晴走雨読

晴耕雨読ではないが、晴れたらランニング、雨が降れば読書、きままな毎日

『雲の都』 完結

2012-09-04 17:45:12 | Weblog

 『雲の都 第4部 幸福の森 第5部 鎮魂の海』(加賀乙彦著 新潮社 2012年刊)

 加賀乙彦の自伝的大河小説がついに完結した。雑誌『新潮』に連載が始まったのが1986年からだからおよそ25年間、四半世紀にわたった大仕事であった。単行本は1988年から刊行されていて、『岐路』『小暗い森』『炎都』各上下巻では、昭和初期から終戦直後の昭和22年頃までを描いている。これは、現在、新潮文庫で『永遠の都』(全7巻)としてまとめられ刊行されている。

 舞台は首都東京、加賀自身が生まれ育った環境と思われる裕福な中流家庭、時代は軍靴の響きがひたひたと押し寄せてくる戦前、しかし人は時代と無関係に生きていくことはできない。国家の運命に翻弄されるひとり一人の人生、自分では決定することができない出自や血縁関係、読者は、生きていくことが偶然と必然の結果であることを思い知らされる。

 後半は、『雲の都』(全5巻)として、第1部「広場」、第2部「時計台」、第3部「城砦」、第4部「幸福の森」、第5部「鎮魂の海」で、21世紀の入口まで描かれた。血のメーデー事件、全共闘運動、阪神大震災、地下鉄サリン事件・・戦後も様々な出来事が起きたが、主人公(加賀自身)はそれらとも関係しながら生きてきて、最後は80歳代になった加賀自身の遺書という形で小説は終る。

 加賀は、25年を懸けて自身の80余年を描いた。読み手の方もその間25年という年月が経過したのである。30歳台初めであった私も57歳になった。もう一度最初から読み返そうという気力を今は持っていないが、随分と時間が経過したものだと思う。

 勤め人は、会社での時間が一日のほとんどなので、会社中心の生活にならざるを得ないが、私の場合も入ったばかりだった頃から、現在はあと2年ほどということになってしまった。その間、小さなドラマもそれなりにあり、世代的には加賀は親の世代であるが、この小説とともに生きてきたような感慨を覚える。

      近年には無い長編私小説である。今後、諸氏の評価が出てくると思う。

 

 

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