TPP交渉参加をめぐって、安倍晋三首相は煩悶にしているはずだ。決断に手間取っているのは、そのせいだろう。アメリカに依存してきた戦後体制からの脱却は、今日明日で決着がつくものではない。世論調査の結果では、賛成が反対を上回っているのである。しかし、ここで前のめりになれば、安倍首相が目指している国家像とは、相反することになりかねない。私自身は断固反対であるが、安倍首相が政権を運営するにあたって、ある程度譲歩することを、一切認めないわけではない。ただし、肝に命じて欲しいのは、いかに妥協しようとも、自らの信念を捨てないということだ。平川裕弘は『小泉八雲と日本の神々』において、マッカーサー憲法において、日本人の固有の信仰が否定されたことに触れ、違和感を表明している。時代の趨勢とはいえ、それによって失われたものが大きいからだ。平川は穂積陳重の言葉を引用しながら、「家トハ一男一女ノ自由契約ナリト云フ冷淡ナル思想」に依拠するのではなく、もっと日本人に密着した法律を提案している。「我国ハ祖先教ノ国ナリ、家制ノ郷ナリ。権力ト法トハ家ニ生レタリ。不羈自由ノ個人ガ森林原野ニ敵対ノ衝突ニ由リテ生レタルニアラザルナリ」という穂積の主張を、もう一度安倍首相は噛みしめるべきだろう。それが日本の保守の原点なわけだから。
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