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Milton, From _A Mask_ (244-52)

ジョン・ミルトン (1608-1674)
『ラドロウ城で演じられた仮面劇』
(通称『コウマス』)(244-52)

大地の土を混ぜてつくられた、永遠の生をもたない人間が、
このような神々しく心奪うような声で歌うことができるのか?
いや、何か聖なるものがこの子の胸に宿っているにちがいない。
そしてこのようにうっとりさせる何かを使って空気に声を出させて、
そこに隠れていることを知らせようとしているのだ。
ああ、なんと美しく、あの歌声は沈黙の翼にのって空を
舞っていたことか。空っぽな丸天井のような夜空をめぐり、ただよい、
低音に下がるたびに、大きなカラスのような闇の羽を
なでてやりながら。その闇も、うれしそうにほほえんでいた・・・・・・。

* * *

John Milton
From A Mask Presented at Ludlow Castle, 1634
(244-52)

Can any mortal mixture of Earths mould
Breath such Divine inchanting ravishment?
Sure somthing holy lodges in that brest,
And with these raptures moves the vocal air
To testifie his hidd'n residence;
How sweetly did they float upon the wings
Of silence, through the empty-vaulted night
At every fall smoothing the Raven doune
Of darknes till it smil'd. . . .

* * *

夜の森に迷った少女の歌を聴いて、
魔法使いコウマスがいうセリフ。

* * *

訳注。

244 mortal mixture of Earths mould
土からつくられた人間、ということ。聖書の創世記にある通り。
mortal: 死ぬ運命にある。
Earth: 大地、地面(OED I)
(Earths = Earth's)
mould: 地面の表面にあるかたまっていない土(OED 1)。

245 ravishment
心を奪うこと、また心を奪われた状態(OED 3)。
もともとravishとは、人を奪う(無理やり連れ去る)
ことなので、そのように、いわば強引に心を奪う、
というニュアンス。

ここでは、そのように心を奪う歌声のこと。
歌声という具体的なものを、心を奪うこと、
という抽象概念にたとえて表現。

247 raptures
心を奪うこと、また心を奪われた状態(OED 5a)。
こちらのもとの意味は、天に連れていかれる、
ということ。(比喩的に、または文字通りに)
(OED "rapt", pa.pple.)。

ここでは、これも歌声のこと。

247
the vocal air
声をもつ空気。つまり、科学的には、人が声を
出して空気を振動させるが、ここでは、少女の
胸に宿る何か神聖なものが、何か心奪うものを発して、
そして空気そのものに声を出させている、と表現。

16-17世紀の詩によく見られる奇想conceit
(空想豊かで、また機知に富んだ、器用な思考や
その表現--OED, "conceit" n.8)の例。
文学史的には、このような表現方法を特に顕著に
受け継いだのが、コールリッジやシェリー。

(実際、程度の差はあれ、ほとんどの詩人に
見られるものだが。)

249 they
= these raptures ( = 少女の歌声)

249-50
歌声が沈黙の羽にのって舞う、というのも奇想。

251-52
fall:
メロディの音程が下がること(OED, n.1. 10)。
+
歌声をのせて飛びまわっている沈黙が下降すること。
(たとえば、妖精をのせて飛んでいる鳥のように。)
+
何かをなでるために人が手を上から降ろすこと。
ここでは、こうして大きなカラスのような闇の羽を
なでる。すると、この闇がうれしそうにほほえむ。

* * *

以上、複雑すぎて、劇のセリフとしては
日本語ではかなり厳しいと思われるので、
要約し、また間をおいて表記してみる。

---
神ではない人間が、
このような神々しく、心奪うような声で
歌うことができるのか?

いや、何か聖なるものが
この子の胸に宿っているにちがいない。

そして、魔法か何かで空気をふるわせて、
自分の存在を知らせようとしているのだ。

ああ、なんと美しく、あの歌声は
沈黙の翼にのって空を舞っていたことか。

丸天井のような夜空をめぐり、ただよい、
メロディにあわせて、闇夜の羽を
なでてやりながら。

闇夜もうれしそうに、
ほほえんでいるかのようだった。

* * *

詩形はブランク・ヴァース(弱強五歩格無韻)。

(厳密にx/x/x/x/x/と並んでいるわけでは
もちろんない。)

* * *

英文テクストは、Milton, Poems (1645) より。
http://www.dartmouth.edu/~milton/
reading_room/comus/index.shtml

* * *

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