メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

プーシキン「大尉の娘」

2024-05-20 14:02:08 | 本と雑誌
プーシキン: 大尉の娘  坂庭淳史 訳  光文社古典新訳文庫
 
これまで読みとりあげた作品は韻文だったり(訳は散文に近いものになっていたが)、短編だったりしていたが、これはもう少し長い本格的な物語(ロマン)である。
ロシアのプガチョーフの乱(農民戦争)(1773-1775)を舞台にとり、この中にまきこまれた下級貴族の青年と彼がいた要塞の司令官(大尉)の娘の波乱に満ちた話であるが、これだけの話にしては訳者も指摘しているとおり短い。文庫で250頁ほど。
 
十代のころからロシア音楽で親しんでいる名前、ドン、コサック、このあたりが背景で、プガチョーフが皇帝を僭称して反乱を起こし、そこで戦いながら惚れた娘をかくまい助けていく。
ただ対するプガチョーフとのやりとりは一筋縄でなく、ここはこういう時代のこういうきれいごとではない関係が続くから、物語の記述としても面白さもでてくる。
 
様々な登場人物の設定、あんな人物とこんな人物の邂逅、それがもたらす結末、この時代この地域の様相を彷彿とさせる。
 
ロマンと叙事をうまく結合して面白く読ませてくれた。これがなかったらかのトルストイが「戦争と平和」を書いたかどうか。こっちは数倍それも叙事が長いから、苦手なトルストイで中年すぎて「戦争と平和」くらいはと思って読んだのだが、読み終わってやはり数人の男女のロマンスを中心にしたあの映画の方が原作者には失礼だが、よかった。
 
詩人プーシキンが物語作者プーシキンとしてロシア文学史上に輝く存在になった作品と言っていいだろう。



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