因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ガラス玉遊戯vol.3『サマータイム、グッドバイ』

2010-09-19 | 舞台

*大橋秀和作・演出 公式サイトはこちら 下北沢「劇」小劇場 19日で終了
 劇団、劇作家ともに初見だが劇団印象公演の『匂衣』『霞葬』で好演していた龍田知美が出演することが観劇の決め手となった。

 南の島の民宿が、開業10周年のお祝いをしている。あるじの佐紀子は島の人間ではないが、夫亡き後、島の人々に溶け込み、大変な努力をして民宿を切り盛りしてきた。祝宴に集まっているのは従業員はじめ、ご近所さんやたまたまこの日に泊まりに来ていたお客さんなどで、皆が佐紀子を信頼し、ともに喜んでいることがわかる。
 そこへ佐紀子の妹がやってきた。東京で経営コンサルタントをしている。和気あいあいとアットホームな雰囲気の民宿であるが、経営は思わしくない。妹はそれを建て直すために来たのか?
 

 姉の佐紀子を演じる藤野節子は気品があって美しく、この人なら地元の人々も「佐紀子さんのためなら」と協力を惜しまないであろうと想像する。対してひとまわりも年下の真紀を演じるのが龍田知美である。仕事柄であろうが、姉のやり方が甘く、たった2人の従業員の教育すら満足にできていないことや、なあなあの雰囲気で肝心の宿泊客へのもてなしが不十分であることなどを、来た途端に次々とあげつらう。やがて島の暮らしを記録映画にしたいという女性監督や、島の将来のために民宿をやめさせようとする地元の権力者がやってきたり、緩い空気の民宿が危機に瀕していることがわかる。

 登場人物の造形は少し大仰なところがあるものの、本筋に大きく関わらない人物についても、その心情や背景がきめ細やかに描かれており、「困ったお人だ」と思っても、次第に「そういう事情があるならしかたないか」と思わせるのである。家族を捨てて島にやってきた向井恵子(菊地奈緒/elePHANTMoon)しかり、自分の殻に閉じこもり、ハワイアンを暗く歌う従業員の明日香(山口真由子)しかり。
 なかでも龍田知美の真紀はやはり目を離せない人物で、前述の内容と若干矛盾するが、出番も台詞も多いのに、彼女の背景や事情についてはなぜかあまり明確にならない。どういうつもりでやってきたのか、ほんとうは何をしたいのか、どうもよくわからないのである。そこが自分にはおもしろかった。龍田知美をみていると、チェーホフ『三人姉妹』のイリーナや、岩松了の『赤い階段の家』のすず江、野田秀樹の『半神』のシュラなど、この人が演じる舞台をみたいという気持ちを掻き立てられる。古典から現代劇まで演じられる柔軟な力をもっている女優さんではないか。自分は無性に、ミナモザの瀬戸山美咲の舞台で、同劇団の看板女優木村キリコと向き合って火花を散らす龍田知美をみたくなった。それもこれまでみてきたあの役というわけではなく、これから瀬戸山美咲が生みだすかもしれない作品なので、どんな物語か、どんな役かもわからない。想像の域を越えた勝手な妄想に近いものだが、自分にとってはぞくぞくするほどの夢なのである。

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