因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

パラドックス定数第十八項『インテレクチュアル・マスターベーション』

2009-03-28 | 舞台
*野木萠葱作・演出 公式サイトはこちら シアター711 4月1日まで これまでの劇評はこちら(1,2)。このあいだまで映画館だったところが、劇場としてリニューアルした。客席が舞台を挟む形は、昨年10月の『三億円事件』を思わせる。途中気分が悪くなったりした場合の退場については開演前に野木萠葱から行き届いた説明があるので大丈夫である。
 本作執筆のきっかけは、作者の野木が居酒屋でのおしゃべりのなかで「大杉栄」をリクエストされたことが発端だという。では大杉栄が主人公かというと、荒畑寒村の絡み方、幸徳秋水の存在はじめ、あの時代を傷だらけになって生き抜こうとした男たちの群像劇なのだった。幸徳秋水といえばた大逆事件であるが、本作は秋水がもはやこの世の人ではなくなった時にはじまり、そこに行くまでの日々を描いたのち、再び幸徳の不在を示して終わるものである。

 パラドックス定数といえば「メガネ男子」の別名で語られるが、今回はみなさん「裸眼」で、しかもどの人物も赤いシルクを基調にした妙にお洒落な格好をしており、あの時代を写実的に描くのではなく、数脚の椅子や蝙蝠傘以外の何の装置もない裸舞台で観客の間近な視線に晒されながら、今を生きる俳優の肉体を通して、会ったことのない実在の人物の、ある側面に肉薄したものである。

 嘘は書けないので正直に言うと、途中どうしても睡魔に襲われ全編をちゃんとみることができなかった。この程度の寝不足や疲れはいつものことであるし、劇の流れに必死についていきたいと願っているのにどうしてもだめであった。登場人物や時代背景などを事前に調べておけばよかったのだろうか。残念でならない。

 終演後の野木萠葱の挨拶は、いつもながら優しく行き届いたもので、今回も客席から拍手が沸いた。野木先生、面目ない。因幡屋今回はいけませんでした。願わくはもう一度チャンスが与えられんことを。
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