ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

原発~破局的な大事故は回避

2011-06-08 08:55:40 | 時事
 大震災後、3ヶ月近くになるが、余震はなお続いている。原発事故は収束しておらず、まだ予断を許さない状態にある。

 福島第1原発は、ゴールデンウイーク以後の変化として、5月5日に1号機に人が入り、次いで2~3号機にも入った。それによって中の状態がわかった。5月24日、東電は1号機は炉心が完全溶融(全炉心溶融)しており、2~3号機も「炉心溶融」している可能性があるという解析結果を公表した。炉心溶融とは、いわゆるメルトダウンである。
 東電の発表では、地震と津波によって、1~3号機では電源が喪失され、原子炉内の冷却水の循環が止まり、空焚き状態になった。核燃料棒が露出し、津波に襲われた約4時間後から炉心溶融が始まった。1号機は地震発生から16時間後となる、3月12日午前6時50分には、核燃料の大半が圧力容器の底に溶け落ちたという。
 6月6日、原子力保安院が解析結果を発表した。それによると、溶け落ちた燃料によって原子炉圧力容器が破損した時刻は、東電の解析より、もっと早かった。1号機は3月11日午後8時ごろ、2号機は東電解析より29時間早い14日午後10時50分ごろ、3号機は13時間早い14日午後10時10分ごろと推定している。
 福島原発は、11日夜から14日夜の時点で、極めて深刻な事態になっていたのである。鋼鉄製の圧力容器は耐熱温度が2800度。核燃料がそれ以上の高温であれば、圧力容器の底に穴が開く。1~2号機では格納容器に7~10センチ相当の穴が開き、高濃度の汚染水が漏れ出た可能性がある。政府は、今月7日、国際原子力機関(IAEA)に提出する報告書で、1~3号機の原子炉圧力容器の底部から溶融した核燃料が漏れ出し、格納容器内に堆積している可能性を指摘した。これは「炉心溶融(メルトダウン)」より深刻な「溶融貫通(メルトスルー)」が起こった可能性を認めたものである。「溶融貫通(メルトスルー)」まで行っていたということは、もし格納容器の中に溶けた燃料が一挙に大量に落下していたら、決定的な大事故となった可能性があったということである。
 燃料が格納容器に落下した瞬間に、燃料に触れた格納容器の水から大量の水蒸気が発生して爆発することを「水蒸気爆発」という。福島では、3月11日から14日にかけて、「水蒸気爆発」が起こっていたかもしれない。水蒸気爆発が起これば、原子炉から厖大な量の放射性物質が大気、水に飛散し、首都圏を含む地域に、深刻な被害をもたらしただろう。
 幸い、こうした破局的な事態は避けられていた。溶融した核燃料のほとんどは、圧力容器の底に溜まって、水中で徐々に冷却されていった。溶けた燃料の一部が、格納容器に漏れて堆積した可能性があるものの、首都圏を含む東日本の広範囲で多数の人命が失われるような、決定的な大事故にはいたらずに済んだ。
 様々な条件が重なり合って、大難が小難になったものだろう。私は、天佑神助により、日本は破局からギリギリのところで、奇蹟的に守られたものと思う。

 5月6日、菅首相は、浜岡原発について、すべての原子炉を停止するよう中部電力に要請したと発表した。9日中部電力がこれを受け入れ、浜岡原発は全面停止した。進め方が唐突で、停止する理由も説明不足だった。諸外国に対しても、疑問を与えただろう。しかしながら、それでもなお、私はこの停止は良かったと思っている。その理由は、次のようなものである。
 東海地方では、30年以内にマグニチュード8.0クラスの地震の発生する確率が87%とされる。東海地震の想定震源地域に、静岡県御前崎市の浜岡原発がある。マグニチュードは地震のエネルギーを表す指標であり、震度は震源地からの距離で変わる。浜岡原発は、想定震源地域のほぼ真ん中にあり、震度7の地震に見舞われやすい地域にあるという。
 中部電力は、浜岡原発は震度7に耐えられるように設計してあるという。原発の機器により、地震の揺れ(加速度)を、それぞれ450ガルないし600ガルと想定して作ってある。だが、阪神淡路大震災の際、神戸では800ガル以上の揺れを記録した。東海地震が発生した場合のエネルギーは、阪神淡路大震災の15倍になると想定されている。また、東海地震が東南海地震と連動して起こった場合、エネルギーは、単独で起こった場合の数倍になると見られる。東日本大震災では、それまでの想定を超えたマグニチュード9.0の地震が起きた。広範囲に地震が連動した。また高さ15メートル以上の巨大津波が来た。この体験を踏まえて、わが国は地震と津波に対する原発の安全性を高める必要があると私は思う。
 ただし、国内の原発をすべて停止すべきという意見には、賛成できない。安全性を重視するあまり、電力供給の確保を軽視すれば、経済や国民生活に深刻な影響が出る。供給量とのバランスを取りながら、安全性を確認・強化していくしかないと思う。

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●産経新聞 平成23年6月6日

http://sankei.jp.msn.com/life/news/110606/trd11060620480016-n1.htm
【放射能漏れ】
大気放出は77万テラベクレル、倍に修正 1号機破損は震災当日 保安院
2011.6.6 20:46

 経済産業省原子力安全・保安院は6日、福島第1原発事故の直後に、大気へ放出された放射性物質の総量を推定77万テラベクレル(テラは1兆)と、従来推計の2倍強に上方修正する解析結果を発表した。1号機の原子炉圧力容器の破損は、東京電力の解析結果より10時間早い震災当日とするなど、従来の解析より事態が急速に進んでいたことも判明した。
 政府は7日に原子力災害対策本部を開催。今回の解析結果を反映させた報告書をまとめ、今月下旬にウィーンで開かれる国際原子力機関(IAEA)閣僚級会合に提出する。
 保安院は、4月に事故の深刻度を国際評価尺度(INES)の暫定評価で最悪の「レベル7」に引き上げた際、放射性物質の放出量を37万テラベクレルと推定していた。原子力安全委員会は63万テラベクレルと試算していたが、それも上回る値となった。
 保安院の解析は、1~3号機すべてで炉心溶融(メルトダウン)が起きたと推定。溶け落ちた燃料によって原子炉圧力容器が破損した時刻は、1号機は地震から約5時間後の3月11日午後8時ごろ、2号機は東電解析より29時間早い14日午後10時50分ごろとした。3号機については14日午後10時10分ごろと推定し、東電解析より13時間遅くなっている。
 保安院は大気への推定放出量が2倍強になった理由を「2号機からの漏(ろう)洩(えい)で過小評価があった」と説明。さらに、事故の進行が東電の解析と異なることについては、「(核燃料が発する)崩壊熱などの条件設定に違いがあり、詳細を実態に近い形に当てはめたため」とした。
 東電は5月24日、1~3号機で炉心溶融が起きているとみられるとする解析結果を公表していた。(略)

●読売新聞 平成23年6月7日

核燃料、圧力容器貫通の可能性…政府が報告へ
(読売新聞 - 06月07日 14:30)

 東京電力福島第一原子力発電所の事故について、政府が国際原子力機関(IAEA)に提出する報告書の全容が7日明らかになった。
 報告書は、破損した1~3号機の原子炉圧力容器の底部から溶融した核燃料が漏れ出し、格納容器内に堆積している可能性を指摘した。
 格納容器まで溶けた核燃料が落下する現象は「メルトスルー」(原子炉貫通)と呼ばれ、「メルトダウン」(炉心溶融)を上回る最悪の事象。これまで圧力容器底部で、制御棒の貫通部などが破損し、高濃度の放射性物質を含む汚染水が漏出したことは明らかになっていたが、政府が公式にメルトスルーの可能性を認めたのは初めて。
 また報告書は、原子力安全規制の行政組織が縦割りで、国民の安全を確保する責任が不明確だったと認め、原子力安全・保安院を経済産業省から独立させ、原子力安全委員会なども含めて、体制を抜本的に見直す方針なども打ち出した。
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