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重田園江 『真理の語り手 アーレントとウクライナ戦争』 その2 ヴチャ ガルージン

2023-09-04 13:53:31 | Weblog

マスコミは、ジャニー喜多川による性加害を伝えることができなかったと自らのこれまでの姿勢を自己批判している。だが、皆がどこかおかしいぞと感じていることがある。それは他の芸能プロにおいてはどうなのかという問題だ。話題をジャニーズ事務所に限定しあえて深堀を避けているのではないか。「汚染水」放出報道も同じ構造だ。一部で伝えられ始めているが、含まれているのは本当にトリチウムだけなのかという問題だ。アルプスの性能も含めてデータの開示を求めるべきだ。

 

『真理の語り手 アーレントとウクライナ戦争』(重田園江著 白水社 2022年刊) その2 ヴチャ ガルージン    

何が本当のことなのだろうか?かつてならおおむね新聞やテレビで伝えられた内容は真実だと推測された。それだけマスコミの信頼性が高かったと言える。だが近年は、マスコミは信頼できるのか?権力に対する忖度や自己抑制が働いているのではないかという疑いを持ってしまう。一方で、ネットメディアが発達し、真偽が定かでない多種多様な言説が溢れている。一体、何が真実なのか。著者は、アーレントの思想をとおして考える。

「Ⅰ アーレントと真理の在りか」(P17~P67)、「第一章 政治が嘘をつくとき」(P19~P36)と「第二章 ハンナ・アーレント―真理と政治」(P37~P67)

アーレントは、「真理という理念が成り立たない世界は存続しない」(P43)という。意味を捉えるのが難しい言葉だ。著者はアーレントのこの言葉を手がかりとする。

では、ヴチャ(住民虐殺)起こったことをどう捉えたらいいのか。ロシア軍による虐殺?ウクライナによる自作自演?真実は一体どこにあるのか? ヴチャで住民が亡くなったことは動かしようのない真実だ。では、誰が、どのような方法で。

著者は、前駐日ロシア大使ガルージンが「ウクライナによるでっち上げ」(2022.4.11、TBS「報道特集」)との発言を批判して、これを許したら「『この世界に起きたこと』と『起きていないこと』の区別が失われてしまう」(P39)、そして、「『本当にあったこと』をどの範囲で確定できるかが問題なのではない。」(P40)規模や主体、意図や経緯がどういったことなのかということではなく、「出来事として何かが起きたか起きなかったか、その大きな枠組みとしての存在/不在はやはり確定できるという、私たちの事実に対する『信念』『期待』『想定』が問題なのだ。それが定かでなくなった世界は、人が人として生きることができない世界ではないだろうか。」(P40)と述べガルージンに怒りを向ける。

また、「虐殺があったかなかったか、『あなたはあなたの信じたいものを信じ、私も私の信じたいものを信じる』(例えば、ガルージンの発言)という意見や見解、政治立場の相違に格下げされてしまったら、世界は存在しつづけられないだろう。・・真理は意見の相違とは別の次元にたしかに存在し、そしてそれを、真理であるが故に証言し証拠立てる人たちがいる。このことが、人間が人間として世界に場所を占めるために、なくてはならない条件となっているのだ。」(P44)という。

「人間が意のままに変えることができない事柄が存在し、それについて語る者たちが真理の証言者であるというアーレントの考えは、政治的な噓、独裁者の噓、メディアの噓や虚構が、真理を戦勝するのみならず現実を変える力を持つ現在において、きわめて重要なものである。」(P66)

以上が、著者の真理をめぐる見解だ。真理の捉え方としては僕も同意できる。だが著者の中では、トランプ、プーチン(ロシア)批判に一直線なのだ。なぜトランプ、プーチンは真理の側にいないのか、論理が飛躍している。僕は、バイデン、ゼレンスキーを支持はしないが、著者の考えには同意できない。なぜなら、戦っている当事者、対立している当事者たちの発する言説のどちらも鵜呑みにしてはいけないと考えるからだ。当事者たちは、まさに言論戦、情報戦を繰り広げている最中なのだ。そこには真実とともに自国に有利になるようなプロパガンダも含まれているからだ。

著者は、真理が定かにできない世界は、人が人として生きることができない世界だという。僕は、確証の持てないことを真理と決めつける方が慎重さに欠ける怖い世界だと考える。著者は、少し前のめり過ぎている。そこは同意できない。

 

 


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