ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

台湾で親中派の総統が誕生2

2008-03-26 12:17:12 | 国際関係
 国民党・馬英九氏の総統当選について、第三の要因は、台湾独立へのアメリカの不支持の影響である。陳総統は台湾化政策を進め、「中華民国」を「台湾」に改名する憲法改正を目指した。中国はこれを「法理上の独立宣言」だとして、反国家分裂法を制定し、台湾武力侵攻を合法化した。中台間の緊張の激化を憂慮したアメリカのブッシュ大統領は、「台湾独立を支持しない」と発言した。
 この発言は、中台の激突を避けたいという思惑と、中国共産党への配慮の表れだろう。アメリカは、北朝鮮の核問題への対応において、中国の同意・協力を得ざるを得ない。アメリカの不支持は、独立志向派の勢いをそいだことだろう。

 第四の要因は、中国共産党のソフト路線の効果である。以前の中国であれば、台湾の独立志向に対して、露骨に圧力をかけた。しかし、今回の総統選挙では、中国共産党は、直接的な発言をせず、台湾人を刺激して反発をかうようなやり方を避けている。その一方、経済的に優遇政策を一貫して行ってきたから、台湾経済の中国への依存度が増している。大陸に仕事を求めて、働きに行っている台湾人も多い。あえて力を誇示しなくとも、台湾の指導部・国民大衆を中台融和路線に招き入れることに成功している。
 胡錦濤政権は、馬氏の当選を歓迎している。民主国家において、民主的な選挙によって、親中路線が取られることには、国際社会は誰も反対し得ない。そういう点で、今回の総統選挙で国民党以上に勝利を手にしたのは、中国の胡錦濤政権だといえるだろう。

 今回の総統選挙では、同時に住民投票も行われた。憲法改正の道は中国の干渉を招き、アメリカの支持を得られないと言う状況で、陳総統は、替わりに住民投票という形で独立路線を追求しようとした。しかし、1月の立法院選挙では国民党が圧勝し、民進党は大敗した。議席の4割を占めていた民進党は4分の1にまで議席を激減させた。
 このたびの住民投票では、国連問題に関する民意が問われた。民進党は、「台湾」名義での国連加盟を提案した。国民党は、正式名称「中華民国」名義での国連復帰を提案した。住民投票の結果は、両案とも投票総数が成立条件に達せず、不成立となった。
 両案不成立の原因は、住民投票の結果がどうであれ、国連への加盟または復帰の道が開かれることはない。それならば、国連問題で中国から圧力をかけられたくないという台湾人の思いがあるのではないか。
 
 台湾は今後、独立の方向に再び進みうるか、それとも中国との一体化の方向に進み続けるか。国民党は、外省人は2~3世の時代となり、新台湾人と本省人の政党に世代交代してきている。今後、党として大きく分裂する可能性は少ないようである。
 一方、民進党は主に4派に分かれており、今回の総統選挙でも、候補者選びの段階からばらばらだった。陳水扁氏以後、誰が中心となって党をまとめていくか、見えてこない。混迷は深いようである。求心力を取り戻して国民党に対抗し、台湾独立の道を牽引するのは、新たな人材の登場がなければ難しいだろう。
 馬氏は、自分の任期中に中国と統一問題は語らないと言っている。しかし、経済的に中台関係がいっそう深まっていけば、実質的に中台の一体化が進行していくだろう。

 急速な経済成長と猛烈な軍拡を続ける中国は、わが国や台湾・韓国にとって、大きな脅威となっている。日・台では、ここ数年、中国への対抗のために、国家意識・民族意識が高揚した。しかし、ここへ来て、国家意識・民族意識よりも、対中融和・経済優先へと大きく流れが変化している。
 その変化の原因の一つは、中国の経済力の巨大化と軍事力の強大化である。日・台・韓の企業は中国への進出を深め、それぞれの経済界は、政府に中国重視の政策を要望している。核兵器・ミサイル・潜水艦等を増殖させている中国人民解放軍に対し、侵攻されるのを避けたいという心理から、媚び諂いの外交が行なわれる。
 もう一つの原因は、アメリカの東アジア政策の転換である。アメリカは、9・11以後、アフガン=イラク戦争の長期化によって、中東を重視する戦略を取り、東アジアでは米軍の配置転換を進めている。また、ブッシュ政権は、中国と融和する政策に切り替えた。このアメリカの政策の転換が、日本・台湾・韓国の国政選挙や政府の政策に大きな影響を与えている。

 わが国では、昨年9月に成立した福田政権が、親中路線を取っている。韓国では、12月に選出された李明博大統領が、経済成長を重視する実利政策を取っている。台湾では、本年1月に立法院で国民党が大勝し、3月に誕生した馬英九総統が、親中的な路線のもと、経済問題に力点をおいている。共通しているのは、中国との緊張を避け、経済的利益の追求を第一としていくという政策である。日・韓の場合は、緊張を避ける対象に北朝鮮が加わる。
 こうした東アジアにおいて、わが国は、どうあるべきか。このたび台湾で立法院・総統とも親中的な国民党が占めたことで、中台戦争・米中激突・日中対決の可能性は低くなった。その反面、平和的手段と民主的な手続きによって、台湾が実質的に中国に併呑されていくというシナリオが、上位にあがってきた。わが国は、今のままでは、第二の台湾になってしまう可能性がある。朝鮮半島も同様である。
 これを中国側の視点で見れば、中国の経済圏が周辺諸国をおおい、中国の核ミサイルが東アジアを圧する。それによってシナ文明=中華文明が東アジアに広がるという展開である。
 これからの10~30年、中国で共産政権が崩壊するのが先か、わが国がシナ化するのが先か、重大な危機の時代に入ったと思う。 
 私見の詳細は、これまでさまざまの拙稿に書いてきたので割愛するが、わが国は、独立主権国家としての根幹を成す憲法を改正し、自主国防力を整え、主体性のある外交政策を取ることが必要であり、それを怠ると、アメリカと中国のはざまで、日本は一個の国家として立つことができなくなる。私はそう考える。(了)