ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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救国の経済学15~丹羽春喜氏

2011-06-09 08:50:13 | 経済
●フリードマンのマネタリズムは間違っていた

 ミルトン・フリードマンは、「アグレッシブな反ケインズ主義で知られるシカゴ学派の頭領」であり、「全世界的に、一時は、きわめて大きな影響力を持った著名な経済学者」だったと丹羽氏は言う。
 丹羽氏は、ハイエクよりもフリードマンを強く批判している。その批判は、主にフリードマンのマネタリズム、恒常所得仮説、変動相場制擁護論に向けられている。そこで、これら3点を中心に、丹羽氏の所論を概観したい。
 第一に、マネタリズムへの批判である。1970年代から1980年代前半にかけて、フリードマンが提唱したマネタリズムが、新古典派経済学の中で主要な役割を演じた。新古典派は、貨幣の価値は貨幣の数量によって決まるという貨幣数量説を説く。フリードマン流のマネタリズムは、この貨幣数量説の現代版である。マネタリズムは、丹羽氏によると「ケインズ的な財政政策を排して、マクロ政策は金融政策のみにしぼり、マネー・サプライ(通貨供給量)の伸び率を一定に保てば、経済のマクロ・コントロールは全てうまくいくと強調しているもの」だった。(『政府貨幣特権を発動せよ。』)
 1970年代以降、アメリカでは、インフレが大きな問題となっていた。しかも、インフレでありながら、景気が停滞するスタグフレーションという新しい現象が生まれていた。その主な原因には、第1次石油危機後の原油の高騰があった。しかし、当時インフレはケインズ的な政策が生み出したものという見方が有力であり、インフレ解決のため、新古典派、特にマネタリズムに期待が集まった。ところが、マネタリズムの理論に立脚して行われた「マクロ経済政策的な分析や提言のほとんど全て」は「現実的な妥当性に乏しいもの」にすぎなかった、と丹羽氏は指摘する。
 イギリスのサッチャー政権や、アメリカのカーター政権で、マネタリズム政策が実際に試みられたが、ともに失敗に終わった。「いずれも、経済の停滞・不振がひどくなり、スタグフレーション状況が深刻化したのである。マネー・サプライの伸びの安定化も、はたされなかった」と丹羽氏は言う。
 サッチャーは、政権の前半期に、マネタリズムの経済政策を実施したが、「成功とは程遠いもの」だった。そこで、政権の後半期には、「事実上のマネタリズムからの離脱」が行なわれた。イギリスが、「当時の悪性の経済スランプから脱却することができたのは、サッチャー政権時代も半ばを過ぎた1980年代の後半になってからのこと」だった。(「サッチャー、レーガン伝説とフリードマンのマネタリズム」)
 カーター政権は、1977年から80年までだった。フォード政権時代を含めた1975年から1980年までの6年間に、米国の消費者物価は2倍(日本は1.53倍)、卸売物価は1.7倍(日本は1.36倍)に高騰した。しかも、経済の実質成長率が、それ以前の時期に比べて、むしろ低下した。(1975年、80年はマイナス成長) 失業率も7~8パーセントといった高い率に達した。「マネタリズムの実施によって、米国経済のスタグフレーション状況は、かえって悪化した」と丹羽氏は分析する。
 丹羽氏によると、マネタリズムによる経済政策の中核は、「マネー・サプライを安定的な伸び率に保つということ」だったが、米英両国ともマネタリズム政策の実施期間は、「マネー・サプライの変化がきわめて大幅で不規則に」なってしまった。すなわち、「ケインズ的な財政政策を封止してしまって、金融政策のみに頼っているような状況では、マクロ的に経済をコントロールすることがきわめて困難になり、マネー・サプライも上下に大きくかつ不規則にぶれざるをえなくなった」のである。「フリードマン流のマネタリズムは、間違っていた」と丹羽氏は断定する。(「サッチャー、レーガン伝説とフリードマンのマネタリズム」)

●恒常所得仮説は、ありえない前提による仮説

 次に、恒常所得仮説についてである。新古典派は、ケインズの「有効需要の原理」否定論を叫んでいる。需要面から有効需要原理を否定するのが、フリードマンの恒常所得仮説である。
 丹羽氏は、次のように言う。「フリードマンは、人々が消費支出を行なうのは、恒常所得からのみであって、変動所得部分からは消費支出がなされることは、ほとんど無いと見るべきだと主張してきた。だとすれば、たとえばケインズ的な積極的財政政策が行なわれたとしても、それによる所得増加は残業手当やボーナスや減税還付金といった変動所得の増加の形をとるであろうから、それらからの消費支出は行なわれず、乗数効果が作動しないので、結局、景気がよくなったり経済成長が加速されたりする効果は、きわめて微弱なものになってしまうはずだというわけである」と。
 残業手当やボーナスや減税還付金等は、家計にとって重要な収入であり、それも衣食住の消費に当てている家庭は多いだろう。常識で考えて、フリードマンの見方は、おかしい。素人でも、変だと分かる。丹羽氏は経済指標の分析から、わが国では「消費性向は、人々の恒常所得のみならず変動所得にも、ほとんど変わりなく妥当しており、したがって乗数効果も常にしっかりと作動している」と言う。そして「フリードマン流の恒常所得仮説なるものは、きわめて根拠が薄弱だと言わねばならないのである」と述べている。(「新古典派の『反ケインズ主義』は新左翼的ニヒリズムと同根だ」)
 フリードマンは、需要面から有効需要原理の否定を説いたが、それを供給面から説いたのが、ルーカスである。フリードマンは、そのルーカスの理論も取り入れて自説を補強している。ルーカスもフリードマンに負けず劣らずおかしな見方をしているのだが、その点は後日、項を改めて書く。

 次回に続く。