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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

studio salt 第15回公演 『ビタースイート』

2011-05-25 | 舞台

*椎名泉水 作・演出 公式サイトはこちら Space早稲田  29日まで Space早稲田演劇フェスティバル2011参加作品 (1,2,3,4,5,6,6`,7,8,9,10,11,12,13,14) 
 スタジオソルトが「短編オムニバス」に挑戦、初日を観劇する。出演俳優は9人。複数の役を兼ねたり、ふたつの作品に同じ役で出演したり、少し入り組んでいるが混乱はしない。
 独裁政権下の国から国籍を偽り、麻薬を持ち込んだ兄と妹が入国審査で足止めされている「パーフェクト・ワールド」、放蕩を尽くした父が息子と20年ぶりに再会する「金柑」、バイト先で知り合った女の子に恋をする「半熟目玉」、放射能汚染が近未来のSFでは済まなくなったいま、おかしくも不気味な「もろきゅう」の4本である。

 Space早稲田は今回はじめて行く劇場である。大変小さいのに驚いた。天井も低くて圧迫感があり、大がかりなセットは組めないだろう。ステージ奥が簾のようなブラインドのようなもので閉じられており、それが左右に開いて空間を仕切る。狭いステージの上で異なる4つの物語を運ぶための有効な舞台美術である。

 いっけん別々の話のようにみせて、あるモチーフに沿ってゆるやかに繋がっていく様相をみせるもの、点描を重ねて最後にまとめてゆくもの等、オムニバス形式にもさまざまなものがある。4編すべてが書き下ろしではなく、椎名泉水の短編小説がベースになっているものもあるとのこと。自分は1本めの「パーフェクト・ワールド」で、この世界にすんなり入っていけた。死も覚悟しているわりにはどこか抜けている兄と妹、あまり熱心でない審査官とインチキくさい通訳のずれたやりとりはおもしろく、これからはじまる物語がリアルな現実を描いたものなのか、そうでないのか期待を抱かせ、観客に心の準備を促す巧い導入である。

 物語の内容としては、3本めの「半熟玉子」が気になっている。これがもともとは短編小説であったのか要確認なのだが、主人公の語りによって進行する。この形式と俳優の演技のバランス、強度には一考の余地があるだろう。これがチェルフィッチュの岡田利規であれば、みるほうがじりじりするくらい俳優にことこまかに語らせるのかしらと思う。腰の落ち着かない感じの男が、やや特殊な容貌の女の子を好きになり、告白するまでの心象風景は、恋は素敵なものではあるけれども、その心のなかに相手に対する優越感、おめでたいくらいに自分勝手な思い込みがあることを示す。女の子役の鶴田まや(劇団仲間)が、自分の容貌に達観しているかのように素直で自然な演技をみせる。

 4つの短編にどうつながりを持たせてあるか、それが演劇的に有効であったかどうかは正直なところ、少々難しい印象があった。しかし登場人物が次々に集まってあるスポーツに興じるラストシーンの描写には、彼らの世界が自分たちの日常に迫ってくるかのような不思議な迫力があった。初日が開けたばかりなのであまり細かいことは書けないが、まさに題名のとおり、「ビタースイート」な作品であった。

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