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Ronsard, "Amourette"

ピエール・ドゥ・ロンサール
「恋のようなもの?」

冬ですね、氷がもう、厚くてかたい。
ふたりで温まりません?
炉端の灰の前で丸くなる、というのではなく、
気持ちいい恋の戦い、なんていかがですか?
この柔らかいベッドにすわって。そうそう。
ちゅ、ってキスしてください。唇は、ほら、こっち。
両腕でぼくの首、ぎゅってしてください。
ちょっとのあいだ、お母さんのことは忘れましょう。

歯で君の乳首をころころしたいですね。
君の髪、ひと筋ひと筋、ほどいていいですか?
いやいや、楽しくイチャイチャするだけですから、
日曜みたいに髪を整えたりとか、いらないです。

だからほら、もっときて、ほっぺをこっちに向けてください。
顔が赤くなってます。恥ずかしい? でも、やめませんから。
笑ってるじゃないですか。聞こえました?
嬉しいですか?
胸、さわっちゃお、って
言ったんです。いいですよね?
無言で逃げないでください。わかってます、
その目は嬉しいんですよね。
顔を見ればわかります。
愛の神に誓ってもいいです。恥ずかしいから、
死んでも自分の口から言わないんでしょう、
キスして、って。本当はしたいのに。
女の子はみんな、恋愛ごっこが好きなくせに、
自分からはいかないんですよね。
エレーヌがいい例です。自分から
パリについていったのに、彼が誘拐したことになってます。

ぼくが優しくお手伝いしてあげます。
さ、横になって、おまえはもう逝っている、なーんて(笑)。
あははっ! ぼくの心も逝きそうです!
だって、ぼくがキスしなかったら、ぼくのこと、ばーか、って
思うんでしょう? ひとりぼっちでベッドで寝ながら(笑)。
だから、ちゅ、って。そう、OKです。ぼくの茶髪のかわいこちゃん。
もう一回しましょう。ぼくたちの美しい時間を
また熱くすごしましょう。さっきみたいに気持ちよく戦って。

*****
Pierre de Ronsard
"Amourette"

Or que l’hiver roidit la glace épaisse,
Réchauffons-nous, ma gentille maîtresse,
Non accroupis près le foyer cendreux,
Mais aux plaisirs des combats amoureux.
Assisons-nous sur cette molle couche.
Sus! baisez-moi, tendez-moi votre bouche,
Pressez mon col de vos bras dépliés,
Et maintenant votre mère oubliez.

Que de la dent votre tétin je morde,
Que vos cheveux fil à fil je détorde.
Il ne faut point, en si folâtres jeux,
Comme au dimanche arranger ses cheveux.

Approchez donc, tournez-moi votre joue.
Vous rougissez? il faut que je me joue.
Vous souriez: avez-vous point ouï
Quelque doux mot qui vous ait réjoui?
Je vous disais que la main j’allais mettre
Sur votre sein: le voulez-vous permettre?
Ne fuyez pas sans parler: je vois bien
A vos regards que vous le voulez bien.
Je vous connais en voyant votre mine.
Je jure Amour que vous êtes si fine,
Que pour mourir, de bouche ne diriez
Qu’on vous baisât, bien que le désiriez;
Car toute fille, encor’ qu’elle ait envie
Du jeu d’aimer, désire être ravie.
Témoin en est Hélène, qui suivit
D’un franc vouloir Pâris, qui la ravit.

Je veux user d’une douce main-forte.
Hà! vous tombez, vous faites jà la morte.
Hà! quel plaisir dans le coeur je reçois!
Sans vous baiser, vous moqueriez de moi
En votre lit, quand vous seriez seulette.
Or sus! c’est fait, ma gentille brunette.
Recommençons afin que nos beaux ans
Soient réchauffés de combats si plaisants.

https://www.poetica.fr/poeme-173/pierre-de-ronsard-amourette/
- 現代フランス語つづりに修正済み。
- 原文および散文英語訳はRonsard, Selected Poems (Penguin, 2002) を参照。

*****
Le Second Livre des Amours (1556) より。

外は寒いから、というホラティウスのオード1.9が
元ネタ。比較すると笑ってしまうはず。ロンサールが
あまりにもひどい脱線のしかたをして、無茶な方向に
突っ走っているので。

Fanshawe (tr.), Horace, Ode 1.9
Milton, ("Lawrence of vertuous Father vertuous Son")
Vaughan, "To Master T. Lewes"
Dryden (trans.), Horace, Ode I.9

*****
この詩は、当時英語に訳されていないが、イングランド
(の詩)人が読んでいたはずの作品。フランス語
(やラテン語)を読む力、少なくとも読みたいという
意思・意志や努力がなければ、当初は刺激的な娯楽に
ありつけなかった、ということ。

(すぐに英語でも同様の、あるいはもっと悪趣味な、
詩が書かれるようになる。それでも、英語が読めない・
本が買えない大多数のイングランド人には、まだ
縁のないものだった。)

エロティックな絵画・彫刻などは、宮廷人以上の
地位または宮廷にコネがないと見られなかった。
(大陸に行くお金や大陸の宮廷へのコネがあれば
さらによかった。)

結論:
- 階級差とは知識の差・娯楽の質の差。
- 芸術とは単なる娯楽。

*****
エレーヌはヘレネ、パリはパリス。
トロイア戦争への言及。

16世紀のネオ・ラテン詩人セクンドゥス
(Johannes/Janus Secundus)がこの手の、
エロティックで道徳的に挑発的な詩の先駆。

なお、作品中の "sus" は音から解釈。

*****
キーワード:
Carpe diem カルペ・ディエム
Horace ホラティウス
Ovid オウィディウス
Secundus セクンドゥス

*****
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