メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

スタインベック「ハツカネズミと人間」

2024-06-02 16:05:20 | 本と雑誌
ハツカネズミと人間 ( OF MICE AND MEN )
  ジョン・スタインベック 作 大浦暁生 訳 新潮文庫
 
タイトルは知っていたが読んでみようと思わなかったのは描かれている世界が貧しい人たちでそのかわいそうな運命という単純なイメージがあったからだと思う。
 
カリフォルニア州サリーナスあたりに仕事を探している二人の男ジョージとレニーが現れる。ジョージは小柄で機転が利き、レニーは大柄だが知恵遅れで、ジョージはその世話を頼まれておりそれをいやとは思わない。レニーは自分が足手まといだろうとわかっているのだがジョージはかまわない。
 
週の後半に仕事を求めてある農場に現れ、そこで何人かのちがった背景、くせのある人たちと出会いやり取りがある。この会話が無駄なく深く優れた描写になっていて秀逸。
ジョージはハツカネズミやうさぎが好きなレニーに、二人で働いて少しずつ金をため、小さい土地を買って草を育てうさぎなどを飼おうという。レニーはそれを頭にいれ、何かがあるとおれたちはそうすると何度も口にする。普通ならこれをうるさい、くどいと思うはずだが、そうでないジョージ、この進行がとにかくうまい。こういう文章がなぜ書けるのか。
 
ジョージが心配していたことをレニーがやってしまい悲劇的な結末になる。この10ページほどのしんみりした、ほのぼのとしたともいえる文章、こたえるが再度読んでしまった。

スタインベックには「怒りの葡萄」、「エデンの東」というサリーナスを舞台にした貧困に苦しむ民衆を描いた叙事的物語の作家というイメージがあった。ノーベル文学賞を受賞していて、おそらくその対象となる業績は「怒りの葡萄」あたりだろう。しかし明らかに注目すべきはこの160頁あまりの中編であり、これだけ優れた文学作品はヨーロッパにもちょっとない。
 
ジョージとレニーの最後の場面は映画にできないだろう。演劇化はされているようで、舞台ではかなり工夫のしようがあるかもしれない。

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