●ルーカスの「理論的トリック」を暴露
ルーカスの理論は、「消費者主権の原理」を否定・否認し、資本主義批判に荷担する結果となっている。「これでは、あまりにも奇妙すぎる」として、丹羽氏は、ルーカス理論をよく吟味してみたという。それによってわかったことは、「ルーカス理論の体系では、需要の変動があっても、企業が(労働雇用量を変えるだけで)資本設備の稼働率を変化させてそれに対応するようなことはしないものとするという、きわめて非現実的な暗黙の仮定が設定されている」ということであったと丹羽氏は述べている。
実際の社会では、企業家は、需要が増えれば、資本設備の稼働率を上げ、需要が減れば稼働率を下げて対応する。そのように対応しない企業家は、会社を潰すだろう。丹羽氏は、ルーカスのような頭脳明晰な学者が、「『うっかりミス』でこのようなことをするはずはないから、これは、一種の意図的な『理論的トリック』であろう」と言っている。(「サッチャー、レーガン伝説とフリードマンのマネタリズム」)
ルーカスは、極度に非現実的な前提を暗黙のうちに置くという「理論的トリック」を使って、「無理やりに、『有効需要の原理』が作動しないという論理を作り上げた」のだと丹羽氏は、ルーカスを批判している。
丹羽氏によると、「フリードマンなどの『有効需要の原理』を否認しようとする反ケインズ主義的な漠然とした想念に、とにもかくにも、明確な理論体系を与えたのは、結局、ルーカスであった」。しかし、その「明確な理論体系」なるものは、「理論的トリック」による論理でしかない。しかし、マネタリズムが失速した後、新古典派経済学者による反ケインズ主義のキャンペーンは、「ルーカスによるこの牽強付会の極致ともいうべき奇怪な論理を主要な武器としてなされている」。そして、平成19年(2007)の時点で、いまやルーカス理論は「神格化」されている、と丹羽氏は述べている。
丹羽氏によると、過去20年あまり、全世界の主要国の経済政策を導いてきたのは、新古典派経済学流のパラダイムと「反ケインズ主義」イデオロギーだった。わが国においても、1990年代の半ば以降の歴代内閣の経済政策は、その支配的な影響を受けたものであった。
「とりわけ小泉=竹中政権時代の経済政策は、ほとんど全て、このような新古典派経済学流のパラダイムと反ケインズ主義イデオロギーによって導かれてきたのであった」(「ケインズ主義の復活なくして日本の復活なし-いまこそ新古典派経済学のニヒリズムを打ち砕け-」)。なかでも、「ルーカス理論は、新自由主義・新古典派のパラダイムで支配されてきた過去四半世紀のわが国の経済学界・経済論壇では、ほとんど神格化されてきた」(「政府紙幣 発行問題の大論争を総括する 」)。「竹中平蔵氏に導かれた小泉内閣の経済政策スタンスも、明らかに、このルーカス理論であった」と丹羽氏は指摘している。(「新古典派の反ケインズ主義は新左翼的ニヒリズムと同根だ」)
●丹羽氏はケインズ体系にルーカス体系を統合
丹羽氏は、単にルーカスの理論を党派的に批判し、排斥しているのではない。この点が重要である。丹羽氏は、ルーカスの理論的前提を検討し、「ケインズ体系によるルーカス体系の理論的統合の可能性」を発見したと主張する。
「私(丹羽)は念のために、企業は、労働雇用量とともに資本設備の稼働率も変えて需要の変動に対応しようとするものとするという一般的妥当性の高い想定を設けて、そして、例の『合理的期待(予測)形成』仮設はそのまま導入しておいて、ルーカスの理論体系を再構築してみた。驚くべし、そのように一般化された想定のもとで再構築されたルーカス体系では、総需要が増えれば(そして、デフレ・ギャップという形でマクロ的に生産能力に余裕があれば)、それに応じて実質GDPも増大し、いわゆる『自然失業率』もどんどん低くなって、経済は真の完全雇用・完全操業の状態に近づいていくという理論的結論が得られたのである。つまり、そのように一般的妥当性の高い想定のもとで再構築されたルーカス体系は、ケインズ的政策に従うようになるわけである。換言すれば、ルーカス体系の牙がぬかれて、ケインズ体系によるルーカス体系の吸収的統合が、見事になされえたわけである」と丹羽氏は言う。
丹羽氏は「言うまでもなく、私(丹羽)が得たこのようなファインディングが、きわめて重要な意味合いを持っていることは明らかである。私は、10年ほど前に、このファインディング(ほそかわ註 発見の意味)を学会で報告し、学術論文としてそれをまとめて計画行政学会の学会誌に『特別論説』として掲載( 『計画行政』24巻、3号、平成13年春 )した。私の著書(ほそかわ註 下記の著書)へもそれを収録し、さらには、一般読者向けにそれを平易に解説した論稿も、幾度も公にしてきた。もちろん、インターネットで検索すれば、このような私の論策はすぐに見出しうる」と自負している。(「サッチャー、レーガン伝説とフリードマンのマネタリズム」)
この点については、専門的なので本稿では正確に紹介できない。経済学を専門的に研究している人は、丹羽氏の著書『新正統派ケインズ政策論の基礎』(学術出版会)の各論1「ルーカス型総供給方程式の一般化~ルーカス、ケインズ両体系の統一的把握」を検証してみていただきたい。
次回に続く。
ルーカスの理論は、「消費者主権の原理」を否定・否認し、資本主義批判に荷担する結果となっている。「これでは、あまりにも奇妙すぎる」として、丹羽氏は、ルーカス理論をよく吟味してみたという。それによってわかったことは、「ルーカス理論の体系では、需要の変動があっても、企業が(労働雇用量を変えるだけで)資本設備の稼働率を変化させてそれに対応するようなことはしないものとするという、きわめて非現実的な暗黙の仮定が設定されている」ということであったと丹羽氏は述べている。
実際の社会では、企業家は、需要が増えれば、資本設備の稼働率を上げ、需要が減れば稼働率を下げて対応する。そのように対応しない企業家は、会社を潰すだろう。丹羽氏は、ルーカスのような頭脳明晰な学者が、「『うっかりミス』でこのようなことをするはずはないから、これは、一種の意図的な『理論的トリック』であろう」と言っている。(「サッチャー、レーガン伝説とフリードマンのマネタリズム」)
ルーカスは、極度に非現実的な前提を暗黙のうちに置くという「理論的トリック」を使って、「無理やりに、『有効需要の原理』が作動しないという論理を作り上げた」のだと丹羽氏は、ルーカスを批判している。
丹羽氏によると、「フリードマンなどの『有効需要の原理』を否認しようとする反ケインズ主義的な漠然とした想念に、とにもかくにも、明確な理論体系を与えたのは、結局、ルーカスであった」。しかし、その「明確な理論体系」なるものは、「理論的トリック」による論理でしかない。しかし、マネタリズムが失速した後、新古典派経済学者による反ケインズ主義のキャンペーンは、「ルーカスによるこの牽強付会の極致ともいうべき奇怪な論理を主要な武器としてなされている」。そして、平成19年(2007)の時点で、いまやルーカス理論は「神格化」されている、と丹羽氏は述べている。
丹羽氏によると、過去20年あまり、全世界の主要国の経済政策を導いてきたのは、新古典派経済学流のパラダイムと「反ケインズ主義」イデオロギーだった。わが国においても、1990年代の半ば以降の歴代内閣の経済政策は、その支配的な影響を受けたものであった。
「とりわけ小泉=竹中政権時代の経済政策は、ほとんど全て、このような新古典派経済学流のパラダイムと反ケインズ主義イデオロギーによって導かれてきたのであった」(「ケインズ主義の復活なくして日本の復活なし-いまこそ新古典派経済学のニヒリズムを打ち砕け-」)。なかでも、「ルーカス理論は、新自由主義・新古典派のパラダイムで支配されてきた過去四半世紀のわが国の経済学界・経済論壇では、ほとんど神格化されてきた」(「政府紙幣 発行問題の大論争を総括する 」)。「竹中平蔵氏に導かれた小泉内閣の経済政策スタンスも、明らかに、このルーカス理論であった」と丹羽氏は指摘している。(「新古典派の反ケインズ主義は新左翼的ニヒリズムと同根だ」)
●丹羽氏はケインズ体系にルーカス体系を統合
丹羽氏は、単にルーカスの理論を党派的に批判し、排斥しているのではない。この点が重要である。丹羽氏は、ルーカスの理論的前提を検討し、「ケインズ体系によるルーカス体系の理論的統合の可能性」を発見したと主張する。
「私(丹羽)は念のために、企業は、労働雇用量とともに資本設備の稼働率も変えて需要の変動に対応しようとするものとするという一般的妥当性の高い想定を設けて、そして、例の『合理的期待(予測)形成』仮設はそのまま導入しておいて、ルーカスの理論体系を再構築してみた。驚くべし、そのように一般化された想定のもとで再構築されたルーカス体系では、総需要が増えれば(そして、デフレ・ギャップという形でマクロ的に生産能力に余裕があれば)、それに応じて実質GDPも増大し、いわゆる『自然失業率』もどんどん低くなって、経済は真の完全雇用・完全操業の状態に近づいていくという理論的結論が得られたのである。つまり、そのように一般的妥当性の高い想定のもとで再構築されたルーカス体系は、ケインズ的政策に従うようになるわけである。換言すれば、ルーカス体系の牙がぬかれて、ケインズ体系によるルーカス体系の吸収的統合が、見事になされえたわけである」と丹羽氏は言う。
丹羽氏は「言うまでもなく、私(丹羽)が得たこのようなファインディングが、きわめて重要な意味合いを持っていることは明らかである。私は、10年ほど前に、このファインディング(ほそかわ註 発見の意味)を学会で報告し、学術論文としてそれをまとめて計画行政学会の学会誌に『特別論説』として掲載( 『計画行政』24巻、3号、平成13年春 )した。私の著書(ほそかわ註 下記の著書)へもそれを収録し、さらには、一般読者向けにそれを平易に解説した論稿も、幾度も公にしてきた。もちろん、インターネットで検索すれば、このような私の論策はすぐに見出しうる」と自負している。(「サッチャー、レーガン伝説とフリードマンのマネタリズム」)
この点については、専門的なので本稿では正確に紹介できない。経済学を専門的に研究している人は、丹羽氏の著書『新正統派ケインズ政策論の基礎』(学術出版会)の各論1「ルーカス型総供給方程式の一般化~ルーカス、ケインズ両体系の統一的把握」を検証してみていただきたい。
次回に続く。