メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

鬼軍曹ザック

2007-06-20 23:18:50 | 映画
「鬼軍曹ザック」(The Steel Helmet、1950、米、84分)
製作・監督・脚本:サミュエル・フラー
ジーン・エヴァンス、ロバート・ハットン、スティーヴ・ブロディ、ジェームス・エドワーズ、リチャード・ルー、ウイリアム・チュン
 
1950年に作られた朝鮮戦争を舞台とする映画というのがまず驚きである。翌年、米国そして日本でも公開されている。
 
戦闘で負傷し手を縛られて捨てられた軍曹ザックが通りかかった韓国の少年に助けられ、二人で逃れていくと中尉が率いる別の部隊と遭遇、なんとか無人の寺院にたどり着き、さてこれからというところで、隠れていた北の兵士に殺されるものが出始め、不気味な雰囲気の中で、最後は一気に戦闘シーンに入っていく。
 
軍曹、中尉、韓国人の少年、日系の米兵、病気で髪の毛がなくなった兵士など多彩な役柄が配置されている。そして寺院で捕まえた北の将校が妙に米国のそれまでの大戦、国内事情、人種問題などに通じていてその撹乱はちょっと大げさだが、これは作者の米国観をシンプルに出したのだろう。
 
そういう設定が今でもうんざりしたものにならなかったのは、各人の出自、性格、何らかのきっかけで始まってしまった何組かの確執、それらが最後の20分ほどの敵との途切れない戦闘シーンの中で、見事に折りこめられ、しかもそれだけに終始せずそこにはちょっとしたところで人間の尊厳が随所に次々と現れる。見事な作劇、画面の展開というしかない。
 
実はこのモノクロ画面、低予算だからだろうか、屋外戦闘も特に工夫はないし、室内セット撮影と思われるシーンもテレビドラマを思わせるアップ画面多用になっている。それでも後半になると気にならない。
 
いやむしろ、その後のテレビの戦争ドラマは、この映画の影響を受けているのではないだろうか。
 
そして、その後のベトナムを始めとする、米国が味わうであろう見えない恐怖が予言されているようでもある。
 
原題にあるように、映画は鉄のヘルメットで始まり、鉄のヘルメットで終わる。頭を守るヘルメット、そして人と人をつなぐヘルメット、うまい。
 
この少年にザックはショート・ラウンド(Short Round)という名前をつける。そのときのザックの台詞(字幕)では「最後まで達しない弾」jという意味だそうだ。roundを辞書で引くと、一発分の弾薬という意味があるから、これは戦場における少年であるがゆえに半人前という意味だろうか。それでも弾薬は弾薬であって、ザックが少年を可愛がっている気持ちが反語的にあらわれている。
 
この少年、毛筆で字を書くのが好きで、そのあたりサミュエル・フラーの東洋に対する興味、ある種の敬意なのだろうか。
 
ある解説記事によると、ショート・ラウンドという役名は「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」(1984)に出てくる少年につけらられている。(見たはずだがよく覚えていない。)
これは、スピルバーグやルーカスのフラーに対するオマージュだそうだ。
 
この映画は日本ではビデオ化、DVD化がされておらず、半世紀以上前の劇場公開後に字幕つきで見られたのは、WOWOWで最近数回放映されたのが最初のようだ。
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