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Jonson, from "To Penshurst"

ベン・ジョンソン (1572-1637)
「ペンスハースト邸に」より

そこには、ガメッジ家から名づけられた茂みがあり、
大きく育ったシカをさし出してくれる。
いつでも、友人たちを宴でもてなしたいとき、みんなで狩りをしたいときには。
川へと下るところでは、
羊、オス・メスの牛、子牛たちが草を食べている。
少し高いところの土地が、オスやメスの馬たちを産み、育てる。
すべての坂が君のためにウサギを育て、一番高いところ、
木の茂ったアッシュアー・ウッドは、
君の食卓を完成させるべく、
脇に斑点のある赤いキジを提供する。
色鮮やかなヤマウズラがあちこちの野原にいて
君の宴のためによろこんで殺される。
もし波の高いメドウェイ川で魚がとれなくても、
君の池が、貢ぎ物としてちゃんと魚を納めてくれる。
脂ののった鯉が君の網にみずから飛びこみ、
共食いに飽きたカワカマスは、
次の網や釣り針を待てないとばかりに、
律儀に一投目の網に自分をさし出す。
つやつやのウナギも、負けじとばかりに陸に飛びあがる、
釣り人の前、あるいは手のなかに。
君の果樹園には果実がなり、庭には花が咲く、
そよ風のように新鮮に、朝のように新しく。
まずサクランボ、その後でスモモ、というように、
イチジク、ブドウ、マルメロなど、みな順番にやってくる。
頬を赤く染めたアンズとうぶ毛の生えたモモが、
壁のところになっている。子どもたちでも手が届くように。

* * *
Ben Jonson
From "To Penshurst"

Thy copse too, nam'd of Gamage, thou hast there,
That never fails to serve thee season'd deer, 20
When thou wouldst feast or exercise thy friends.
The lower land, that to the river bends,
Thy sheep, thy bullocks, kine, and calves do feed;
The middle grounds thy mares, and horses breed.
Each bank doth yield thee conies; and the tops
Fertile of wood, Ashore and Sydneys copse,
To crown thy open table, doth provide
The purpled pheasant, with the speckled side:
The painted partridge lies in ev'ry field:
And for thy mess is willing to be kill'd. 30
And if the high-swoln Medway fail thy dish,
Thou hast thy ponds, that pay thee tribute fish,
Fat aged carps, that run into thy net,
And pikes, now weary their own kind to eat,
As loth the second draught, or cast to stay,
Officiously at first themselves betray.
Bright eels that emulate them, and leap on land,
Before the fisher, or into his hand.
Then hath thy orchard fruit, thy garden flow'rs,
Fresh as the air, and new as are the hours. 40
The early cherry, with the later plum,
Fig, grape, and quince, each in his time doth come:
The blushing apricot, and woolly peach
Hang on thy walls, that ev'ry child may reach. . . .
(Lines 19-44)

* * *
タイトル Penshurst
ケントにあるロバート・シドニーRobert Sidneyの邸宅
(カントリー・ハウス)。この屋敷を称えつつシドニーを称え、
同時に貴族としてあるべき姿を説く、という、いわゆるカントリー・
ハウス・ポエムの代表作。

ロバート・シドニーは、詩人フィリップ・シドニーの弟。
ライル子爵、レスター伯爵などの爵位を与えられた。

現在、ペンスハースト邸は、庭園・公園・結婚式場として
開放されている。入場有料。
http://www.penshurstplace.com/

19 Gamage
シドニーの妻のBarbaraの旧姓。

26 Ashore and Sydneys copse
現在のアッシュアー・ウッドAshour WoodとHawk's Wood
のこと。アッシュアー・ウッドはここ。
http://www.openstreetmap.org/?box=yes&bbox=
0.19552%2C51.16825%2C0.21227%2C51.17758

(Google Mapでは「ケント アッシュアー・ウッド」と
検索するとヒットする。)

現在の所有者であるド・ライル卿曰く、"Sidney's Copse" は、
アッシュアー・ウッドの近く(延長)のHawk's Woodのこと
(Penguin版Jonson, Complete Poemsの注、p.672)。

http://www.openstreetmap.org/?minlon=0.213743597269058&
minlat=51.1726913452148&maxlon=0.220363214612007&
maxlat=51.1766471862793

Ashore and Sydneys copseと単数扱いなので、上の日本語訳では、
アッシュアー・ウッドとまとめた。

40 air
そよ風(OED 8)。

40 the hours
The [early] hoursと解釈。(41行を参照。)

* * *
食べものがみずから人のところにやってくる、という17世紀イギリス詩の
定番のレトリック。ルーツは、マルティアリスやウェルギリウスなど
古代の詩人たち。

果実・野菜はともかく、動物や魚がみずから食べられるために
やってくる、というと、少なからず違和感があるところがポイント。
だから、おもしろいものとして、多くの詩人たちがジョンソンの
パターンを模倣した。(マルティアリスらものに比べ、ジョンソンは
この違和感を強調している。)

だが、このように、現実にはありえないほど人に都合のいい表現
というのは、多くの文学的創作物の定番であることも思い出されるべき。
(悲劇、自然主義もの、不条理ものなどは除く。)

身近なところでは、ハリウッドもの、ディズニーもの、日曜日の朝の
プリキ・・・・・・、仮面ラ・・・・・・など。見てすっきりする作品、
心地よい涙を流せるもののほとんどに、このレトリックの要素が
見られるはず。

いわゆる先進国では食の供給が安定し、これに対する心配や
願望があまり意識されなくなっているから、食のテーマが文学・
芸術・娯楽作品で特に深刻なものとして扱われない、というだけ。

* * *
レイモンド・ウィリアムズの『田舎と都会』第3章は、
このレトリックを、労働を隠蔽するものと解釈。
貴族階級の目に入らない世界は描かれないのだ、と。

このような階級史観的な分析・解釈もそれなりに
有効とは思うが、それ以前に、文学・芸術・娯楽
(・日常会話)においては、実際もっと多くのものが
あたりまえのように隠蔽されていることを意識すべきでは。

(トイレとか。)

* * *
(参考)
Carew, from "To Saxham"
Waller, from "To My Lord Protector"

* * *
英語テクストは A Complete Edition of the Poets of
Great Britain, vol. 4 (1793) より。
http://books.google.co.jp/books?id=w1xMAAAAcAAJ

* * *
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