英語の詩を日本語で
English Poetry in Japanese
Gray, "Elegy Written in a Country Churchyard"
トマス・グレイ
「エレジー--田舎の教会墓地にて--」
夜の鐘が去りゆく日を告げ、
牛の群れが鳴きながら、ゆっくり牧場を歩いてゆく。
農夫も疲れた足どりで家に向かい、
闇のなか、ぼくだけが残る。
ぼんやりしていた景色も消え、
空気が厳かに静まってゆく。
聞こえるのは、かぶと虫が飛ぶ音と、
遠くの羊の鈴の音、
それから蔦につつまれた塔の
ふくろうが、月に向かって半分無意識に愚痴をこぼす声--
だれか、秘密の部屋近くにさまよいこんできて、
いにしえからの孤独な支配を邪魔しているらしい。
ギザギザに茂る楡(にれ)の木の下、櫟(いちい)の陰で、
芝生が腐(く)ちつつ、あちこちでもりあがっている。
それは、それぞれ、ひとりずつ、
村人たちの名もない祖先が眠る墓。
いい香りで朝のそよ風が呼びにきても、
つばめが藁(わら)の巣でさえずっていても、
にわとりの声がトランペットのように甲高く鳴り、
ホルンのように響きわたっても、
土のベッドで彼らが目ざめることはない。
彼らのために台所に火がともることも、
妻が夜、忙しく家のことをすることも、
小さなこどもたちがドアまで走って迎えに来ることも、
膝にのぼってキスをせがむことも、もはやない。
かつて彼らの鎌は麦を刈った。
かたい大地に畝をつくった。
元気に楽しく、くびきの牛たちに犂を曳かせた。
力強く斧で木を切り倒した。
人の上に立ちたがる者よ、馬鹿にしてはいけない、
彼らの労働、ささやかな幸せ、人知れず生きる境遇を。
権力ある者よ、嘲笑してはいけない、
貧しい者たちの短く、変化のない日々を。
名家の出でも、権力者として豪奢にくらしていても、
みな同じこと。美しいものすべて、富で買えるものすべてが、
みな等しく運命の時を迎える。
栄光の道はみな墓へとつづく。
傲慢な者よ、貧しい者をあざけってはいけない、
思い出の品々で墓が飾られていなくても。
大きな教会のなか、彫刻で飾られたドームに讃美歌が
高らかに鳴り響く、その脇でひっそり眠る彼らを。
そもそも物語を刻んだ墓、生きているかのような胸像が、
消えた命をからだに呼び戻すことができるというのか?
土に帰ったからだがほめたたえたら動き出す、
死んで冷たくなった耳がお世辞を聞いてうれしがる、とでも?
ここで人知れず眠る者たちも、
かつて天の炎を心に宿していたかもしれない。
天下をとる手腕をもっていたかもしれない。
リラを聴いて目ざめ、心は天に昇っていたかもしれない。
でも、〈時〉が人から奪って集めてきた
知識が彼らの目にふれることはなかった。
貧困の寒さのなか、気高く燃える心を抑えるしかなかった。
熱い魂の流れを凍らせるしかなかった。
たとえば、数えきれないほど宝石が澄んだ光を放っているはず、
はてしなく暗く深い海の底の洞穴で。
数えきれないほどの花が、どこかで恥ずかしげに咲いているはず。
誰にも見られず、無駄に美しく散っていっているはず。
かつて、誰かハムデンのような者がいて、村のけちな暴君に
対して勇敢に抵抗していたかもしれない。
ミルトンのような詩人がここで人知れず眠っているかもしれない。
クロムウェルのようで、しかも戦いをもたらさなかった者も。
議会で演説し喝采を浴びたり、
拷問や死を恐れず主義を貫いたり、
国に富をもたらして人々を笑顔にしたり、
国の歴史を国民に語ったり、
そんな運命に彼らはなかった。美徳や力に恵まれず、
でも彼らは罪を犯さなかった。
血の川を渡って王位をとろうとしなかった。
やさしさの門を閉ざしたりしなかった。
正しいことを言えない心苦しさを隠せなかった。
恥を知る顔の赤らみを消せなかった。
〈富〉と〈名声〉の神殿に
詩神の炎で焚いた香を捧げたりしなかった。
怒り狂う群衆のくだらない争いにはかかわらず、
度をこえた願いを抱くこともなかった。
涼しく人里離れた谷にいるかのように
彼らは静かに生きていた。
そんな無名な彼らの骨を侮辱から守るべく、
近くに小さな墓碑が立っている。
上手とは言えない詩と装飾で、通りすがりに
ため息ひとつだけでも供えてあげて、と訴えている。
字も読めない詩神がつづった名前と年齢、
それがせめてもの彼らへの賛辞、弔いの歌。
まわりには聖書の言葉がたくさん刻まれ、
田舎のまじめな人たちに天国の幸せを語る。
もの言わぬ〈忘却〉の餌食になりたい人などいない、
不安ばかりでも楽しい生を棄て。
陽気であたたかい日の世界から去りながら、
寂しげにじっと後ろをふり返らない人などいない。
去りゆく魂も誰かのやさしさを求めている。
閉じゆく目も身近な誰かの涙を求めている。
墓からも愛を求める叫びが聞こえる。
灰になっても彼らの命は燃えている。
とるに足らない死者に思いをめぐらし、
平凡な彼らの生をこの詩に歌うぼくだって同じこと。
誰か似たような人がもの思いにふけりつつ、
ふとぼくがどうなったか聞いたなら、
頭の白い農夫か誰かがこんな話をするかもしれない。
「ああ、あれか、朝日がちょこっと顔を出す頃よく見たな。
朝露を蹴とばしながら急ぎ足で
高台にのぼっておった。太陽を見にな。
それから、そこの頭を垂れとるぶなのとこ、
古い根が地面の上で器用にからみあってるとこでな、
ちょうど昼頃かの、もう無理ってなくらいまで背伸びしてな、
さらさら流れる小川をじーっと見とった。
それから、あそこの森のすぐそばでな、にやにやしながら
なんか思いついたことをぶつぶつ言ってうろうろしてたな。
時々うなだれて、悲しげに真っ青になって、見棄てられたか、
不安でどうかしたか、かなわぬ恋に破れたか、そんな感じだったな。
ある朝、いつもの丘におらんくてな。
原っぱにも、お気に入りの木のそばにもな。
次の日も同じだった。小川にも、
高台にも、森にもおらんかった。
その次の日、別れの歌を歌いながら喪服の人たちが
来てな、ゆっくりあれを教会に運んでった。
ほれ、読んでみ、字、読めるよな? そこの
枯れかけた茨の下の石に何か歌が書かれとるから。」
(墓碑銘)
ここ、母なる大地の膝に眠る若者は、
富にも名声にも縁がなかった。
が、美しい〈知識〉は貧しい生まれの彼を拒まなかった。
〈もの思い〉も彼を仲間に入れた。
彼は大きな善意と嘘のない心をもち、
天はそれに見あう褒美を与えた。
貧しい人には与えられるすべてのもの--涙--を与え、
友だちを得た。彼が望んだのはそれだけだった。
これ以上、彼の長所を語るのはやめよう。
短所を引きずり出すのもやめよう。
それらはみな、畏れつつ、望みつつ、待っている、
父なる神の胸で。
* * *
Thomas Gray
"Elegy Written in a Country Churchyard"
The curfew tolls the knell of parting day,
The lowing herd wind slowly o'er the lea,
The ploughman homeward plods his weary way,
And leaves the world to darkness and to me.
Now fades the glimmering landscape on the sight,
And all the air a solemn stillness holds,
Save where the beetle wheels his droning flight,
And drowsy tinklings lull the distant folds;
Save that from yonder ivy-mantled tower
The moping owl does to the moon complain
Of such, as wandering near her secret bower,
Molest her ancient solitary reign.
Beneath those rugged elms, that yew-tree's shade,
Where heaves the turf in many a mouldering heap,
Each in his narrow cell for ever laid,
The rude forefathers of the hamlet sleep.
The breezy call of incense-breathing morn,
The swallow twittering from the straw-built shed,
The cock's shrill clarion, or the echoing horn,
No more shall rouse them from their lowly bed.
For them no more the blazing hearth shall burn,
Or busy housewife ply her evening care:
No children run to lisp their sire's return,
Or climb his knees the envied kiss to share.
Oft did the harvest to their sickle yield,
Their furrow oft the stubborn glebe has broke;
How jocund did they drive their team afield!
How bowed the woods beneath their sturdy stroke!
Let not Ambition mock their useful toil,
Their homely joys, and destiny obscure;
Nor Grandeur hear with a disdainful smile,
The short and simple annals of the poor.
The boast of heraldry, the pomp of power,
And all that beauty, all that wealth e'er gave,
Awaits alike the inevitable hour.
The paths of glory lead but to the grave.
Nor you, ye Proud, impute to these the fault,
If Memory o'er their tomb no trophies raise,
Where through the long-drawn aisle and fretted vault
The pealing anthem swells the note of praise.
Can storied urn or animated bust
Back to its mansion call the fleeting breath?
Can Honour's voice provoke the silent dust,
Or Flattery soothe the dull cold ear of Death?
Perhaps in this neglected spot is laid
Some heart once pregnant with celestial fire;
Hands that the rod of empire might have swayed,
Or waked to ecstasy the living lyre.
But Knowledge to their eyes her ample page
Rich with the spoils of time did ne'er unroll;
Chill Penury repressed their noble rage,
And froze the genial current of the soul.
Full many a gem of purest ray serene,
The dark unfathomed caves of ocean bear:
Full many a flower is born to blush unseen,
And waste its sweetness on the desert air.
Some village-Hampden, that with dauntless breast
The little tyrant of his fields withstood;
Some mute inglorious Milton here may rest,
Some Cromwell guiltless of his country's blood.
The applause of listening senates to command,
The threats of pain and ruin to despise,
To scatter plenty o'er a smiling land,
And read their history in a nation's eyes,
Their lot forbade: nor circumscribed alone
Their growing virtues, but their crimes confined;
Forbade to wade through slaughter to a throne,
And shut the gates of mercy on mankind,
The struggling pangs of conscious truth to hide,
To quench the blushes of ingenuous shame,
Or heap the shrine of Luxury and Pride
With incense kindled at the Muse's flame.
Far from the madding crowd's ignoble strife,
Their sober wishes never learned to stray;
Along the cool sequestered vale of life
They kept the noiseless tenor of their way.
Yet even these bones from insult to protect
Some frail memorial still erected nigh,
With uncouth rhymes and shapeless sculpture decked,
Implores the passing tribute of a sigh.
Their name, their years, spelt by the unlettered muse,
The place of fame and elegy supply:
And many a holy text around she strews,
That teach the rustic moralist to die.
For who to dumb Forgetfulness a prey,
This pleasing anxious being e'er resigned,
Left the warm precincts of the cheerful day,
Nor cast one longing lingering look behind?
On some fond breast the parting soul relies,
Some pious drops the closing eye requires;
Ev'n from the tomb the voice of nature cries,
Ev'n in our ashes live their wonted fires.
For thee, who mindful of the unhonoured dead
Dost in these lines their artless tale relate;
If chance, by lonely Contemplation led,
Some kindred spirit shall inquire thy fate,
Haply some hoary-headed swain may say,
'Oft have we seen him at the peep of dawn
'Brushing with hasty steps the dews away
'To meet the sun upon the upland lawn.
'There at the foot of yonder nodding beech
'That wreathes its old fantastic roots so high,
'His listless length at noontide would he stretch,
'And pore upon the brook that babbles by.
'Hard by yon wood, now smiling as in scorn,
'Muttering his wayward fancies he would rove,
'Now drooping, woeful wan, like one forlorn,
'Or crazed with care, or crossed in hopeless love.
'One morn I missed him on the customed hill,
'Along the heath and near his favourite tree;
'Another came; nor yet beside the rill,
'Nor up the lawn, nor at the wood was he;
'The next with dirges due in sad array
'Slow through the church-way path we saw him borne.
'Approach and read (for thou can'st read) the lay,
'Graved on the stone beneath yon aged thorn.'
The Epitaph
Here rests his head upon the lap of earth
A youth to fortune and to fame unknown.
Fair Science frowned not on his humble birth,
And Melancholy marked him for her own.
Large was his bounty, and his soul sincere,
Heaven did a recompense as largely send:
He gave to Misery all he had, a tear,
He gained from Heaven ('twas all he wished) a friend.
No farther seek his merits to disclose,
Or draw his frailties from their dread abode,
(There they alike in trembling hope repose)
The bosom of his Father and his God.
http://www.thomasgray.org/cgi-bin/display.cgi?text=elcc
*****
キーワード:
幸せな人 beatus ille
心の安らぎ ataraxia
ホラティウス Horace
メメント・モリ memento mori
この世に対する侮蔑 contemptus mundi
感受性 sensibility
*****
20171215 修正
20180605 修正
*****
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。
ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。
商用、盗用、悪用などはないようお願いします。
「エレジー--田舎の教会墓地にて--」
夜の鐘が去りゆく日を告げ、
牛の群れが鳴きながら、ゆっくり牧場を歩いてゆく。
農夫も疲れた足どりで家に向かい、
闇のなか、ぼくだけが残る。
ぼんやりしていた景色も消え、
空気が厳かに静まってゆく。
聞こえるのは、かぶと虫が飛ぶ音と、
遠くの羊の鈴の音、
それから蔦につつまれた塔の
ふくろうが、月に向かって半分無意識に愚痴をこぼす声--
だれか、秘密の部屋近くにさまよいこんできて、
いにしえからの孤独な支配を邪魔しているらしい。
ギザギザに茂る楡(にれ)の木の下、櫟(いちい)の陰で、
芝生が腐(く)ちつつ、あちこちでもりあがっている。
それは、それぞれ、ひとりずつ、
村人たちの名もない祖先が眠る墓。
いい香りで朝のそよ風が呼びにきても、
つばめが藁(わら)の巣でさえずっていても、
にわとりの声がトランペットのように甲高く鳴り、
ホルンのように響きわたっても、
土のベッドで彼らが目ざめることはない。
彼らのために台所に火がともることも、
妻が夜、忙しく家のことをすることも、
小さなこどもたちがドアまで走って迎えに来ることも、
膝にのぼってキスをせがむことも、もはやない。
かつて彼らの鎌は麦を刈った。
かたい大地に畝をつくった。
元気に楽しく、くびきの牛たちに犂を曳かせた。
力強く斧で木を切り倒した。
人の上に立ちたがる者よ、馬鹿にしてはいけない、
彼らの労働、ささやかな幸せ、人知れず生きる境遇を。
権力ある者よ、嘲笑してはいけない、
貧しい者たちの短く、変化のない日々を。
名家の出でも、権力者として豪奢にくらしていても、
みな同じこと。美しいものすべて、富で買えるものすべてが、
みな等しく運命の時を迎える。
栄光の道はみな墓へとつづく。
傲慢な者よ、貧しい者をあざけってはいけない、
思い出の品々で墓が飾られていなくても。
大きな教会のなか、彫刻で飾られたドームに讃美歌が
高らかに鳴り響く、その脇でひっそり眠る彼らを。
そもそも物語を刻んだ墓、生きているかのような胸像が、
消えた命をからだに呼び戻すことができるというのか?
土に帰ったからだがほめたたえたら動き出す、
死んで冷たくなった耳がお世辞を聞いてうれしがる、とでも?
ここで人知れず眠る者たちも、
かつて天の炎を心に宿していたかもしれない。
天下をとる手腕をもっていたかもしれない。
リラを聴いて目ざめ、心は天に昇っていたかもしれない。
でも、〈時〉が人から奪って集めてきた
知識が彼らの目にふれることはなかった。
貧困の寒さのなか、気高く燃える心を抑えるしかなかった。
熱い魂の流れを凍らせるしかなかった。
たとえば、数えきれないほど宝石が澄んだ光を放っているはず、
はてしなく暗く深い海の底の洞穴で。
数えきれないほどの花が、どこかで恥ずかしげに咲いているはず。
誰にも見られず、無駄に美しく散っていっているはず。
かつて、誰かハムデンのような者がいて、村のけちな暴君に
対して勇敢に抵抗していたかもしれない。
ミルトンのような詩人がここで人知れず眠っているかもしれない。
クロムウェルのようで、しかも戦いをもたらさなかった者も。
議会で演説し喝采を浴びたり、
拷問や死を恐れず主義を貫いたり、
国に富をもたらして人々を笑顔にしたり、
国の歴史を国民に語ったり、
そんな運命に彼らはなかった。美徳や力に恵まれず、
でも彼らは罪を犯さなかった。
血の川を渡って王位をとろうとしなかった。
やさしさの門を閉ざしたりしなかった。
正しいことを言えない心苦しさを隠せなかった。
恥を知る顔の赤らみを消せなかった。
〈富〉と〈名声〉の神殿に
詩神の炎で焚いた香を捧げたりしなかった。
怒り狂う群衆のくだらない争いにはかかわらず、
度をこえた願いを抱くこともなかった。
涼しく人里離れた谷にいるかのように
彼らは静かに生きていた。
そんな無名な彼らの骨を侮辱から守るべく、
近くに小さな墓碑が立っている。
上手とは言えない詩と装飾で、通りすがりに
ため息ひとつだけでも供えてあげて、と訴えている。
字も読めない詩神がつづった名前と年齢、
それがせめてもの彼らへの賛辞、弔いの歌。
まわりには聖書の言葉がたくさん刻まれ、
田舎のまじめな人たちに天国の幸せを語る。
もの言わぬ〈忘却〉の餌食になりたい人などいない、
不安ばかりでも楽しい生を棄て。
陽気であたたかい日の世界から去りながら、
寂しげにじっと後ろをふり返らない人などいない。
去りゆく魂も誰かのやさしさを求めている。
閉じゆく目も身近な誰かの涙を求めている。
墓からも愛を求める叫びが聞こえる。
灰になっても彼らの命は燃えている。
とるに足らない死者に思いをめぐらし、
平凡な彼らの生をこの詩に歌うぼくだって同じこと。
誰か似たような人がもの思いにふけりつつ、
ふとぼくがどうなったか聞いたなら、
頭の白い農夫か誰かがこんな話をするかもしれない。
「ああ、あれか、朝日がちょこっと顔を出す頃よく見たな。
朝露を蹴とばしながら急ぎ足で
高台にのぼっておった。太陽を見にな。
それから、そこの頭を垂れとるぶなのとこ、
古い根が地面の上で器用にからみあってるとこでな、
ちょうど昼頃かの、もう無理ってなくらいまで背伸びしてな、
さらさら流れる小川をじーっと見とった。
それから、あそこの森のすぐそばでな、にやにやしながら
なんか思いついたことをぶつぶつ言ってうろうろしてたな。
時々うなだれて、悲しげに真っ青になって、見棄てられたか、
不安でどうかしたか、かなわぬ恋に破れたか、そんな感じだったな。
ある朝、いつもの丘におらんくてな。
原っぱにも、お気に入りの木のそばにもな。
次の日も同じだった。小川にも、
高台にも、森にもおらんかった。
その次の日、別れの歌を歌いながら喪服の人たちが
来てな、ゆっくりあれを教会に運んでった。
ほれ、読んでみ、字、読めるよな? そこの
枯れかけた茨の下の石に何か歌が書かれとるから。」
(墓碑銘)
ここ、母なる大地の膝に眠る若者は、
富にも名声にも縁がなかった。
が、美しい〈知識〉は貧しい生まれの彼を拒まなかった。
〈もの思い〉も彼を仲間に入れた。
彼は大きな善意と嘘のない心をもち、
天はそれに見あう褒美を与えた。
貧しい人には与えられるすべてのもの--涙--を与え、
友だちを得た。彼が望んだのはそれだけだった。
これ以上、彼の長所を語るのはやめよう。
短所を引きずり出すのもやめよう。
それらはみな、畏れつつ、望みつつ、待っている、
父なる神の胸で。
* * *
Thomas Gray
"Elegy Written in a Country Churchyard"
The curfew tolls the knell of parting day,
The lowing herd wind slowly o'er the lea,
The ploughman homeward plods his weary way,
And leaves the world to darkness and to me.
Now fades the glimmering landscape on the sight,
And all the air a solemn stillness holds,
Save where the beetle wheels his droning flight,
And drowsy tinklings lull the distant folds;
Save that from yonder ivy-mantled tower
The moping owl does to the moon complain
Of such, as wandering near her secret bower,
Molest her ancient solitary reign.
Beneath those rugged elms, that yew-tree's shade,
Where heaves the turf in many a mouldering heap,
Each in his narrow cell for ever laid,
The rude forefathers of the hamlet sleep.
The breezy call of incense-breathing morn,
The swallow twittering from the straw-built shed,
The cock's shrill clarion, or the echoing horn,
No more shall rouse them from their lowly bed.
For them no more the blazing hearth shall burn,
Or busy housewife ply her evening care:
No children run to lisp their sire's return,
Or climb his knees the envied kiss to share.
Oft did the harvest to their sickle yield,
Their furrow oft the stubborn glebe has broke;
How jocund did they drive their team afield!
How bowed the woods beneath their sturdy stroke!
Let not Ambition mock their useful toil,
Their homely joys, and destiny obscure;
Nor Grandeur hear with a disdainful smile,
The short and simple annals of the poor.
The boast of heraldry, the pomp of power,
And all that beauty, all that wealth e'er gave,
Awaits alike the inevitable hour.
The paths of glory lead but to the grave.
Nor you, ye Proud, impute to these the fault,
If Memory o'er their tomb no trophies raise,
Where through the long-drawn aisle and fretted vault
The pealing anthem swells the note of praise.
Can storied urn or animated bust
Back to its mansion call the fleeting breath?
Can Honour's voice provoke the silent dust,
Or Flattery soothe the dull cold ear of Death?
Perhaps in this neglected spot is laid
Some heart once pregnant with celestial fire;
Hands that the rod of empire might have swayed,
Or waked to ecstasy the living lyre.
But Knowledge to their eyes her ample page
Rich with the spoils of time did ne'er unroll;
Chill Penury repressed their noble rage,
And froze the genial current of the soul.
Full many a gem of purest ray serene,
The dark unfathomed caves of ocean bear:
Full many a flower is born to blush unseen,
And waste its sweetness on the desert air.
Some village-Hampden, that with dauntless breast
The little tyrant of his fields withstood;
Some mute inglorious Milton here may rest,
Some Cromwell guiltless of his country's blood.
The applause of listening senates to command,
The threats of pain and ruin to despise,
To scatter plenty o'er a smiling land,
And read their history in a nation's eyes,
Their lot forbade: nor circumscribed alone
Their growing virtues, but their crimes confined;
Forbade to wade through slaughter to a throne,
And shut the gates of mercy on mankind,
The struggling pangs of conscious truth to hide,
To quench the blushes of ingenuous shame,
Or heap the shrine of Luxury and Pride
With incense kindled at the Muse's flame.
Far from the madding crowd's ignoble strife,
Their sober wishes never learned to stray;
Along the cool sequestered vale of life
They kept the noiseless tenor of their way.
Yet even these bones from insult to protect
Some frail memorial still erected nigh,
With uncouth rhymes and shapeless sculpture decked,
Implores the passing tribute of a sigh.
Their name, their years, spelt by the unlettered muse,
The place of fame and elegy supply:
And many a holy text around she strews,
That teach the rustic moralist to die.
For who to dumb Forgetfulness a prey,
This pleasing anxious being e'er resigned,
Left the warm precincts of the cheerful day,
Nor cast one longing lingering look behind?
On some fond breast the parting soul relies,
Some pious drops the closing eye requires;
Ev'n from the tomb the voice of nature cries,
Ev'n in our ashes live their wonted fires.
For thee, who mindful of the unhonoured dead
Dost in these lines their artless tale relate;
If chance, by lonely Contemplation led,
Some kindred spirit shall inquire thy fate,
Haply some hoary-headed swain may say,
'Oft have we seen him at the peep of dawn
'Brushing with hasty steps the dews away
'To meet the sun upon the upland lawn.
'There at the foot of yonder nodding beech
'That wreathes its old fantastic roots so high,
'His listless length at noontide would he stretch,
'And pore upon the brook that babbles by.
'Hard by yon wood, now smiling as in scorn,
'Muttering his wayward fancies he would rove,
'Now drooping, woeful wan, like one forlorn,
'Or crazed with care, or crossed in hopeless love.
'One morn I missed him on the customed hill,
'Along the heath and near his favourite tree;
'Another came; nor yet beside the rill,
'Nor up the lawn, nor at the wood was he;
'The next with dirges due in sad array
'Slow through the church-way path we saw him borne.
'Approach and read (for thou can'st read) the lay,
'Graved on the stone beneath yon aged thorn.'
The Epitaph
Here rests his head upon the lap of earth
A youth to fortune and to fame unknown.
Fair Science frowned not on his humble birth,
And Melancholy marked him for her own.
Large was his bounty, and his soul sincere,
Heaven did a recompense as largely send:
He gave to Misery all he had, a tear,
He gained from Heaven ('twas all he wished) a friend.
No farther seek his merits to disclose,
Or draw his frailties from their dread abode,
(There they alike in trembling hope repose)
The bosom of his Father and his God.
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幸せな人 beatus ille
心の安らぎ ataraxia
ホラティウス Horace
メメント・モリ memento mori
この世に対する侮蔑 contemptus mundi
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From Marshall, The Song of Moses
スティーヴン・マーシャル
『モーセの歌』より
七つの杯から注がれるのは反キリスト一派に対する神の怒りです。神の怒りが注がれるのは反キリスト的なものがあるところだけで、これをキリストは探し、見つけ、そして見つけたら必ず破壊するのです。神の杯がなしとげるといわれていることをよく見てください。ひどい痛み・苦しみに襲われているのは獣のしるしを身につけた者たちだけですから。そのような者だけが血を飲まされ、熱に焼かれ焦がされ、痛みに歯ぎしりし、雹(雹)に打ち砕かれるのです。こんな目にあうのは獣に従う者、獣を崇拝する者、獣の王国の国民だけなのです。だから恐れなくても大丈夫です。今キリストが与えている裁きによって断罪されることはありません。反キリストのために戦う武器をこっそり、あるいは堂々ともっているのでないかぎりは。そのような武器はみな破壊しなくてはなりません。お願いします。まず第一に、すぐに、あの遺物すべてを、今わたしたちのあいだで燃える炎の油・燃料となっているものすべてを、この国から、この国の教会から、排除してください。これこそ神があなたがたに与えた仕事です。心をこめてとりくめば神がともにいてくださるでしょう。すぐにとりかかってください。おそらく、この遺物が原因となってあなたがた議員のあいだに無数の亀裂が生じ、対立してしまっているのです。そもそもこれらの対立を解消する努力が足りなかったのです。ある党派の者たちが議会を去ることになろうとも、また彼らがあなたがたに強く敵対しようとも、恐れる必要はありません。いいですか、その党派とはバビロンの娼婦の杯から酒を飲んだ者たちなのです。バビロンの娼婦を愛し、そして忌まわしき淫らな行為に耽っている者たちなのです。そのような者たちは役に立ちません。そのような者たちに邪魔されぬよう、キリストがあなたがたの仕事を守ってくれるはずです。そのような者たちはおそらく、いえ確実に、自滅していくことでしょう。この書[ヨハネの黙示録]に記されたとおりの呪いをみずからの上に、また彼らの子孫の上に、もたらすことでしょう。バビロンの服と金の延べ棒をテントに隠していたアカンのようにです。主はあなたがたの味方です。自信をもって進み、勝利を収めてください。
*****
Stephen Marshall
From The Song of Moses (1643)
[A]ll which is done in the pouring out of the seven vialls, is the wrath of God upon the Antichristian faction . . . there is no wrath upon any where ever it is poured, but onely as there is something of Antichrist among them, which Christ will search for, find, and destroy, where-ever he finds it: Consider the whole work of the vialls, and you shall finde noysome and grievous sores upon them onely that have the mark of the Beast, the drinking of bloud, the scorching with heat, the gnawing of their tongues for paine, the being destroyed with hailstones, &c. All these light onely upon the followers of the Beast, the worshipers of the Beast, the kingdome of the Beast, & therefore let none feare any hurt frõ these judgments which Christ is now inflicting, but such as either secretly or openly harbour any of Antichrists acursed stuff which must be destroyed; & let it be I beseech you, your speedy care to cast out of this Nation and Church all those reliques, which are the oyl and fuel that feed the flame which burnes amongst us: God calls you now to this work, and will be with you while you set your hearts and hands to doe it; and doe it speedily, it may be it is one Cause, why so many breaches are made upon you, because you have no more vigorously attempted it in the first place; and fear not that ye should therby lose a party, or strengthen a party against you, beleeve it, that party that hath drunk of the whores cup, and is in love with her abominations, will never be assistant, nor wil Christ suffer them to overthrow the worke committed to your hands; they may and shall destroy themselves, bringing the curses written in this book upon themselves, and their posteritie, as Achan did by hiding the Babylonish garment and wedg of gold in his tent, but the Lord will be with you, therefore go on and prosper. (7-8)
*****
内乱初期における議会への説教。黙示録にもとづく
終末論を実際の社会の分析に応用。国教会(やその長チャールズ1世)
を反キリスト・獣、つまりローマ・カトリック側の勢力と解釈し、
その討伐を(あいまいな言葉で)推進・扇動する。
「モーセの歌」はヨハネの黙示録15.3-4にある。
アカンについてはヨシュア記7参照。
このような説教をして内乱を扇動しつつ、内乱末期には
チャールズの擁護にまわる。それゆえミルトンのような
軍の支持者たちからは裏切り者と非難される。
*****
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。
ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。
商用、盗用、悪用などはないようお願いします。
『モーセの歌』より
七つの杯から注がれるのは反キリスト一派に対する神の怒りです。神の怒りが注がれるのは反キリスト的なものがあるところだけで、これをキリストは探し、見つけ、そして見つけたら必ず破壊するのです。神の杯がなしとげるといわれていることをよく見てください。ひどい痛み・苦しみに襲われているのは獣のしるしを身につけた者たちだけですから。そのような者だけが血を飲まされ、熱に焼かれ焦がされ、痛みに歯ぎしりし、雹(雹)に打ち砕かれるのです。こんな目にあうのは獣に従う者、獣を崇拝する者、獣の王国の国民だけなのです。だから恐れなくても大丈夫です。今キリストが与えている裁きによって断罪されることはありません。反キリストのために戦う武器をこっそり、あるいは堂々ともっているのでないかぎりは。そのような武器はみな破壊しなくてはなりません。お願いします。まず第一に、すぐに、あの遺物すべてを、今わたしたちのあいだで燃える炎の油・燃料となっているものすべてを、この国から、この国の教会から、排除してください。これこそ神があなたがたに与えた仕事です。心をこめてとりくめば神がともにいてくださるでしょう。すぐにとりかかってください。おそらく、この遺物が原因となってあなたがた議員のあいだに無数の亀裂が生じ、対立してしまっているのです。そもそもこれらの対立を解消する努力が足りなかったのです。ある党派の者たちが議会を去ることになろうとも、また彼らがあなたがたに強く敵対しようとも、恐れる必要はありません。いいですか、その党派とはバビロンの娼婦の杯から酒を飲んだ者たちなのです。バビロンの娼婦を愛し、そして忌まわしき淫らな行為に耽っている者たちなのです。そのような者たちは役に立ちません。そのような者たちに邪魔されぬよう、キリストがあなたがたの仕事を守ってくれるはずです。そのような者たちはおそらく、いえ確実に、自滅していくことでしょう。この書[ヨハネの黙示録]に記されたとおりの呪いをみずからの上に、また彼らの子孫の上に、もたらすことでしょう。バビロンの服と金の延べ棒をテントに隠していたアカンのようにです。主はあなたがたの味方です。自信をもって進み、勝利を収めてください。
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Stephen Marshall
From The Song of Moses (1643)
[A]ll which is done in the pouring out of the seven vialls, is the wrath of God upon the Antichristian faction . . . there is no wrath upon any where ever it is poured, but onely as there is something of Antichrist among them, which Christ will search for, find, and destroy, where-ever he finds it: Consider the whole work of the vialls, and you shall finde noysome and grievous sores upon them onely that have the mark of the Beast, the drinking of bloud, the scorching with heat, the gnawing of their tongues for paine, the being destroyed with hailstones, &c. All these light onely upon the followers of the Beast, the worshipers of the Beast, the kingdome of the Beast, & therefore let none feare any hurt frõ these judgments which Christ is now inflicting, but such as either secretly or openly harbour any of Antichrists acursed stuff which must be destroyed; & let it be I beseech you, your speedy care to cast out of this Nation and Church all those reliques, which are the oyl and fuel that feed the flame which burnes amongst us: God calls you now to this work, and will be with you while you set your hearts and hands to doe it; and doe it speedily, it may be it is one Cause, why so many breaches are made upon you, because you have no more vigorously attempted it in the first place; and fear not that ye should therby lose a party, or strengthen a party against you, beleeve it, that party that hath drunk of the whores cup, and is in love with her abominations, will never be assistant, nor wil Christ suffer them to overthrow the worke committed to your hands; they may and shall destroy themselves, bringing the curses written in this book upon themselves, and their posteritie, as Achan did by hiding the Babylonish garment and wedg of gold in his tent, but the Lord will be with you, therefore go on and prosper. (7-8)
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内乱初期における議会への説教。黙示録にもとづく
終末論を実際の社会の分析に応用。国教会(やその長チャールズ1世)
を反キリスト・獣、つまりローマ・カトリック側の勢力と解釈し、
その討伐を(あいまいな言葉で)推進・扇動する。
「モーセの歌」はヨハネの黙示録15.3-4にある。
アカンについてはヨシュア記7参照。
このような説教をして内乱を扇動しつつ、内乱末期には
チャールズの擁護にまわる。それゆえミルトンのような
軍の支持者たちからは裏切り者と非難される。
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