*南出謙吾作 森田あや演出 公式サイトはこちら 下北沢/小劇場楽園 4日で終了(1,2)
順調に歩みを進めている劇作家南出謙吾と、その花を咲かせようとする演出家森田あやによるユニットの第3回公演。俳優陣も常連に初顔が加わり、安定感と新鮮味が同居する好舞台となった。
どこか地方の町。駅からバスで20分の郊外で、都心部の中堅予備校が経営する全寮制の予備校が舞台である。暗転のたびに、職務室、生徒の住む部屋、車のなかなど、さまざまな空間に変化する。机やベッドなどの家具は決して小さなものではないが、本棚に布のカバーをつけて女子生徒の部屋に見せたりなど、実に巧い作りで違和感なく、ハンドル部分のみを小道具にして、山中を走る車に見立てたりなど、大胆な面もある。
家庭の経済的事情で予備校を辞めたい、しかし寮には住まわせてほしいと懇願する女子生徒に振り回される教師、謎めいて美しく、同級生だけでなく教師も惑わせる別の女子生徒、予備校を中退して浄水器の販売で成功し、ベンツを買ったという卒業生等々、登場人物は教師、生徒合わせて9名である。
今回の『明後日まで~』について、細かいところまで目を向ければつまづきそうなところはいくつかある。全寮制の予備校というからには、数十人の生徒が暮らしているのだろう。また大学受験の各科目に教師がいるはずだ。しかし舞台に出てくる生徒は3名、教師は4名で、いくらなんでも不自然である。部屋の外に大勢の生徒がいることを匂わせる描写もなく、しかし舞台を最後まで見る上で深刻な妨げに至らなかったのは、一人ひとりの人物に対して、劇作家が誰もが主人公のように心を注ぎ、背景にまで配慮したエピソード、台詞を書いたこと、それを適切に立体化した演出家、さらにその両者の思いを正面から受けとめ、自分のからだと声をもって舞台に立った俳優諸氏の演技がたしかであったためだろう。
本作の大きな特徴は、劇中、登場人物一人ひとりに独白の場面があることだ。劇場に入って奥の演技エリアが暗くなると、その正面、観客の出入口付近が明るくなる。彼らは現実の日常では言わないこと、言えそうにないことをつぶやくように、あるいは自らを鼓舞するように激しく発する。相手役はいない。観客に向けて、あるいは自分自身に向けてのことばは、まさに演劇ならではの手法であり、「観客だけが知る、もうひとつの真実」である。
南出謙吾は、公演の当日リーフレットの挨拶文や、戯曲のト書きを実に的確で、しかも温かな筆致で記す劇作家である。だがそれらを台詞じたいに反映することはむずかしく、「もったいないなあ」と感じることがあった。
本作で最初の独白は、わりあい早い場面で訪れた。ひとりの女性が、この町の様相について皮肉を込めて話す台詞は、旗揚げ公演『青いプロペラ』の当日リーフレットの挨拶文だ!書き言葉が違和感なく俳優の台詞に変容し、目で読んだときに感じた魅力がさらに増している。南出謙吾は劇作家なのだ。当然のことなのに、非常に嬉しかった。
観客だけに吐露される本音、心象。それを聞いた上でそこから続く物語を見るのはおもしろい体験である。しかし登場人物ぜんいんにその場があることで、いささか効果が薄まった印象も否めない。むろん、皆に本音を言わせたい、観客に聞かせたいという劇作家の優しさであると思うが、「言わせないでおく」、明後日どころか、「最後まで内緒にしておく」ことにも挑戦してみては?とさらに欲が出る。
また教師たちの話題になりながら、最後まで登場しない「森尾先生」は、終盤で幽霊として登場すると言えなくもないが、本作の影の部分を担う重要な人物であり、もっと膨らませる、逆に徹底的に隠すなど、何らかの発展があるように思えるのだ。そしてラストシーンをどう受け取るかは、自分にとってまだ課題として残っている。
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