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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

パラドックス定数 第27項『戦場晩餐』

2011-11-19 | 舞台

*野木萌葱 作・演出 公式サイトはこちら 渋谷SPACE EDGE 23日まで (1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13)
 この季節に台風上陸かと思われるほど激しい雨が、SPACE EDGEを容赦なく叩きつける。
 「この劇場は壁と屋根のある野外です」という開演前の野木さんの挨拶は客席へ寒さ対策の呼びかけであったが、今夜の敵は寒さよりもまさかの雨音であった。
 昨年3月の『ブロウクン・コンソート』のときも、電車など外の騒音で台詞の聞き取れない箇所があったが、決定的な妨げにはいたらなかった。俳優が声を大きくすればよいというわけではなく、自分の観劇した夜の回は、外はどうあれ基本的な声量を変えていないと思われ、結果として手ごたえがじゅうぶんとは言いかねる観劇になった。
 多少のアクシデントは乗り越られたそのとき、「この日に観劇してかえってラッキーだった」という思いがけない喜びをもたらす。夏のフライングステージの『ハッピー・ジャーニー』がまさにそうであった。しかし今夜はどうしようもなかった。非常に残念だ。

 政治的な戦争ではなく、日本人と「あちらさん」(中国を想定か)小競り合いが仕返しに次ぐ仕返しで収拾がつかなくなり、戦地と化してしまった東京・渋谷の中華料理店が舞台である。客足はばったり途絶え、注文が来れば地雷や襲撃や自爆テロで死ぬことを覚悟でデリバリーに行く。
 題名の「戦場晩餐」、まさにその通りの物語が展開される1時間55分である。

 近未来を設定した作品はほかにもたくさんある。そのほとんどが、いかにもSF風の小ぎれいな雰囲気を作っていたことを思い出すと、今回の『戦場晩餐』はずっと泥臭い。ほんものの料理がいくつも出てきて、俳優が実際に飲み食いするせいもある。
 しかしそれなのに作者が描いた近未来の日本の様相がいまひとつピンとこなかったのは、自分が平和ぼけしているのだろうか。
 アメリカでは民間人は誰も銃を所持しなくなったのに、この店には武器商人が足しげく通い、料理のデリバリーに地雷や武器を忍ばせていることを疑って刑事も顔を出す。外国人への激しい憎しみや排斥、貧困や文盲(!)が珍しくないことなど、取ってつけたようではないものの、作者が今なぜこの物語を書いたのか、意図をはかりかねた。
 世の中がどうであろうとたやすく影響を受けず、いつも通りのことをいつも以上に淡々と新作を書き続ける作者の姿勢を信頼しているのだけれども。

 これはもはや好みの問題になってしまうのだが、自分としては近未来の様相や作者の脳内の妄想を描いたものよりも、実際の事件をベースにした作品をみたい。作家の筆は勢いよく、しかも安定感があり、劇団員はもちろん、客演ふくめ俳優陣も手堅い。これほどコンスタントに新作の上演が行われていることに驚嘆する。もっと高く、もっと深く・・・とパラドックス定数への要求はとどまりそうになく、激しい雨音を「どうにもならなかったのか」と歯がゆく思うのである。

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