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Herrick, "Love Me Little, Love Me Long"

ロバート・ヘリック (1591-1674)
「少し愛して、長く愛して」

あなたはいう、「わたしを強く思ってくれているのね。
でもお願い、少しだけ愛して。そのほうが長く愛してくれるでしょうから。
ゆっくり歩けば遠くまで行けるわ。ほどほどがいちばんなの。欲望は、
激しくなれば、死んでしまう、または疲れて弱くなってしまうわ」。

* * *
Robert Herrick
"Love Me Little, Love Me Long"

You say, to me-wards your affection's strong;
Pray love me little, so you love me long.
Slowly goes far: the mean is best: desire,
Grown violent, does either die or tire.

* * *
1 to me-wards
Towards me. OEDでは、なぜか1849年が初出。

1 affection
理性の対立項としての感情、気持ち、熱い恋愛感情、性欲。
(OED 3)

2 so
目的をあらわすso that構文のthatが省略されている。

3 Slowly goes far
副詞slowlyを強引に主語扱い。

3 the mean is best
アリストテレス以来の「中庸」の考え方。

* * *
(リズムについて)



四行とも十音節でそろっているが、前半二行と後半二行の
リズムが違うところがポイント。

詩の前半はストレス・ミーター。1行目はストレスのある音節が
四つバランスよく置かれていてリズムが明確。

2行目も、ストレス・ミーターに特徴的な行内の対句をもつ。
が、行の真ん中のコンマでリズムがとぎれるようになっており、
かすかに散文的な印象も。これは、歌的ではなく散文的な
3-4行目への移行をスムーズにするため。

詩の後半二行は弱強五歩格。コロンやコンマによる休止が
不規則で、また3行目末にコンマはあるが行またがり的で、
ある意味、完全に散文的に自由。これは、この詩の「あなた」の、
普通の語り口調を模倣するもの。

---
一般的にいって、四拍子のストレス・ミーターより、
散文的に自由に変化させられる弱強五歩格のほうが
リアリスティックで、また内容的によりシリアス。
---

が、逆に、弱強五歩格は歌的にも変化させられる。
この詩の3-4行目は、声に出して読むと、息継ぎあるいは
意味の句切れごとに、次のように自然にわけられる。

Slowly goes far,
the mean is best:
desire, Grown violent,
does either die or tire.

これら四行は、ビートが二つあるいは三つずつ載るように
(ストレス・ミーターの一行、あるいはその半分として)
リズミカルに構成されている。



つまり、この詩の後半については、

「散文的に自由な行中休止をもつ弱強五歩格で、
かつ、この休止により逆説的にストレス・ミーターの
四拍子が見えてくる」

「ストレス・ミーターの改行位置を変えて、一見
散文的な弱強五歩格(十音節)にまとめなおしている」

などといったほうがより正確。

* * *
(ひびきあう母音/子音)
love-little-love-long
desire-does
die-tire

* * *
詩のリズムについては、以下がおすすめ。

ストレス・ミーターについて
Derek Attridge, Poetic Rhythm (Cambridge, 1995)

古典韻律系
Paul Fussell, Poetic Meter and Poetic Form, Rev. ed.
(New York, 1979)

その他
Northrop Frye, Anatomy of Criticism: Four Essays
(Princeton, 1957) 251ff.

Joseph Malof, "The Native Rhythm of English Meters,"
Texas Studies in Literature and Language 5 (1964):
580-94

(日本語で書かれたイギリス詩の入門書、解説書の多くにも
古典韻律系の解説がある。)

* * *
大原麗子さんの出ていた昔のCMのコピー、
「すこし愛して、ながく愛して」の元ネタ的小品。

へリックがオリジナルではなく、マーロウの
『マルタ島のユダヤ人』では、奴隷イサモアが
"Love me little, love me long: let music rumble"
などと娼婦ベラミラにいう。

また、15世紀の詩人・劇作家ジョン・ヘイウッドの
作品中で "Olde wise folke saie, loue me lyttle loue me long"
とある(会話のなかで男性が女性にこういう、詳細不明)
ので、これは古くからある言葉のよう。
(A dialogue conteinyng the nomber in effect of all
the prouerbes in the englishe tongue compacte in a
matter concernyng two maner of mariages, made and
set foorth by Iohn Heywood: 1546, STC 13291)

* * *
次の記事を参照して加筆・修正、20131005
山岸勝榮「すこし愛して、なが~く愛して」
http://blog.livedoor.jp/yamakatsuei/archives/51961844.html

* * *
英文テクストは、Robert Herrick, The Hesperides and
Noble Numbers
, ed. A. Pollard (London, 1898),
vol. 1 より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/22421

* * *
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参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
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Herrick, "Rubies and Pearls"

ロバート・ヘリック(1591-1674)
「ルビーの原石、それから真珠のとれるところ」

どこでルビーは育つのかと訊かれて、
わたしは何もいわず、
指でさし示した、
ジュリアのくちびるを。
どこで、どのように真珠は育つのかと訊かれたので、
わたしは恋人に話しかけ、
口を開かせ、彼らに見せた、
小さな四角の真珠たちを。

* * *

Robert Herrick
"The Rock of Rubies, and the Quarry of Pearls"

Some ask'd me where the rubies grew,
And nothing I did say:
But with my finger pointed to
The lips of Julia.
Some ask'd how pearls did grow, and where;
Then spoke I to my girl,
To part her lips, and show'd them there
The quarrelets of Pearl.

* * *

ほんの小ネタ。恋人のくちびるがルビーのように
赤く、またその歯が真珠のように白くて、
そしてきれい、という内容。

ルビーの原石

By Rob Lavinsky, iRocks.com
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Corundum-edd15b.jpg

半分ほど生成した真珠

By Manfred Heyde
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Pearl_oyster.jpg

* * *

リズムと形式について。



形式は、ビートが4/3(+1)/4/3(+1)と並び、
一行おきに脚韻を踏むバラッド・ミーター。
(各種のストレス・ミーターのなかでも、
もっとも庶民的なもの。)

しかし、音節数をきちんと8/6/8/6とそろえ、
庶民の間の歌であるバラッドより洗練された
雰囲気にしてある。

本物のバラッド的な四拍子四行ababのスタンザではなく、
八行のスタンザとなっているのも、庶民的なこの形式と
一線を画すためかと。(また17世紀のオリジナルを見て
確認します。)

* * *

詩のリズムについては、以下がおすすめです。

ストレス・ミーターについて
Derek Attridge, Poetic Rhythm (Cambridge, 1995)

古典韻律系
Paul Fussell, Poetic Meter and Poetic Form, Rev. ed.
(New York, 1979)

その他
Northrop Frye, Anatomy of Criticism: Four Essays
(Princeton, 1957) 251ff.
(後日ページを追記します。和訳もあります。)

Joseph Malof, "The Native Rhythm of English Meters,"
Texas Studies in Literature and Language 5 (1964):
580-94

(日本語で書かれたイギリス詩の入門書、解説書の多くにも
古典韻律系の解説があります。)

* * *

英文テクストは、Robert Herrick, The Hesperides and
Noble Numbers
, ed. A. Pollard (London, 1898),
vol. 1 より。http://www.gutenberg.org/ebooks/22421から
ダウンロード可。

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