ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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集団的自衛権は行使すべし41

2008-03-14 09:31:04 | 憲法
●権利は行使することを前提とする

 政府は、国際法上、集団的自衛権を有しているが、憲法上行使できないという解釈を取っている。持ってはいるが行使できないという権利を、権利と言えるだろうか。そもそも法理上、権利を認めるということは、その主体がその権利を保有し、それを現実に行使する必要であるということを前提にするものである。つまり、権利の是認はその行使手段の保有と行使の是認を含んだ概念である。
 集団的自衛権の行使に関して、平成16年(2004)1月衆議院予算委員会で、当時の安倍自民党幹事長の質問に対し、秋山收内閣法制局長官が次のように答えている。
 「国家が国際法上、ある権利を有しているとしましても、憲法その他の国内法によりその権利の行使を制限することはあり得ることでございまして、国際法上の義務を国内法において履行しない場合と異なり、国際法と国内法の間の矛盾抵触の問題が生ずるわけではございませんので、法律論としては特段問題があることではございません」

 自らの意思で自制するというのは、一つの姿勢ではある。しかし、実質は、行使が禁止されているような権利は、名ばかりであって、権利ではない。あるいは権利そのものを事実上、否認していることになる。自衛権とは、自己の生存を守るための正当防衛権であることを考えると、この姿勢の異常さがはっきりするだろう。個人について、あなたは正当防衛権は持ってはいるが、行使してはならない、とすれば、その人は不当な攻撃を受けても、自分を守るために力を使ってはならないということになる。この制約は、犯罪の前科のある者への懲罰や制約のようなものである。

 どうしてわが国には、こういう姿勢が生まれたのか。わが国は大東亜戦争に敗れ、主権を失っていた占領期に、GHQから憲法を押し付けられたことによる。日本人は、その憲法を一字一句変えることなく、60年以上放置している。しかも、政府はその憲法をさらに自制的に解釈してきた。
 わが国は、現在も国際連合において、旧敵国という地位にある。この国連憲章における旧敵国条項と日本国憲法の前文及び第9条は、同じ性格を持っている。すなわち、第2次世界大戦における戦勝国が敗戦国に対して懲罰・制約を課したものという性格である。集団的自衛権は保有はするが行使できないというのは、戦勝国がわが国に対して、不利な条件を課したものなのである。

●政府の自衛権の要件は、集団的自衛権行使の要件となる

 政府は、自衛権の行使にあたっては、以下の三つの要件を満たさねばならないという政策を取っている。

(1)わが国に対する急迫不正の侵害があること
(2)これを排除するために適当な手段がないこと
(3)必要最小限の実力行使にとどまるべきこと

 政府解釈は集団的自衛権は憲法上行使できないとしているから、これらの要件は個別的自衛権に関する要件ということになる。さて、同じわが国の政府は、集団的自衛権について、憲法第9条の下に許容されているわが国を防衛するために必要な最小限度の範囲を超えるものだから許されないと主張する。例えば、平成16年(2004)1月衆議院予算委員会で、当時の安倍自民党幹事長の質問に対し、秋山收内閣法制局長官が次のように答えている。
 「(略)集団的自衛権と申しますのは、(略)我が国に対する武力攻撃が発生していないにもかかわらず外国のために実力を行使するものでありまして、(略)自衛権行使の第1要件、すなわち我が国に対する武力攻撃が発生したことを満たしていないものでございます。したがいまして、従来、集団的自衛権について、自衛のための必要最小限度を超えるものという説明をしている局面がございますが、それはこの第1要件を満たしていないという趣旨で申し上げているもの」だと。

 答弁中に言う第1要件とは、先に引いた「わが国に対する急迫不正の侵害があること」を指す。「急迫」とは、事の差し迫ること、せっぱつまることをいう。事態が切迫するとは、まだ事態は起こっていないが、いままさに起こらんとするほどに差し迫っている状態である。時制で言えば、近い未来のことである。ところが、秋山長官は第1要件について、「武力攻撃が発生したこと」と言っている。これは、事態が既に起こったことをいう。時制で言えば、過去または現在完了である。
 まだ起こってはいないがまさに起こらんとするほど急迫していることを、政府が自衛権の要件とするのであれば、他国への攻撃が行なわれ、そのまま放って置けば自国も攻撃される事態が差し迫っている状態にも当てはまる。これは、集団的自衛権の行使の要件となる。これに対し、秋山長官が既に起こったわけではないから自衛権の行使の要件を満たしていないと言うのは、「急迫不正の侵害」という政府の要件を捻じ曲げるものである。時制で言えば、近い未来の出来事を、過去または過去完了の出来事にすりかえているのである。

 次回に続く。