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『別海から来た女 木嶋佳苗悪魔祓いの百日裁判』(佐野眞一著 講談社 2012年刊)
週刊誌の見出しに躍った「毒婦」という言葉、私自身ワイドショー的興味から購入した。著者がこれまで何冊か読んだことのある佐野眞一ということで、この事件をどのような視点から取り上げたのか読んで見たくなったからである。
佐野氏は、『東電OL殺人事件』で、当時一流企業と言われていた東京電力(原発事故への対応から三流以下ということが判明したが)に勤務する女性が殺され、容疑者として捕まったネパール人が冤罪の可能性があるというものであった。時あたかも、近日中にゴビンダ氏に係る再審の可否が決定されるという。
本書は、本当に佐野氏の筆によるものなのだろうか?あとがきには取材スタッフの名前が掲載されているが、佐野氏はスタッフからの原稿をチェックもしないでそのまま出版したのではないかという疑問がある。
この事件については、直接的な証拠や供述のない中、裁判員制度のもとで裁かれているが、そのことの是非についての言及はほとんどない。すなわち、木嶋被告を最初から最後まで犯人として疑問などを持つ余地も無く描いている。反対にその犯罪の質は史上最高のものであるという評価である。
佐野氏の取材対象への配慮がたりないことである。別海など取材対象が少なく固有名詞が特定される恐れのある田舎なのにほとんど配慮を欠いている。またその描き方も必要以上にダーティーなイメージとなっている。被害者の描き方もその人自身にも隙(だまされる方が悪い。)があり、被害を受けるのも不思議でないような表現になっている。また、第二部の百日裁判は、法廷内のやり取りを記録し、文章に起こしただけで、それについての論評がほとんどない。
全体に、これまでの佐野氏が維持してきた良質な社会性が欠如している作品である。このところ多作で本書については手を抜いたのであろうか。残念である。
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