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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団あおきりみかん『パレード旋風が巻き起こる時』

2008-07-13 | 舞台
*鹿目由紀作・演出 公式サイトはこちら 池袋シアターグリーンBOX in BOX THEATER 公演は13日で終了
 ジュンク堂書店でサローヤンの戯曲集を選んだりしていて気づかなかったが、またにわか雨があったらしい。劇場に向かうころにはやんでおり、今日は幸運な「芝居日和」になった。劇団あおきりみかんは1998年名古屋の南山大学演劇部のOB,OGを中心に旗揚げされ、今回が18回めの公演とのこと。アンケートの「この公演を見ようとしたきっかけは?」のところに、「ビビッときて」という項目がある。自分はチラシをみて「ん?」と思い、数日考えてチケットを申し込んだ。

 当日リーフレットのCASTに「女1」に続いて、「女2-1 女2-2」と女2が5人もいるらしい。その中には男性俳優の名前もあるし、これはいったいどういうことなのだろう?

 ベンチに座って、ずっと蟻を観察している女1がいて、彼女に話しかける男が登場する。女1はパレードをするコミュニティに属しており、そこは「女王さま」と呼ばれる女2が仕切っている。メンバーたちは動物の着ぐるみ姿で、全国の物産展や暴走族の集会まで、パレードをすることによって自己実現、自己解放をしているらしい。「パレード」という言葉やそれがどういうことを意味するのかぴんとこなかったのだが、物語が進むうちに、これは思いも寄らず深いものを描こうとしているのではないかと感じ始めた。

 この日はアフタートークがあり、ゲストはガジラ主宰の鐘下辰男であった。作・演出の鹿目由紀との対談は、本作を考えるにあたって参考になると同時に、何気なく「みてしまっている」舞台にさまざまなことが読み取れることを気づかせてくれるものであった。逆に言うと、このアフタートークを聞かずに本作を自分のみた印象だけでどこまで考えることができたか、非常に心もとない。幸運を喜ぶとともに多少情けない気もする。

 女2は自分を変えたいと願っている。周囲の影響をもろに受け、そのたびに中身も外見も別人のように変ってしまう。「別人のように」を、まさにこの舞台では5人の俳優が演じ継ぐ手法で表現していたのである。女2-2あたりまでは半信半疑で冗談かと思っていたら、ほんとうだった。こ、こういう方法があったのか!女2を主役にして、すべてを彼女の視点で描いたとしたら、「自分さがし」のありがちで先の読める話になっていたと思う。女2を観察する女1と、さらに彼女たちを観察する男たちの視点を置いたことで、物語は重層的になり、エンターテイメント性も高くなった。これは作者の作劇の巧さというより、鐘下辰男が指摘していた「人間をみる眼差しの優しさ」に起因すると思う。女1の観察日記をもとに、過去をリピートする場面や力強い群読など、稽古がしっかり入っていることが感じられる。素直すぎる題名が少し残念に思えた。もう少し象徴的、抽象的でもよかったのではないか。

 アフタートークに話を移すと、鐘下は名古屋と東京の演劇状況を比較して、「東京は演劇の見本市状態。個々のブースは賑わっているが、互いの交流がない。名古屋のほうが小さいようにみえて、健全ではないか」ということを話していた。この日の昼間下北沢で、3つの芝居が掛かっている場所にいたことが、何やら象徴的に思えてきた。
満員の盛況、高校生や大学生が多いようであった。客席のノリが非常によくて、はじめはそれについていけなかったのだが、中盤以降は自分のペースで楽しめた。終演後にロビーで荷物を渡したり、アンケートを回収したり、出演者、スタッフ総出のお見送りである。その表情が充足感に溢れて、何と明るく嬉しそうなこと!こちらまで幸せになってくる。劇団あおきりみかんに出会えた夏の夜に感謝である。
 
 

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