ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

復興の鍵はイノヴェーション

2011-06-13 08:46:43 | 時事
 産経新聞・編集委員の田村秀男氏は、東日本大震災からの復興のため「百兆円の日本復興基金策」を提唱している。氏の提案は、復興の財源調達は、デフレ下の増税ではなく、債権国の強みを生かした復興国債によるべきであり、政府・日銀が連携して財政金融政策を行うというものである。
 私は日記で氏の発言を継続的に紹介してきた。5月12日の「デフレ下の復興増税は日本を潰す」に概要を掲載してある。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1720438081&owner_id=525191

 さて、田村氏は今月5日、「大復興の鍵握る『新結合』」という記事を書いた。先の提案を基盤として、「復興プランを貫く筋」は、シュンペーターのいう「イノベーション」だと説く。そして、ゴールは「投資のルネサンス」だという。
 田村氏は、従来の縦割り行政のもとでは、財政支出の効率が悪い。だから経済成長できない。税収も増えない、という。「縦割り行政を解消し、規制を撤廃しないと、日本再生の絶好のチャンスを逃す」。そこで、例えば電力事業では「送電、発電を分離し、新規参入を自由化すればよい」「再生可能なエネルギーの爆発的な普及を阻んでいるのが発送電一体、地域独占の現行システムである」「電力を自由化すれば、財政資金を使わなくても、民間資金主導で多種多様な電力投資が相次ぎ、さながらエネルギー版のルネサンスの様相を呈するだろう」と述べている。

 先に日記に書いたように、私は孫正義氏が、再生可能な自然エネルギーの推進を開始したことに注目している。孫氏の動きは、田村氏の説く電力の自由化に係る動きである。寡占状態にある電力業界に参入し、電力の自由化を実現することを図っているのだろう。わが国は、発電と送電を電力会社が一手に収め、地域独占を行っている。太陽光など自然エネルギーによる発電を営利事業として成立させるには、地域独占を崩す必要がある。孫氏と何度か会談している菅首相は「発送電分離」に言及した。孫氏は、東電の送電事業の買収を狙っているという観測がある。
 シュンペーターは、著書 「経済発展の理論」(岩波書店)で、経済発展の本質は、新結合の遂行による創造的破壊だという説を唱えた。シュンペーターは、新結合を5つの観点から定義した。すなわち、 新製品の創造、新生産方法の導入、新規の販売経路・市場の開拓、原材料と半製品の供給源の獲得、新組織の形成である。シュンペーターは、後に新結合をイノヴェーションと呼んだ。「革新、新機軸」を意味する言葉である。シュンペーターのイノヴェーションは、技術革新だけでなく、金融・流通・制度等の革新を含む。
 企業家がイノヴェーションをしようとするときには、資金が要る。シュンペーターは、ここで企業家に融資する銀行家の役割が大きいことを説いた。孫氏の場合、自己資金を豊富に持っており、独自の判断で新事業を立ち上げる起動力を持っている。自然エネルギーで電力業界に改革をもたらせるか、その動向が注目される。

 以下、関連する報道記事。

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●産経新聞 平成23年6月5日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110605/plc11060508250007-n1.htm?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter
【日曜経済講座】
編集委員・田村秀男 大復興の鍵握る「新結合」
2011.6.5 08:21

■新型投資のルネサンスを

 菅直人首相をはずす政局劇は茶番に終わった。政策論争の芯になる対立軸が欠落しているからむなしい。例えば、復興財源問題では、真っ先に増税にのめりこんだのは菅直人内閣と自民党執行部である。両者に大きな対立軸がないうえでの争いはしょせん「やめろ」「やめない」の怒鳴り合いにすぎない。今後も「菅退陣」時期や「ポスト菅」をめぐる低次元の暗闘が続くのはなんとしてでも防がなければならない。
 宰相失格の菅氏退陣は当然としても、あとはどうすべきか。最優先はだれを据えるかではなく、何をするか、であり、大復興を軌道に乗せる政策だ。超党派で大復興の太い筋を書き、実行する。
 菅直人政権だって、有識者からなる「復興構想会議」を開いているではないか、と思う読者もいよう。だが、増税がデフレを助長するのは中学生でもわかる経済の定理なのに「復興のための増税」を平気で論じる評論家集団に政策をまかせてはならない。
 復興プランを貫く筋とは何か。拙論は、旧型システムの廃棄と生産、流通、消費の「新結合」だと考える。ゴールは、「投資のルネサンス」である。
 近代経済学の泰斗、J・シュムペーターは時代を大きく動かす「イノベーション」(技術革新または新機軸)を新結合と呼んだ。

◆IT革命乗り遅れ
 現代での例は情報通信(IT)革命である。インターネットとパソコンソフト「ウィンドウズ95」の登場以来、電子で結ばれた世界は情報の垣根を解消し、モノやサービスにとどまらず金融のグローバル化を促進している。各種の新たな投資ブームが世界規模で沸き起こり、新興国の中国やインド、ブラジルなどを爆発的に成長させてきた。
 国連の調べでは、世界の直接投資受け入れ総額は2006~08年の平均で1990~92年平均の10倍以上に拡大した。その中で、日本国内の設備投資は90年代初めがピークで縮小傾向が続いている。企業と銀行の投資、融資は国内向けを減らし、海外向けを増やしている。つまり国内で使うべき国民の貯蓄は海外に流出している。日本はIT革命がもたらす投資ブームに乗り遅れ、元気をなくしてきた。

◆効率の悪い財政支出
 その最中に東日本大震災に遭遇した。復旧・復興という具体的で明確な投資案件の山ができたが、政府は何も決められない。道路、港湾など公共投資の出番だが、従来の縦割り行政のもとでは官僚が天下りを収容するためのハコモノを事業に張り付ける。電力会社は経済産業省のOBを受け入れ、発電・送電一体となった地域独占に安住する。利権を狙う政治家はそこに「口利き」の機会を見つける。納税者のカネはコストだけかさむコンクリートに置き換わり、赤字しか生まない。
 効率の悪い財政支出だから経済成長できない。従って税収は増えず、復興国債の償還のためには増税を充当すると考えるのが、旧来の利権システム保全を優先する官僚であり、それを鵜呑(うの)みにする菅直人氏のような抱きつき型、あるいは利権動機にめざとい旧型政治家である。ならば従来の体制を換えるしかない。
 電力事業を例にとると、送電、発電を分離し、新規参入を自由化すればよい。すでに民間や地域主導で、太陽光、風力など独自の再生可能エネルギーの開発や利用の試みは各地で始まっている。長野県飯田市では各住戸が毎月1万9800円を市と民間企業が運営するファンドに9年間払う見返りに太陽光発電設備をゼロ費用で設置する制度を昨年から始めた。東京都心の再開発ビルに太陽光パネルをはり付け、自家用ばかりか他に売って収益を稼ごうとだれもが考える。
 再生可能なエネルギーの爆発的な普及を阻んでいるのが発送電一体、地域独占の現行システムである。曇ったり風がやんだりすれば発電量が減り、送電も不安定になる技術的障害は、世界最高水準の日本の蓄電池や「次世代送電網(スマートグリッド)」で解決できる。なのに電力会社はオープンで多様な発送電システムに背を向ける。菅直人政権は発送電分離には同意するが、金融機関に東電向け債権を放棄させ体制温存に走る。
 電力を自由化すれば、財政資金を使わなくても、民間資金主導で多種多様な電力投資が相次ぎ、さながらエネルギー版のルネサンスの様相を呈するだろう。
 シュムペーターの言う新結合とは破壊と創造の連続である。大震災ははからずも物理的な面を破壊したが、旧来の政治、行政、規制のままではもとの木阿弥である。縦割り行政を解消し、規制を撤廃しないと、日本再生の絶好のチャンスを逃す。

●産経新聞 平成23年6月5日

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110605/biz11060518010005-n1.htm
【ドラマ・企業攻防】
孫社長「脱原発」で殴り込み 世直し?商魂?規制に挑む
2011.6.5 18:00

 ソフトバンクの孫正義社長が、「脱原発」と「自然エネルギー推進」を掲げ、電力業界に殴り込みをかけた。大風呂敷を広げてみせ、時の首相をもたきつける“商魂”たくましきバイタリティーは健在だ。規制だらけの通信業界に風穴を開けた孫社長。さらに厳しい規制と既得権益でがんじがらめの電力業界でも、“風雲児”となれるのか。(略)

■したたかな計算
 なぜ孫社長は突如として、自然エネルギーに目覚めたのか。
 「孫と私が動くのはいつも『世直し』のとき。今は自然エネルギーの普及を阻む規制と戦ってみたいという気持ちが大半だ」
 元民主党衆院議員で孫社長にスカウトされた嶋聡ソフトバンク社長室長は、その心中をこう代弁する。
 孫社長も、震災後のある会見で、脱原発について問われ、「一人の人間として多くの人々に幸せになってもらいたい」と、答えている。今回の事故を契機に「原発に嫌悪感を持つようになった」(総務省幹部)のは確かなようだ。
 もっとも、「慈善事業や社会貢献だけで金を出すような甘っちょろい人物ではない」(通信業界関係者)というのも、衆目の一致するところだ。
 実際、孫社長の震災後の行動には、したたかな計算がうかがえる。
 布石は菅首相に言わせた「発送電分離」だ。海外では発電事業と送電事業を別々の会社が手がける国も多いが、日本では電力会社が一手に握り、「地域独占」で電力を供給している。
 原発に比べはるかにコストが高い太陽光など自然エネルギー発電事業をビジネスとして成立させるには、この地域独占を崩す必要があるといわれてきた。発送電分離は、東電と巨大規制産業を切り崩す突破口だ。
 ソフトバンクに詳しいアナリストは、「大義と遠大な構想を掲げ、広く世論や社会に訴え、規制緩和で自らに有利な事業環境を整える。規制で守られてきた業界ほど、ビジネスチャンスも大きいというのが、孫さんの考え」と解説する。

■狙いは送電線買収?
 さらに株式市場では、「ソフトバンクは東電の送電事業の買収を狙っている」との観測もまことしやかに語られている。
 そのメリットは大きい。すべての家庭に張り巡らされた電力線は、通信インフラとして活用できる。今後、不安定な自然エネルギー電力を普及させるため、通信機能を組み込み、需給を制御する次世代送電網「スマートグリッド」の整備が進めば、通信と電力の融合はさらに加速する。
 送電塔を携帯電話の基地局に利用すれば、「つながりにくい」との不評も解消できる。
 東電の送電網の資産価値は、原発事故の巨額賠償金を一気に捻出できる4、5兆円とされる。約1兆8千億円を投じて英ボーダフォンから携帯事業を買収し今や売上高3兆円を超える企業グループに成長させた孫社長にとって、あながち無理な金額ともいえない。
 ただ、盟友となった菅首相が「退陣表明」後に「居座り続投」を宣言し、袋だたき状態になってしまったのは大誤算だろう。“反菅”の逆風が、自らに向いかねない。果たして孫社長の野望は成就するのか…。(森川潤)
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関連掲示
・拙稿「孫正義氏が自然エネルギー財団設立を発表」
http://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=034776d5945949b36511b497f6b17bca
・拙稿「孫氏の太陽光発電所計画が始動」
http://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=8e4e34ca71a41b232037063caa58f54c