ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

トッドの移民論と日本61

2011-06-25 05:59:32 | 国際関係
●異なる家族型の組み合わせ

 私は、トッドが挙げる親子/兄弟の価値観である権威/自由、平等/不平等の対とは別に、夫婦の価値観の違いが存在すると思う。日本は父系を主とし母系を従とする双系制であり、夫唱相和の文化を持つ。これに対し、朝鮮・シナは父系的であり、儒教による男尊女卑の思想が強い。
 夫婦の価値観の違いの表れの一つが、姓の制度の違いである。トッドは東アジアにおける姓の問題に触れていないが、それを見ないと東アジアの社会は、深く捉えることはできない。日本は夫婦同姓、朝鮮・シナは夫婦別姓である。別姓は男尊女卑の制度である。
 日本・朝鮮・シナについて、上記を整理して対比すると、日本は直系家族で族内婚、父系を主とし母系を従とする双系制で夫婦同姓。朝鮮は直系家族で族外婚、父系制で夫婦別姓。シナは外婚制共同体家族で、父系制で夫婦別姓である。このように見ると、朝鮮は日本とシナの中間的性格を持つことが明瞭である。
 ここで興味深い事実は、朝鮮は直系家族の社会だが、半島が分断され、北半分は共産化されたことである。北朝鮮は、ソ連の強い影響下に建国され、ソ連崩壊後は中国への依存を深めている。これは、朝鮮が歴史的にシナ文明の影響を受けてきたことと関係があるだろう。また北朝鮮は、単に共産主義的でなく、金王朝というべき世襲制専制国家となった。この点では同じ外婚型直系家族のドイツよりも、シナの前近代的家産国家に似ている。
 朝鮮が北半分のシナに近いほうは共産化し、南半分の日本に近いほうは自由化したのは、単なる地理的な位置関係だけでなく、思想が受け入れられ、定着する価値観の二面性があったということだろう。
 さて、日本の移民問題においては、受け入れ国の日本は内婚型直系家族で差異主義、朝鮮人は外婚型直系家族で差異主義、シナ人は外婚制共同体家族で普遍主義である。日本人と朝鮮人、日本人とシナ人の組み合わせは、家族型とそれに基く価値観の違いによる現象を生むはずである、だが、トッドはこの点を具体的に論じていない。
 そこで私なりに試みると、日本と朝鮮は、直系家族と直系家族、差異主義と差異主義の組み合わせである。この点で、ドイツとユダヤの組み合わせに似ているが、日本は受け入れ側が族内婚、移民側が族外婚、ドイツは受け入れ側が族外婚、移民側が族内婚という風に、逆転している。また、日本は温和な差異主義、朝鮮は冷厳な差異主義という組み合わせである。これに比し、日本とシナは、直系家族と共同体家族、差異主義と普遍主義の組み合わせである。ドイツとアラブ(内婚制共同体家族、トルコは別)の組み合わせに似ているが、シナは外婚制、アラブは内婚制である。
 それゆえ、ヨーロッパには、日本と朝鮮、日本のシナと同じ家族型・価値観の組み合わせはない。わが国の人類学の専門家に、トッドのヨーロッパにおける研究を参考にした、日本・朝鮮・シナの間の家族型の理論による研究を期待したい。

●対外関係・自然環境による民族性の違い

 次に、ほかの点について、私見を述べると、日本人と朝鮮人・シナ人の組み合わせにおいては、単に家族型の組み合わせだけでなく、対外関係・自然環境を含めて、相手の民族性をよく知ることが大切だと思う。トッドは、理論敵にこの点が弱い。
 朝鮮は大陸の周辺部にある半島であり、大陸の文明の影響を受ける。陸続きのシナの社会変動の影響を強く受ける。また、シナからの侵攻や支配を受けやすい。これは対外関係という要素を示す。大陸と半島という地理的な位置関係が、民族性の形成に作用したのである。古代の朝鮮人の民族性は、日本人と近かったようである。しかし、シナ文明の支配下に入ると、シナ文明を模倣し、儒教や制度を取り入れ、自ら小中華を目指した。
 シナは、遊牧民族対農耕民族の侵攻・支配がくり返した歴史を持つ。家族型による対内関係以上に、周辺遊牧民族による侵入という対外関係が、民族性を作った。大陸では、馬による移動・侵攻が繰り返される。地球的な気候の変動による冷害・食料不足・飢餓の時代には、遊牧民族が豊かな中心部に侵入・略奪・支配を行った。しかも大陸ゆえ、広範囲に及ぶ帝国と強大な専制支配を生んだ。こうした歴史が、ウソ、無法、人治の文化・社会を生んだ。このことは、外婚制共同体家族という家族型とは、直接関係ない。シナの民族性には、対外関係と自然環境の面の影響が大きいだろう。
 日本人は、日本の移民問題を考える際、上記のように、対内関係としての家族型の組み合わせとともに、対外関係・自然環境から形成された民族の違いの組み合わせについても、よく考慮すべきと思う。

 次回に続く。