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Shelley, "To a Skylark" (1-6)

パーシー・B・シェリー(1792-1822)
「ひばりに歌う」 (1-6連)

やあ、陽気な妖精の君!
君は絶対に鳥じゃない。
天から、あるいはそこに近いところから、
君は心そのものをそそぐ。
あふれるほどの即興のメロディというかたちに変えて。

どんどん高く、さらに高く、
大地から君は飛び立つ。
まるで炎の雲のように。
君は青く深い空を横切って飛ぶ。
歌いながら舞いあがり、そして舞いあがりながら歌う。

沈んだ太陽の
金色の稲妻のなかを、
輝く雲の下を、
君は漂い、駆けぬける。
まるで、からだをもたない「歓び」そのものが走りはじめたかのように。

赤くおぼろげな夕暮れが、
君が飛ぶまわりで溶ける。
天の星が
一面に広がる日の光のなかで見えないように、
君も見えない。が、君の鋭い高音の歓びが聞こえる。

君の声はまるで鋭い矢、
あの銀色の星から降る矢だ。
その星のまぶしい光は弱くなっていく、
透き通るような白い夜明けのなかで。
そしてほとんど見えなくなる・・・・・・が、そこに銀の星は確かにあって。

大地そのものが、すべての空気が、
君の声で大きく鳴りひびく。
まるで、裸の夜に、
ひとつだけ浮かぶ雲から
月が光の矢を雨のように降らせ、空が大洪水になるように。

(つづく)

* * *
Percy Bysshe Shelley
"To a Skylark"

Hail to thee, blithe Spirit!
Bird thou never wert,
That from Heaven, or near it,
Pourest thy full heart
In profuse strains of unpremeditated art.

Higher still and higher
From the earth thou springest
Like a cloud of fire;
The blue deep thou wingest,
And singing still dost soar, and soaring ever singest.

In the golden lightning
Of the sunken sun,
O'er which clouds are bright'ning,
Thou dost float and run;
Like an unbodied joy whose race is just begun.

The pale purple even
Melts around thy flight;
Like a star of Heaven,
In the broad daylight
Thou art unseen, but yet I hear thy shrill delight,

Keen as are the arrows
Of that silver sphere,
Whose intense lamp narrows
In the white dawn clear
Until we hardly see--we feel that it is there.

All the earth and air
With thy voice is loud,
As, when night is bare,
From one lonely cloud
The moon rains out her beams, and Heaven is overflowed.

* * *
ひばり

By DAVID ILIFF
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Skylark_1,
_Lake_District,_England_-_June_2009.jpg?uselang=ja
(改行を入れています。以下、URLはすべて同様。)

ひばりの声(RSPBサイト内のページ)
http://www.rspb.org.uk/wildlife/
birdguide/name/s/skylark/index.aspx

ワーズワースに「ひばりに歌う」("To a Sky-Lark")という詩があり、
シェリーの「ひばり」はそれを引き継ぎ、発展させたもの。

(一応、念のため)
「シェリー」というのは姓で、名前はパーシー、男性。

* * *
以下、訳注。

1 spirit
からだをもたない超自然的存在(OED 3a, 3d)

2 wert
Were (初期近代英語における活用形、Shakespeare が
用いたかたち--OED, "Be," A.III.6b).

4-5
この「メロディというかたちで心をそそぐ」など、
シェリーの詩には共感覚的(あるいはそれ以上)に交錯した
超現実的な表現がしばしば見られる。

メロディ: 聴覚の対象
心(感情): 思考の対象(抽象概念)
注ぐ: 視覚/触覚/聴覚の対象

---
(参考)
詳しく調べてはいないが、このような表現への嗜好は
コールリッジなどから引き継いだものと思われる。
("Eolian Harp" など参照。)

コールリッジやシェリーの作品に見られる、
共感覚的/超現実的な表現は、17世紀の一部の詩人に
特徴的な、ある種行きすぎた感のある比喩
(文学史上「奇想」conceit とよばれるもの)の
19世紀版とはいえないか。

実際コールリッジは、この「奇想」によって知られるジョン・
ダン(John Donne)を高く評価していた。曰く--

「ダンの "The Canonization" はお気に入りのひとつ」。

「学生に最高レベルの読み方を教えたいなら、まずダン、
特に "Satyre III" を読ませよう。・・・・・・ダンが
読めるようになったら、次はミルトンに送り込め」。

以上、Coleridge, The Major Works, ed. Jackson,
(Oxford, 2000), p. 570 より。
---

10-15
位置関係は以下の通り。
(下から順に)
- 太陽は沈んでいて見えない。
- 残り日で地平線上が明るい(稲妻が光ったときのように)。
- その上、はるか上空の雲も輝いている。

10 still
常に、継続的に(OED, adv. 3a)

11-12
超現実的な表現: 沈んだ太陽の金色の稲妻(のように見える明るさ)
- 太陽の光は稲妻ではない。

(なお、上記の通り比喩が大仰だったり、この一節のように
色彩的に強い表現が目立つこの詩ですが、実際シェリーは、
あっさり、さっぱり、しかも少しキラキラ、というような
きれいな文体をもっていると個人的に思います。)

15
超現実的な表現: ひばり=歓びそのもの

16-17
超現実的な表現: 赤くおぼろげな夕暮れが溶ける(ように見える)
- 夕暮れは固体ではないから溶けない。

(もちろん、「溶ける」という語は、かなり昔から比喩的に
用いられてきているなど、日常的な表現のうちにも
共感覚的/超現実的な表現はかなりある。
「心が痛い」とか、「冷たい言葉」とか、「おいしい話」とか。
なので、このような表現の突飛さや斬新さは、あくまで
程度の問題。)

16 purple
パープルとはもともと赤色のこと(OED B.1)

20
超現実的な表現: 鋭い高音の歓びが聞こえる(歓びの声が聞こえる)
- 歓びそのものは聞こえない。

22
銀色の星とは明けの明星としての金星、という注が
よくつけられているが、これは本当か? 詩の世界で
通常銀色と表現される星は月。弓や矢をもっているのも
月と狩猟の女神アルテミス=ダイアナ=シンシア。
たとえば、以下などを参照。

Ben Jonson, ("Queen and huntress")
Charlotte Smith, "Sonnet IV: To the Moon"
de la Mere, "Silver"

Jean-Antoine Houdon (1741-1828)
Diana. Bronze, 1790.

Digital photo by Tetraktys (Ricardo André Frantz)
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Houdon-diana.jpg

Augustus Saint-Gaudens (1848-1907)
Diana, 1892-93, 1928 cast.

Digital photo by Postdlf
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Diana_by_Augustus_Saint-Gaudens_01.jpg

「ひばりの声=星から降る光の矢」という比喩が5-6連
(21-30行)に共通することから見ても、やはり22行目の
"that silver sphere" は月と考えるべきかと。

25-26
このスタンザ間に、(そんな星と同様、君の姿も見えないが)
などの言葉を補うと話がつながる。

26―27
「大地と空気が大きく鳴りひびく」という表現は、
超現実的で突飛なのではなく(「音=空気や物の振動」
だから科学的に正しいが)、大地と空気が "loud" という
組み合わせ(collocation)そのものに違和感がある。
通常、何らかの音が "loud" なのであって、もの
(楽器など音を出すもの以外)が "loud" とはいわない。

28
超現実的な表現: 裸の夜(夜空に雲などがない、ということ)
- 夜そのものは服を着ない。

26-30
超現実的な表現:
月が光の矢を雨のように降らせ、空が大洪水
- 月の光は矢ではない。
- 月の光の矢は雨ではない。
- 空は大洪水にはならない。

しかもこれは、大地と空気がひばりの声で鳴りひびいていることの
たとえ。つまり、音を光にたとえ、さらにそれを水にたとえるという
二重あるいは三重の超現実的な表現となっている。

* * *
英文テクストは Hutchinson, ed.,The Complete Poetical Works
of Percy Bysshe Shelley
, vol. 2 (Oxford, 1914)
<http://www.gutenberg.org/ebooks/4798> をベースに
編集したもの(編集中)。現在、参照しているのは以下のもの。

Shelley, The Major Works, ed. Leader and O'Neill (Oxford, 2003).

---, Shelley's Poetry and Prose, ed. Reiman and Fraistat
(Norton, 2002).

* * *
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