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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

第48回名作劇場『犬を食ってはならない』&『良緣』

2019-03-14 | 舞台

*川和孝企画公演+シアターX提携公演 日本の近・現代秀作短編劇一〇〇本シリーズ 公式サイトはこちら1,2,3,4)両国・シアターX 16日まで。
 
1994年秋、小山内薫の『息子』でスタートした「名作劇場」は、今回の公演で上演本数が98本となり、目指す100本にあと2本と迫った。40分から長くとも60分の一幕劇に描かれた人生の断片、人々の心を客席に届けんとする試みには、手作りの温かさと、時代がいかに変わろうと、頑として志を曲げない堅固な姿勢がある。

作間謙二郎『犬を食ってはならない』…東北地方のある小さな町で、部落長である長兵衛は、持病の喘息が治ると信じて赤犬を食い、実際発作が収まって小康を得た。そこへ鳥を主とする動物愛護団体を立ち上げようとする公民館長の三之助がやってきて、犬を食らうとは何事かと詰め寄る。長兵衛は否定するが、登場人物のなかには、「犬を殺す男」というそのものずばりの吾作がおり、ひと騒動となる。おもしろいのは、三人の男たちそれぞれの女房だ。長兵衛は何かというと女房のおさくを怒鳴り、威張り散らすが、おさくはからりとした気性で意に介さず、言うべきことはきちんと言う。三之助の女房も、男たちよりもよほど冷静にことの次第を捉えており、上品である。最初に登場したときは酩酊していた吾作は、女房が愛想をつかして里に帰っており、後日神妙な面持ちで「これから詫びを入れに行く」と言う。テーマや主張のある作品ではないが、丁々発止にならず、どこかずれてとぼけたやりとりが楽しい舞台である。
山田時子『良』…作者の経歴については、演出の川和孝がパンフレットに詳しく記しているが、大正生まれの山田時子が24歳の時、疎開先から家族を残して再び東京へ戻り、職場の寮で生活した実体験
に戻づいて書かれた戯曲である。父親の故郷である地方に疎開し、終戦を迎えた。遠縁の男性と思われる許嫁は戦死し、地元の有力者の息子の嫁にと、本家の伯父に勝手に話を進められてしまう。あの人とは結婚したくない、東京で働きたいと訴える敏子に、本家に世話になっている負い目から、嫁がせたい両親、姉をかばう妹、居丈高に結婚を迫る伯父、あいだにたつ小母たちのやりとりが生々しく展開する。
 劇中幾度となく女の幸せはとか、女なんだからという類の台詞があるが、古い話とは思えない切迫感がある。戦後女性が参政権を得て、男女は平等との教育がなされた。しかしいまだに某医大の入試で女子学生が不当な扱いを受けたり、就
職活動において企業からハラスメントを受けたり、学術の場においてもさまざまな事件が報道されている。小母も本家のやりくちは気に入らないが、本家の庇護を受け入れざるを得ないために、「女は年を取ればそれだけ貰い手が減る」と敏子を説得したり、「結婚は我慢だ、いやだというのは我儘だ」と泣きすがる母親ともども、横暴でも旧態でもなく、みずからの経験によって、女が生きる辛さを思い知っているからこそ、敏子を説得していることがわかる。誰も間違ったことは言っていない。

 ふと81年に放送された山田太一のテレビドラマ『想い出づくり』(Wikipedia)を思い出した。当時結婚適齢期と言われた24歳の女性たちの揺れ動く心象を描いた作品だが、おそらく今見ても身につまされるところはたくさんあるだろう。

 題名の『』は、そのものズバリであると同時に、幸せを願ってやまない人々の切ないまでの気持ちが込められており、ほろりとさせられる。老若男女、見る人によってさまざまな感慨を持つ佳品であろう。

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