メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

プーシキン「スペードのクイーン/ベールキン物語」

2024-05-11 14:43:46 | 本と雑誌
プーシキン:スペードのクイーン/ベールキン物語
 望月哲男 訳 光文社古典新訳文庫
 
スペードのクイーンは先のオネーギンと同様チャイコフスキーのオペラで見たことがあるが、オネーギンが中編小説の長さだったのに比べこちらは短編に近い。オペラではそんな感じはなかったが。
訳者の説明ではこれまではクイーンでなく女王と訳することが多かったがあえてこうした。この話を読めばわかるようにこれはカードの札の一つであり、そうであればクイーンが適当ということにはなる。
 
それはともかく、これは貴族の娘と青年将校の恋に伝説のカード使いである老伯爵夫人がかかわる。青年の求めに耐え切れなくなり老夫人が教えた三つのカード組み合わせ、それが翻弄する主人公の運命、オペラでは盛り上がりがぴったりだったと思う。ただこれは賭博というものを深く考えてみないと面白みがないのかもしれない。それは訳者の解説でよりよく理解できる。
 
賭博はある意味万人に公平で、なぜこれに賭けるかというのは人間とそれが生きている世の中で本質的なものかもしれない。こののちドストエフスキーなども関わってくる。
ただ上述のように著述はちょっと短く、チャイコフスキーはそれを膨らませたといえるだろう。
 
ベールキン物語はベールキンという架空の作者の短編集という形で発表された五つの話で、かなりちがうタイプの典型といったらいいか、読み物としては面白いし、それでいて考えさせられる結論、人生とはこういうものかという作者の指摘・思いが読後に残る。あえてあげればしかけの面白さで「射弾」、しみじみ心に残る「駅長」。
 
叙述は丁寧でうまく、これがロシアの後の作家たちにつながっていったのだろう。
訳は明快で読みやすい。


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