊称であり、その身分によるものではないからである」ということである。
特旨とは、天皇の特別の思し召しである。日本国憲法のもとにおいても、現行位階令に特旨叙位がある。
尊称保持案も皇室典範の改正を要する。旧皇室典範第44条の条文の主旨を踏まえた条文を新設することになるだろう。天皇から特旨を賜るのか、行政の会議体で決するのか、皇室会議で決するのか、制度設計が必要である。
尊称保持の歴史的前例には、朝鮮王朝の皇太子・李垠の妃妃となった梨本宮方子女王殿下の例がある。
尊称保持であれば、女性宮家を創設しなくとも、女性皇族のご公務分担が可能となる。その点で私も賛成だが、ただし、この方策が採られても現在いらっしゃる女性皇族が婚姻後もご公務を担うことができるというだけである。女性皇族一代限りのことであり、一時的な方策に過ぎない。
●根本的な改善策を断行すべし
政府は現在、一代限りの女性宮家創設と尊称保持の二案を検討しているという。政府は、こうした方策を皇位継承問題と切り離して実現しようとしている。尊称保持の方がよいが、いずれも当面の皇族のご公務分担の軽減や皇室活動の維持を図るものにすぎない。有益ではあるが、根本的な改善にはならない。
平成18年9月6日、悠仁親王殿下が誕生された。殿下は本日6歳になられた。今後、皇太子殿下に男子が誕生されなければ、やがて悠仁様が皇位を継承することになるだろう。おそらく30~40年後のことだろう。今のままではその時、皇族の数は極く少なくなっている。仮に尊称保持策を採ったとしても、現在8名おられる未婚の女性皇族が、みな民間人と結婚されれば、一代限りでお役目を終える。最悪の場合、男系男子の皇族は悠仁親王殿下お一人となる。この方策では、いずれ皇統の安定的な継承は困難になることは、明白である。そこで皇室の繁栄と皇位の安定的継承を可能とする方策こそが求められているのである。政府も有識者も国会議員もしっかりと将来をみすえ、根本的な改善に取り組んでもらいたい。
私は、男系による皇位継承を保持し、かつ皇族の数を確保する方策は、第一に旧皇族の男系男子孫の皇籍復帰、第二に皇族が旧皇族男系男子孫に限って養子を取ることを許可することであると考える。女性宮家創設については、旧皇族の男系男子孫との婚姻の場合に限るべきである。
皇統の血筋を引く元皇族男系男子孫が、皇籍復帰、皇族との養子、女性皇族との婚姻などの方策によって、男系男子皇族となる制度を整えば、皇族の人数は増加し、かつ安定的な皇位継承が可能になる。これを旧皇族活用策と呼ぶとすれば、旧皇族活用策以外に、皇室の繁栄と皇位の安定的継承を可能とする根本的な改善策はない。旧皇族の活用を先送りすれば、皇室の命運は先細りする。だが、いまこの根本的改善策を実施すれば、悠仁親王殿下が皇位を継承される将来、天皇を支える宮家が数家維持されて、皇室の弥栄は確かなものとすることができる。
皇室の将来に関し、一時的な方策は根本的な改善にならず、先送りは先細りである。目の前に最善にして最も確実な方策がある。国民の英知を結集して、その方策を断行すべきである。
以下は関連する報道記事。
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●産経新聞 平成24年6月28日
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120628/plc12062801370000-n1.htm
女性皇族は尊称保持 皇室典範改正の柱に 政府方針
2012.6.28 01:37
皇室典範改正をめぐり、政府は27日、女性皇族が結婚後も「内親王」などの尊称を保持し、公務を継続できるようにすることを改正案の柱に位置付ける方針を固めた。女性皇族が結婚後も皇室にとどまる「女性宮家」創設には「女系天皇容認につながる」として反対論が強いことから妥協案として浮上した。天皇、皇后両陛下のご負担軽減や、将来にわたる皇室活動の維持発展にもつながるため、政府は年末までに改正案をまとめ、来年の通常国会提出を目指す。
現行の皇室典範では、女性皇族のうち天皇の子、孫を「内親王」、ひ孫以下を「女王」と規定。女性皇族は、皇族以外の人と結婚すれば皇室を離れ、夫の姓を名乗ることになっている。
新たな改正案は、女性皇族は、結婚しても、内親王や女王の尊称を保持し、皇室の公務を続けることができるようにする。この際、身分を終生皇族とするか、民間とするかどうかが今後の議論の焦点となる。
当初の典範改正の目的である女性宮家創設に関しては今後も検討を続けるが、政府内では「尊称保持を先行させた方が円滑に改正できる」として先送りすべきだとの意見もある。
また、天皇陛下の長女で結婚後、民間人となった黒田清子さんの皇族復帰に関しては、皇室典範改正だけでなく新規立法の必要があるため見送る公算が大きい。戦後、皇籍離脱を余儀なくされた旧11宮家の復帰や、旧宮家の男系男子を養子に迎えられる制度改正も先送りとなる見通し。
女性宮家創設に関しては、女性皇族が一般男性と結婚し宮家を創設した場合、子供が史上例のない女系皇族となるため、男系継承堅持を求める慎重派は「女系天皇容認につながる」と反発してきた。
政府が実施している有識者ヒアリングでも、ジャーナリストの櫻井よしこ氏は「皇室の本質を根本から変えかねない」と反対を表明、百地章日本大教授らも異議を唱えた。
ただ、櫻井氏も女性皇族の尊称保持については「皇室の未来に明るいエネルギーを注入する」と賛意を表明。百地氏も明治憲法下の旧皇室典範でも称号保持が認められていたことを理由に賛意を示した。
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現在浮上している尊称保持案は、女性宮家創設に伴う問題点を解決し得るものと考えられている。尊称保持案は、女性皇族が婚姻により皇籍離脱した後もご公務を担えるよう、内親王・女王などの尊称の保持を可能とする案である。
女性皇族が婚姻後も尊称を保持することにより、皇籍離脱してもご公務を担える立場にあることを公的に保障する。皇族としての経験を生かし、婚姻後も皇室活動を継続して、天皇家を支えていただくことができる。皇室活動を続けられるようこれに伴う費用や住居については、支出を保障する必要がある。皇室御用掛(仮称)、宮内庁参与等の役職についていただくという案も出ている。
尊称保持であれば、身分は民間人であり、戸籍は配偶者の籍に入る。子供も民間人として家族の一体性が保たれる。女系天皇につながらず、皇室の男系継承の伝統を崩壊させる恐れはない。
尊称保持案は、歴史的前例にならう方法である。旧皇室典範は、第44条に次のように定めていた。
「皇族女子ノ臣籍ニ嫁シタル者ハ皇族ノ列ニ在ラス但シ特旨ニ依リ仍内親王女王ノ称ヲ有セシムルコトアルヘシ」
大意は、「皇族女子が臣籍の者と結婚した場合は、皇族の列から外れる。但し、特旨により、その内親王・女王の呼称を持つ場合がある」ということである。
伊藤博文の『皇室典範義解』に、この条文について、次のように書かれている。「恭(つつしみ)で按ずるに、女子の嫁する者は各々夫の身分に従ふ。故に、皇族女子の臣籍に嫁したる者は皇族の列に在らず。此に臣籍と謂へるは専ら異姓の臣籍を謂へるなり。仍内親王又は女王の尊称を有せしむることあるは、近時の前例に依るなり。然るに亦必ず特旨あるを須(ま)つは、其の特に賜へるの尊称にして其の身分に依るに非ざればなり」
大意は、「慎んで思うに、女子で婚姻する者は、それぞれその夫の身分に従う。故に皇族女子が臣籍の者と結婚した場合は、皇族の列から外れる。ここに臣籍というのは、専ら異姓の臣籍をいう。その内親王または女王の尊称を持つことがあるとは、近時の前例によるものである。然るにまた必ず特旨を必要とするのは、その特に賜る尊称であり、その身分によるものではないからである」ということである。
特旨とは、天皇の特別の思し召しである。日本国憲法のもとにおいても、現行位階令に特旨叙位がある。
尊称保持案も皇室典範の改正を要する。旧皇室典範第44条の条文の主旨を踏まえた条文を新設することになるだろう。天皇から特旨を賜るのか、行政の会議体で決するのか、皇室会議で決するのか、制度設計が必要である。
尊称保持の歴史的前例には、朝鮮王朝の皇太子・李垠の妃妃となった梨本宮方子女王殿下の例がある。
尊称保持であれば、女性宮家を創設しなくとも、女性皇族のご公務分担が可能となる。その点で私も賛成だが、ただし、この方策が採られても現在いらっしゃる女性皇族が婚姻後もご公務を担うことができるというだけである。女性皇族一代限りのことであり、一時的な方策に過ぎない。
●根本的な改善策を断行すべし
政府は現在、一代限りの女性宮家創設と尊称保持の二案を検討しているという。政府は、こうした方策を皇位継承問題と切り離して実現しようとしている。尊称保持の方がよいが、いずれも当面の皇族のご公務分担の軽減や皇室活動の維持を図るものにすぎない。有益ではあるが、根本的な改善にはならない。
平成18年9月6日、悠仁親王殿下が誕生された。殿下は本日6歳になられた。今後、皇太子殿下に男子が誕生されなければ、やがて悠仁様が皇位を継承することになるだろう。おそらく30~40年後のことだろう。今のままではその時、皇族の数は極く少なくなっている。仮に尊称保持策を採ったとしても、現在8名おられる未婚の女性皇族が、みな民間人と結婚されれば、一代限りでお役目を終える。最悪の場合、男系男子の皇族は悠仁親王殿下お一人となる。この方策では、いずれ皇統の安定的な継承は困難になることは、明白である。そこで皇室の繁栄と皇位の安定的継承を可能とする方策こそが求められているのである。政府も有識者も国会議員もしっかりと将来をみすえ、根本的な改善に取り組んでもらいたい。
私は、男系による皇位継承を保持し、かつ皇族の数を確保する方策は、第一に旧皇族の男系男子孫の皇籍復帰、第二に皇族が旧皇族男系男子孫に限って養子を取ることを許可することであると考える。女性宮家創設については、旧皇族の男系男子孫との婚姻の場合に限るべきである。
皇統の血筋を引く元皇族男系男子孫が、皇籍復帰、皇族との養子、女性皇族との婚姻などの方策によって、男系男子皇族となる制度を整えば、皇族の人数は増加し、かつ安定的な皇位継承が可能になる。これを旧皇族活用策と呼ぶとすれば、旧皇族活用策以外に、皇室の繁栄と皇位の安定的継承を可能とする根本的な改善策はない。旧皇族の活用を先送りすれば、皇室の命運は先細りする。だが、いまこの根本的改善策を実施すれば、悠仁親王殿下が皇位を継承される将来、天皇を支える宮家が数家維持されて、皇室の弥栄は確かなものとすることができる。
皇室の将来に関し、一時的な方策は根本的な改善にならず、先送りは先細りである。目の前に最善にして最も確実な方策がある。国民の英知を結集して、その方策を断行すべきである。
以下は関連する報道記事。
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●産経新聞 平成24年6月28日
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120628/plc12062801370000-n1.htm
女性皇族は尊称保持 皇室典範改正の柱に 政府方針
2012.6.28 01:37
皇室典範改正をめぐり、政府は27日、女性皇族が結婚後も「内親王」などの尊称を保持し、公務を継続できるようにすることを改正案の柱に位置付ける方針を固めた。女性皇族が結婚後も皇室にとどまる「女性宮家」創設には「女系天皇容認につながる」として反対論が強いことから妥協案として浮上した。天皇、皇后両陛下のご負担軽減や、将来にわたる皇室活動の維持発展にもつながるため、政府は年末までに改正案をまとめ、来年の通常国会提出を目指す。
現行の皇室典範では、女性皇族のうち天皇の子、孫を「内親王」、ひ孫以下を「女王」と規定。女性皇族は、皇族以外の人と結婚すれば皇室を離れ、夫の姓を名乗ることになっている。
新たな改正案は、女性皇族は、結婚しても、内親王や女王の尊称を保持し、皇室の公務を続けることができるようにする。この際、身分を終生皇族とするか、民間とするかどうかが今後の議論の焦点となる。
当初の典範改正の目的である女性宮家創設に関しては今後も検討を続けるが、政府内では「尊称保持を先行させた方が円滑に改正できる」として先送りすべきだとの意見もある。
また、天皇陛下の長女で結婚後、民間人となった黒田清子さんの皇族復帰に関しては、皇室典範改正だけでなく新規立法の必要があるため見送る公算が大きい。戦後、皇籍離脱を余儀なくされた旧11宮家の復帰や、旧宮家の男系男子を養子に迎えられる制度改正も先送りとなる見通し。
女性宮家創設に関しては、女性皇族が一般男性と結婚し宮家を創設した場合、子供が史上例のない女系皇族となるため、男系継承堅持を求める慎重派は「女系天皇容認につながる」と反発してきた。
政府が実施している有識者ヒアリングでも、ジャーナリストの櫻井よしこ氏は「皇室の本質を根本から変えかねない」と反対を表明、百地章日本大教授らも異議を唱えた。
ただ、櫻井氏も女性皇族の尊称保持については「皇室の未来に明るいエネルギーを注入する」と賛意を表明。百地氏も明治憲法下の旧皇室典範でも称号保持が認められていたことを理由に賛意を示した。
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