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Wyatt ("UNSTABLE dream, according to the place")

トマス・ワイアット
(「夢はあてにならない」)

夢はあてにならない。眠りのなかの幻だから当然だが、
一度でいいから消えないでほしい。せめて嘘をつかないでほしい。
幸せな思いをして、あとで悲しくなるのはもう嫌だ。
急に眠りから覚めて、残念! 夢でした! みんな嘘でした! というのは。

でも、逆によかったのかもしれない、夢に出てきただけで、
あの人が荒海のように危ないこのベッドに実際いなかったのは。
目覚めたあと、ぼくの魂がつらいだけで済んでいるのは。
夢のなか、嵐のようにぼくはあの人を抱いて幸せだった。
夢のなか、からだは死にそうに幸せだった。魂も欲望を充たしていた。
痛くない死、魂の天国だった。

だから、魂はなぜずっとそこに、夢のなかに、いなかったのか。
なぜまた現実の炎の苦しみのなかに飛びこんでしまったのか。
望みがかなう世界にとどまっていればよかったのに。
夢にだまされたことを思い知って死ぬほど痛い思いをするのだから。

*****
Thomas Wyatt
("UNSTABLE dream, according to the place")

UNSTABLE dream, according to the place,
Be steadfast once, or else at least be true:
By tasted sweetness make me not to rue
The sudden loss of thy false fained grace.

By good respect, in such a dangerous case,
Thou broughtest not her into these tossing seas;
But madest my sprite to live my care t' encrease,
My body in tempest her delight t'embrace.
The body dead, the spirit had his desire;
Painless was th' one, the other in delight.

Why then, alas, did it not keep it right,
But thus return to leap in to the fire;
And where it was at wish, could not remain?
Such mocks of dreams do turn to deadly pain.

http://www.luminarium.org/renlit/unstable.htm
- 4/6/4の区切りは私が入れたもの

*****
ソネット。脚韻は abba/acca/deed/ff.
意味があるのは次のところなど--
true-rue
grace-embrace
desire-fire

エロティックなソネットはシドニーの『アストロフィル』から、
というのは誤り。

*****
ハイ・カルチャーにエロティックなものをある程度とり戻す、
というのはどうだろう。このようなソネットや、あるいは
神話ものの絵画のように。サブカルチャー的な地下に
淫靡な禁忌として押しこめるのではなく。

それで犯罪が減るかどうかはわからないが、
偽善的な他者攻撃の文化(?)は多少なり
控えめになるのではないか。

*****
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