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Blake, "Nurse's Song" (Innocence)

ウィリアム・ブレイク(1757-1827)
「乳母の歌」
(『無垢の歌』より)

子どもたちの声が緑の野原に響き、
丘から笑い声が聞こえるとき、
胸のなか、わたしの心は安らぎ、
他のものも、すべて静か。

「さあ、帰るよ、みんな、もう日が暮れて、
夜の露が降りてくるよ。
ほらほら、遊ぶのはやめて、もう行くよ。
また明日の朝に来ればいいから」。

「やだ、やだ、遊ぼうよ、まだ明るいから、
寝れないよ、
まだ空には小鳥が飛んでるし、
丘にも羊がいっぱいいるよ」。

「そうね、わかったわ、明るいうちは遊んでていいわ、
でも暗くなったら帰って寝るわよ」。
小さな子たちは飛びはねて叫び、笑い、
その声が丘いっぱいにこだました。

* * *

William Blake
"Nurse's Song"
(From Songs of Innocence)

When the voices of children are heard on the green,
And laughing is heard on the hill,
My heart is at rest within my breast,
And everything else is still.

‘Then come home, my children, the sun is gone down,
And the dews of night arise;
Come, come, leave off play, and let us away,
Till the morning appears in the skies.’

‘No, no, let us play, for it is yet day,
And we cannot go to sleep;
Besides, in the sky the little birds fly,
And the hills are all covered with sheep.’

‘Well, well, go and play till the light fades away,
And then go home to bed.’
The little ones leaped, and shouted, and laughed,
And all the hills echoèd.

* * *

リズムは、ストレス・ミーター(四拍子)。
ビート(B)が、4/3(+1)/4/3(+1)の典型的な歌パターン。





1行目で明確に示され、8行目、12行目で定期的に
確認されているように、弱弱強格anapest(xx/)が基調。

奇数行の基調: xx/xx/xx/xx/
偶数行の基調: xx/xx/xx/

実際には、この三音節からなる音歩feet(xx/)が
x/や//など、二音節のものに頻繁に置きかえられ、
行ごとに雰囲気が大きく変化させられている。

このような三音節の音歩と二音節の音歩の混在は、
17世紀後半から18世紀半ばの詩では避けられていた。
不規則で美しくないとされていて。

18世紀末以降、いわゆるロマン派以降、逆に不規則で
変化に富んでいていい、刺激的、ということで、
この混在の見られるリズムが主流となる。

18世紀末に出版されたブレイクの『無垢の歌』、
『経験の歌』は、そんな新しい詩の書き方を
かなり大胆にとり入れていて画期的。

(このようなことについて関心があれば、ぜひFussell,
Theory of Prosody in Eighteenth-Century Englandを。)

あと、この詩のかたちについて気づくのは--

1
特に音節数の少ない6, 10, 14行目が、みな「夜」、
「寝る」ということに関係していること。

xx/の連続によるゆるやかな歌的なリズムが、
これらの行で多少なり途切れている。

(なぜ、ということについては、後日、
『経験の歌』のなかの「乳母の歌」を扱うページを
つくって、そこに記す予定。)

2
最後のスタンザのbed-echoedの脚韻が強引なこと。
カタカナで表記すれば、echoedを「エコーエッド」と
無理やり三音節で読ませようとしている。
エンディングっぽく余韻を残すため?
何か他の意図もある?

(脚韻など、そろえようと思えばいくらでも
そろえられるので、何か意図があると考えるほうが自然。)

* * *

英文テクストは、William Blake, Songs of Innocence
and Songs of Experience (1901)より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/1934
(冒頭のミス・タイプは修正。)

* * *

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道端アート/素人アート (5)

道端アート/素人アート (5)



身内のアーティストS(1946-)



(二十歳頃の私のデッサン)



(最近買った植木鉢)


* * *

画像はみな私が撮影したもの。


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Marvell, "Horatian Ode" (2)

アンドリュー・マーヴェル (1621-78)
「ホラティウス風のオード
--クロムウェルがアイルランド遠征から戻った折に--」より (2)

そこから王家の役者は運ばれ、
悲劇の処刑台を彩ることになる。
そんな彼をとり囲み、武装した兵士たちが、
血にまみれた手で拍手する。
彼は、卑しく醜いまねなど一切しなかった、
あの、忘れらない場面で。
処刑の斧の刃よりもさらに鋭い目で、
その斧の切れ味を彼は確認した。
ありがちなように、恨みがましく神々に訴え、
失われるほかない王権への支持を乞うことなどなかった。
彼は、ただ、その美しい頭を横たえた、
まるで、ベッドの上にいるかのように。
これこそ、まさに忘れられない瞬間、
この瞬間に、武力によって権力が立てられたのだ。
だから、共和国という宮殿を
建てるべく仕事にとりかかったとき、
その基礎にあった血を流す頭が
恐ろしくて、設計者たちは逃げてしまった。
だが、その頭にこそ、国家は
みずからにほほえみかける運命を見たのだ。
(53-72)

* * *

Andrew Marvell
From "An Horation Ode upon
Cromwel's Return from Ireland" (2)

That thence the Royal Actor born
The Tragick Scaffold might adorn:
While round the armed Bands
Did clap their bloody hands.
He nothing common did or mean
Upon that memorable Scene:
But with his keener Eye
The Axes edge did try:
Nor call'd the Gods with vulgar spight
To vindicate his helpless Right,
But bow'd his comely Head,
Down as upon a Bed.
This was that memorable Hour
Which first assur'd the forced Pow'r.
So when they did design
The Capitols first Line,
A bleeding Head where they begun,
Did fright the Architects to run;
And yet in that the State
Foresaw it's happy Fate.
(53-72)

* * *

チャールズ一世処刑の場面。

* * *

訳注と解釈例。

53 the Royal Actor
チャールズ一世のこと。処刑 = 劇、
処刑台 = 劇の舞台、という比喩。

53-54
Thatは、目的をあらわすso that構文のthat.
だから動詞にmightがついてきている。本当は、ここでは
省いている前行から、文と内容がつづいている。

構文は、(so that) born thence, the Royal Actor
might adorn The Tragick Scaffold.

57
構文は、He did nothing common or mean.

58 Scene
105行のActorのところと同様、処刑 = 劇、
処刑台 = 劇の舞台、という比喩。

61 vulgar
ふつうの人の(OED 9)。ふつうの(OED 10)。
ありがちで卑しく醜い(OED 13)。

62 vindicate
復讐する(OED 2)。解放する(OED 3)。
障害や干渉のなか、主張する(OED 4)。

65 Hour
時刻(OED 4a)。

68 Capitol
古代ローマにおいて、最高神ユピテルに捧げられるべく
丘の上に建てられた宮殿カピトリウム。国家を建築物に
たとえる比喩。Capitols = Capitol's.

暴君チャールズを処刑して建てられたイングランド共和国は、
同じく暴君タルクイニウスを追放して建てられた古代の
ローマ共和国になぞらえられることがあった。
(これは当時の新聞Mercurius Politicusの論説に顕著。
特に1650年の刊行直後。)

68 Line
測量に使う糸/ひも(OED 4a)。輪郭(OED 14a)。
設計図(OED 15a)(?)。

69-70
ここでの設計者とは、チャールズ処刑以前の議会(下院)の
粛清にて閉め出された議員たち、また粛清されていなくても、
以降、議会に出席することをやめてしまった者たち。
(国王処刑、王国から共和国への移行に抗議して。
ちなみに、軍の総大将トマス・フェアファックスも、
王の処刑には反対していた。)

実際、議会(下院)は粛清によって1/3ほどのサイズになり、
そこからさらに自主的に政治から身を引く者が多く出たので、
議会の議事進行はかなり困難になった。(上院は廃止された。)

当然、そのような議会や、それが担う政府の正当性や
合法性は、多くの人に認められてはいなかった。

* * *

また追記します。

* * *

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