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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

オフィス樹 特別企画公演 半夏生の会『読む・話す・演ずる』

2015-08-05 | 舞台

*公式サイトはこちら 南大塚ホール 8月5日のみ
 半夏生の会はオフィス樹が主催する語りの会で、俳優座出身の超ベテラン女優・阿部寿美子を中心に、演劇や映像で活躍する現役の俳優陣によって構成されている。これまでも「語りライブ」、「民話を語る会」、「落語ワークショップ」など、さまざまな企画公演を行ってきた(1)。
 児童文学者の長崎源之助の作品を中心に編まれた今回のプログラムは以下の通り。
 ①「私のよこはま物語」より『鉄道開通』 長崎源之助作 
 明治初期、日本に鉄道がはじめて開通した。外国人技師とその日本人妻、周辺の人びとの暮らしが生き生きと描かれた作品。阿部寿美子はじめ7名が読む。
 ②『汽笛』 長崎源之助作
 終戦後の長崎の病院で、原爆に傷ついた子どもたちとひとりの青年の温かな交流を、市川兵衛のひとり語りで。
 ③『お父さんの家、ぼくの家』 悠崎仁
 東日本大震災による福島第一原発事故で、大切なペットを自宅に置いたまま避難せざるを得なかった人と、その犬の悲しみが、比嘉芳子の温かな声で優しく語られる。
 ④『雨傘』 川端康成作
  少年と少女の初々しい恋が描かれているのだが、進むにつれてあんがい深く生々しいものも感じさせる不思議な短編。神由紀子がしっとりと読む。
 ⑤『羅生門』 芥川龍之介作
 いわずとしれた芥川の『羅生門』である。老婆のすさまじい容貌を容赦なく描写したところを改めて耳から聴くおもしろさ。仲木隆司が語る。

 ⑥休憩をはさんでいよいよ阿部寿美子が登場。長崎源之助作の『ハエ』がはじまった。
 太平洋戦争末期、中国戦線に配属された二等兵の交流と別れが描かれた作品だ。お人よしで周囲からこき使われているマヤマと、大学出のインテリで皮肉屋のオガワが、何とはなしに心を通わせるようになる。
 マヤマとオガワは生まれや育ち、ものの見方もまったくちがう。それを声や表情を瞬時に変えながら、ふたりの気持ちが次第に寄り添うさまを丁寧に、確実に示す。とくにマヤマが妹に出すたよりを、オガワが代筆(代弁)してやる場面が秀逸で、それだけに終幕の悲しみがいっそう強まる。『泣いた赤おに』と『ごんぎつね』がいっしょになったような物語というのか、相手への思いやり、友情ゆえの悲劇であろう。

 たっぷり1時間強の物語だ。椅子にかけたままで、台本を手に読むとはいっても、そうとうな労力であると想像する。しかし阿部は緩みや疲れをまったくみせずに語り切る。みごとと言うほかはない。40数年前、NHKの人形劇『新八犬伝』で、阿部寿美子が演じた「玉梓が怨霊」に夢中になった昔の小学生は、同じ人が目の前で語っていること、作品の的確な理解が熟練の語りをいよいよ際立たせる魔法にことばを失った。
 紙に記された物語は、舞台の俳優の「読む・話す・演ずる」によって立体的になり、つぎは観客の「見る・聴く・感じる」によって、さらに新しい世界を形成する。となると、昨今数多く上演されている「リーディング公演」、「ドラマリーディング」をどうとらえればよいのか。半夏生の会は、「構成」と記すにとどめてあるが、「語り」の演出とは、どのようなものなのか。語られることで強調されることばもあれば、目で読むにとどまったほうがよいものもある。新たな課題である。

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