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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

水素74%vol.6  田川啓介作・演出『荒野の家』

2014-02-08 | 舞台

*田川啓介作・演出 公式サイトはこちら こまばアゴラ劇場 16日まで 3月8日、9日は大阪市立芸術創造館でも公演あり (1,2,3,4,5,6,7,8,9,10) 観劇日は批評家の佐々木敦氏と田川啓介氏によるアフタートークがあった。司会進行は演劇研究・批評の山崎健太氏。
 今回は家族の物語である。10歳のときに母親のふるまいに傷ついて引きこもりになったまま30歳になってしまった息子と困り果てる両親、嫁いだものの帰って来た娘、彼女を追ってくるその夫、義父の世話に嫌気がさして「うちのお父さんの面倒をみて」と家に乗りこんでくるとなりの主婦、息子を更生させようと父親が連れて来た登山スクールの校長とスタッフ。
・・・と書いてみると、いかにもありそうな話ではある。ドラマや映画などのフィクションでも、現実の社会にも。

 これまでの田川啓介の作品を思い浮かべると登場人物の人数が多い。しかも3人以上の会話がもつれたり、相手の話を遮って自己主張したり、まったく無視したりなど、重なりやずれの多いやりとりが展開する約90分である。

 俳優の配役のバランスは絶妙で的確、それぞれの個性や持ち味を受けとめた上で役柄の特質をきちんと反映させた丁寧できめ細かい演出がなされている。俳優のちょっとしたからだの動き、声の色合い、表情の変化などが巧みで、どの人物からも目が離せない。

 しかしそれにも長短があって、俳優の巧みな演技をみることは確かに嬉しいのだが、そこで笑ってしまってよいのだろうか。たとえば父親が山梨にある登山スクール(あからさまに戸塚ヨットスクールを模している)の校長とスタッフを呼んでからのやりとりである。
 登山スクール側の芝居の巧いことといったら、これはもう舌を巻くほどである。居丈高な校長、かつては悩める人であったというスタッフも、そうとうに細かい演出がつけられていると察するが、みごとに応えている。
 だが「ここであっさりおもしろがってしまっては何かを見失うのでは?」と不安にかられる。観劇日は一部のお客さまが大笑いしておられ、その素直な反応にもとまどいがあった。おもしろいのだが、笑えない。自分は笑うためにここに来たのではない、というか。

 ならば何をしに来たのか。この日のアフタートークゲストの佐々木敦のことばをお借りすれば、演劇をみる喜びを求めて来たのである。佐々木氏の演劇をみる喜びは、筆者が求めているものとはちがうところもあるが、微妙に重なる部分もある。
 物語の家族の様相や設定は、リアルでありながらリアルでないところがある。子どもが引きこもりになり、夫婦仲もぎくしゃくし、周囲からも孤立したまさに「荒野の家」という状況は、じゅうぶんに想像できるものである。
 舞台の家族は、テレビドラマでも映画でも、ドキュメンタリーやさまざまな報道など、どこかでみたことがある雰囲気をつくっている。しかし冒頭から「コーラを買ってきて」、「お母さんは行かない」という母と息子のやりとりは、ありそうにみえてどこかヘンである。
 そのどこがヘンであるのは、何にくらべてヘンなのか、どのあたりがヘンなのか・・・などに思いをめぐらせることが本作の魅力であり、まさに演劇をみる喜びなのではないか。

 問いがあり、それに対する答を求める方向性を示す舞台ではない。かといってトークで佐々木氏が指摘されていたと記憶するが、「観客に委ねているわけでもない」ので、個々の場面の鋭さや活きの良さはいいとしても、あの終わり方をどう判断するのかはむずかしいところである。放り出したようでもあり、観客が困惑するのをわかっていながら敢えてこうしたのか、もっと作為的な意志をもって「わざと」こうしたのか。

 自分の受けとめ方もまとまっておらず、もやもやと煮え切らない気分がつづく。わかりやすい結末や結論がほしいわけではないが、あとを期待させるにせよ、もう一歩何かが必要なのではないか。具体的に言えば、となりの主婦と娘の夫(妻から犬扱いされている)は、もっと活かせる。劇作の技術をみせるのではなく、観客が演劇をみる喜びと言えるような何かを得られる作品が、田川啓介という人にはきっと書けると思うのである。

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