ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

米大統領候補ロムニーの日本知らず

2012-09-28 08:48:43 | 国際関係
 尖閣諸島を巡って日中間の緊張が強まり、日米同盟の緊密化が一層求められる情勢である。その一方、泥沼化した普天間基地の移設問題や安全性の懸念が指摘されるオスプレイの配備問題など、日米間には解決すべき問題が多くある。それゆえ、米国大統領は、わが国に対する強い関心と正しい理解を持つ人物であることが望ましい。
 本年11月6日、アメリカ大統領選挙が行われる。8月28日、共和党はロムニーを大統領選の候補者に正式指名した。続いて民主党は9月6日、再選を目指すオバマ大統領を候補者に正式指名した。予想通り、オバマ対ロムニーの決戦となる。
 今回の選挙について、私は、拙稿「オバマVSロムニー~2012年米国大統領選挙の行方」を書き、7月4日からマイサイトに掲載している。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12m.htm
 そこに書いたことの一つに、オバマとロムニーの対日本政策の比較がある。オバマが日本を重視するのに対し、ロムニーは日本への関心が低く、むしろ批判的な態度がうかがわれる。ロムニーの公式ウェブサイトで、外交・安全保障政策について日本への言及は3カ所しかない。それは「中国・東アジア」という項目においてで、内容のほとんどは中国に関する論述。その中で日本への言及は、「30年間で中国は目覚ましい成長を遂げ、日本を追い越して世界第2の経済大国になった」という部分。次いで、対北朝鮮政策に関して「われわれの緊密な同盟国である韓国と日本」「韓国と日本との関係を活性化させるには」と韓国の次に国名を並べただけ。日本そのものについては、具体的に書いていない。こうしたロムニーの日本に対する姿勢を、ウォールストリート・ジャーナル紙は「穏やかに軽視」と書いた。
 ロムニーは平成22年(2010)に『ノー・アポロジー(謝罪せず)』という直を出しており、そこには、「米国がアジアへの関与を弱めると日本が信じるなら、米国との距離を遠ざけるものであり、中国と同盟せざるを得なくなるだろう」「(日本は)1970年代に米国の自動車メーカーと性能や低価格で競争をしておいしい思いをした」「2005年型の赤いマスタングのオープンカーの格好よさとうなるようなエンジン音に匹敵するものは、日本から生まれていない」などと書いているという。
 こうした文章から受ける印象は、ロムニーは、日本についてほとんど知識がなく、日本はビジネスの競争相手という意識があるだけで、アジア太平洋における重要な同盟国という理解を持っていないのではないか、という疑問である。もしロムニーが次期大統領になった場合、日本への理解を深め、日米関係の重要性に目覚めないと、日本にとってもアメリカにとってもマイナスの事態を生じるだろう。そして、それこそ中国を利することになるだろう。特に尖閣諸島の戦略的重要性を理解することが重要である。私は、先の拙稿にこのように書いた。
 報道によると、ロムニーは8月9日、ニューヨークで開いた資金集めパーティーで、「われわれは日本ではない。10年あるいは1世紀にわたる衰退と苦難に陥っている国にはならない」と述べ、オバマ政権下では日本と同様に米国は没落すると強調したという。オバマ政権を批判する材料として日本を例に挙げたものだが、わが国に対する無知をさらけ出している。発言を伝えた米国の政治関連サイトには「同盟国日本への侮辱だ」「日本の歴史に対する理解が極めて不正確」などと批判の投書が相次いでいるという。過去10年ないし20年というなら、確かにが国は「衰退と苦難」に陥っている。だが、わが国を「1世紀にわたる衰退と苦難に陥っている国」と言うのは、間違いも甚だしい。ロムニーは、日本の歴史についてごく基本的な知識もないようである。これがアメリカの大統領になるかもしれない人物かと思うと、首をかしげる。共和党には、もっとまともな候補はいなかったのだろうか。

 ところで、先の拙稿には、ロムニーの外交・安全保障のスタッフとブレーンについて書いたが、ロバート・ゼーリック前世界銀行総裁が、ロムニーの政権移行チームの外交・安全保障問題担当となり、共和党内外に波紋を広げているという。
 ゼーリックは、ブッシュ子政権では約4年間、米通商代表部(USTR)代表を務め、その後、国務副長官に転じ、約1年半、米国外交の実務に携わった。CFRの会員であり、ネオコンの一人である。ビルダーバーグ・クラブは、ブッシュ子政権時代、ネオコンを毎年会議に招いたが、ゼーリックも会議に招かれている。
 ゼーリックは、ゴールドマン・サックスの社員時代には、対中ビジネスの拡大に努めた。米通商代表部(USTR)代表になると、中国の世界貿易機関(WTO)加盟を推進した。また国務副長官時代には、中国に国際社会での責任を果たさせるために、ブッシュ子政権がそれまで中国を「戦略的競争相手」と位置づけていたのをやめ、「責任ある利害共有者」に転換することを提唱した。その一方、日本との次官級戦略対話には一度も応じず、「親中派のパンダ外交」と揶揄(やゆ)された。
 国務副長官を退職後は、再びゴールドマン・サックスに雇用され、同社の国際戦略部のマネージング・ディレクター兼代表となった。その後、2007年7月世界銀行の総裁となり、本年6月に退任した。世銀総裁時代には、台湾出身ながら中国本土で経済学の権威として活躍した林毅夫氏を上級副総裁兼主任エコノミストに抜擢した。国際通貨基金(IMF)の副専務理事も中国が獲得したが、いずれも中国政府の強い後押しがあったとされる。
 このようにゼーリックは、ネオコンでありながら、米資による中国ビジネスの強力な推進者である。こうした人物が、ロムニーの政権移行チームの外交・安全保障問題担当となっている。ロムニーが大統領になった時は、当然政府高官に指名されるだろう。ロムニーは中国を為替操作国に認定することを公言し、軍事面でも太平洋地域で米国の強い軍事力を維持するとして対中強硬路線を表明している。だが、過去の米国歴代政権には一面で対中強硬路線を取りながら、ビジネスでは中国でのビジネス・チャンスを拡大した例がある。またゴールドマン・サックスのような私企業は米国政府に多くの人材を送り、政府そのものを経済活動に利用してきている。ロムニー政権が実現した場合、こうした前例に似た政権となる可能性が出てきている。

 オバマVSロムニーの戦いは、現時点では接戦と見られるが、ロムニーがやや優勢という世論調査もある。もしロムニーが次期大統領になった場合、彼の日本への関心の低さとスタッフのネオコンと中国への傾きが、日本と世界にとって大きなマイナスにならないよう、今後是正されることを願うところである。

 以下は関連する報道記事。

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●産経新聞 平成24年8月10日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/120810/amr12081019420002-n1.htm
【米大統領選】
ロムニー氏「日本は1世紀にわたる衰退の国」
2012.8.10 19:41 [米国]

 【ワシントン=佐々木類】米大統領選で共和党候補に内定しているロムニー前マサチューセッツ州知事(65)が9日、ニューヨーク市で開いた資金集めパーティーで、オバマ政権を批判する材料として日本を例に挙げ、「われわれは日本ではない。10年あるいは1世紀にわたる衰退と苦難に陥っている国にはならない」と述べ、オバマ政権下では日本と同様に米国は没落すると強調した。米政治関連サイトが一斉に報じた。
 ロムニー氏は、「(オバマ政権がスタートした)過去3年間とはまったく違った経済の苦境に立たされている」とも述べた。発言を伝えたサイトの中には「同盟国日本への侮辱だ」「日本の歴史に対する理解が極めて不正確」などと批判の投書が相次いでいる。
 ロムニー氏の失言は今に始まったわけではなく「わたしは従業員を解雇するのが好きだ」「わたしも失業者だ」などと“金満家”的な失言が身内の共和党からも批判されたばかり。
 ロムニー氏はつい最近も資金集めの外遊先で、「英国は五輪開催において準備不足」「エルサレムはイスラエルの首都」と発言するなど、英国はじめ米国内からも「外交音痴」(オバマ陣営)と懸念する声が出ていた。
 ロムニー氏は2010年に出版した自著「ノー・アポロジー(謝罪せず)」でも、「日本と違って、米国は失敗を恐れない」「米国がアジアへの関与を弱めると信じるならば、日本は中国と同盟せざるを得なくなるだろう」と語っていた。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/120811/amr12081100070000-n1.htm
【米大統領選】
波紋広げる対中姿勢 ゼーリック前世銀総裁がロムニー選対入り 
2012.8.11 00:06

 【ワシントン=佐々木類、柿内公輔】ゼーリック前世界銀行総裁が、ロムニー前マサチューセッツ州知事(65)の政権移行チームに非公式に加わっていることが判明、共和党内外に波紋を広げている。ロムニー選対幹部が米外交専門サイト「ザ・ケーブル」に明らかにした。
 ゼーリック氏が就任したのは、ロムニー選対が9月に設置予定の政権移行チーム内の外交・安全保障問題担当。同氏は今年6月に世銀総裁を退任後、ハーバード大の上級研究員に転身したが、「総裁在任中からロムニー政権下での国務長官ポストを狙って猟官運動をしていた」(ロムニー選対関係者)という。
 ゼーリック氏の重要ポストへの起用に否定的な見方が出ているのは、国務副長官時代にみせた「現実主義者」という顔のほか、「親中派」として知られ、対中強硬路線を支持する共和党タカ派に「忌み嫌われる存在」(米紙ワシントン・ポスト)であるためだ。
 同氏はブッシュ政権で国務副長官を務めていた2006年、中国に国際社会での責任を果たさせるために、従来の「戦略的競争相手」というブッシュ政権1期目の方針を転換。本来は経済用語の「責任ある利害共有者」という新たな概念を提唱する一方、日本との次官級戦略対話には一度も応じず、「親中派のパンダ外交」と揶揄(やゆ)された。
 世銀総裁時代、台湾出身ながら中国本土で経済学の権威として活躍した林毅夫氏を上級副総裁兼主任エコノミストに抜擢。国際通貨基金(IMF)の副専務理事も中国が獲得したが、いずれも中国政府の強い後押しがあったとされる。
 ゼーリック氏は、米金融大手ゴールドマン・サックス時代、対中ビジネスの拡大に努め、ブッシュ政権の1期目は米通商代表部(USTR)代表として中国の世界貿易機関(WTO)加盟を推進した。
 一方、ロムニー氏は為替問題で「中国を為替操作国に認定する」と述べ、軍事面で「太平洋地域で米国の強い軍事力を維持する」と対中強硬路線を表明。「ゼーリック氏とは対中政策でソリが合わない」(選対幹部)との観測もある。
 ただ、今年2月に世銀総裁として訪中した際、経済政策の転換を厳しく迫る報告書を発表。ロムニー政権入りを視野に「親中派」イメージの払拭を図ったともみられており、ゼーリック氏の差配が注目される。
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