紺谷典子さんは、テレビではよく拝顔するが、著作を読んだことはなかった。
400ページを超えており、新書としては大作だが、分かりやすい言葉で書いてあり、一挙に読める。
「はじめに」に以下のように書かれたことが、詳しく解説される。
<年金改革も医療保険改革jも、保険料の値上げと、年金の削減、医療の自己負担の増加でしかなかった。国民に安心を与えるための社会保障改革は、逆に国民の不安を拡大した。財政危機が実態以上に、大げさに語られてきたからである。しかし、年金や医療の財政危機は、事実ではなかった。
社会保障の削減はすでに限度を超している。その結果、世界一と評価されたこともある日本の医療は、もはや崩壊寸前である。
小泉改革の「官から民へ」は行政責任の放棄であり、「中央から地方へ」移行されたのは財政負担だけだった。「郵政民営化」は、保険市場への参入をめざす米国政府の要望である。小泉首相の持論と一致したのは、米国にとっては幸運でも、国民にとっては不運だった。
改革のたびに国民生活が悪化してきたのは、改革が国民のためのものではなかった証左である。私たちは、そろそろ「改革」とされてきたものを疑ってみるべきではないだろうか。
サブプライム・ローン問題は、金融改革が幻想だったことを明らかにしている。金融改革だけではない。すべての改革は、「改革幻想」というべきものである。改革幻想から覚めない限り、日本経済は、崩壊への歩みを続けることになろう。>
「第11章外資だけが利益を得た」では、新生銀行を題材に、政府もマスコミも外資をやみくもに礼賛したことの愚が明らかにされる。
次には、日債銀が例として解説される。
<12月、長銀に続き、日債銀も国営化され、外資に懲りたのか、ソフトバンク・オリックス・東京海上などの日本連合に売却され、あおぞら銀行になった。瑕疵担保特約を含めて、長銀とまったく同じ手順が踏まれたのである。日債銀には約4兆9000億円の公的資金が注入され、長銀と同じく10億円で売却された。
サーベラスなど競合外資がいたにもかかわらず日本連合に売却されたのは、長銀を外資に売却したことを強く批判されたからと言われている。しかし、専門家によると、そもそも欧米では公的資金で再生した銀行を売却する相手は、必ず銀行だそうである。投資ファンドや事業会社に売却する例はないという。
金融業の専門性を考えれば、当然そうであろう。投資ファンドは、もともと短期的な売却益を上げることが目的だ。まして、事業会社への売却は、機関銀行化の恐れがある。公的役割を担う銀行が、単に、オーナー企業の資金調達窓口になりかねない。
しかし、ソフトバンクはわずか3年で、競合していたサーベラスに売却、少なくとも500億円の売却益を上げたとされる。
ソフトバンク保有株の買収には、三井住友銀行も名乗りを挙げたが、結局、米国GEキャピタルなどと外資連合を組んだサーベラスが全株を取得した。結局、サーベラスはあおぞら銀行の6割の株主となり、日債銀もほぼ外資のものとなったのである。>
グローバルスタンダードと称されたアメリカンスタンダードに従った愚を繰り返さぬよう、日本独自の価値観を大事にしながら、世界の中で生き抜いていく方策が必要である。
小泉改革、竹中改革と称されたものは反省され、その改革をすることが必要であろう。改革という言葉が大事なのではなく、どう改革するのか、世界の中で存在感を示せる、どういう日本国を作るのかを創造しなければならない。
紺谷さんは、小渕内閣を評価するが、麻生内閣が小渕内閣のような改革をすすめることを期待したい。
目次
第1章 平成の20年が日本を壊した
第2章 「改革」という名の破壊
第3章 バブル崩壊
第4章 回復のチャンスを潰した
第5章 橋本改革
第6章 橋本改革-見逃された大蔵省の責任
第7章 作られた「財政危機」-大蔵省の嘘
第8章 金融ビッグバン
第9章 拓銀と山一-金融危機①
第10章 「ダメな銀行は潰せ」-金融危機②
第11章 外資だけが利益を得た
第12章 回復なくして改革なし
第13章 小泉改革が始まった
第14章 道路公団の民営化
第15章 意図された金融危機-4大銀行の増資と、りそなの謎
第16章 景気回復の嘘
第17章 格差の拡大と日本的経営の破壊
第18章 年金は本当に危機なのか-社会保障の破壊①
第19章 医療破壊-社会保障の破壊②
第20章 誰のための郵政民営化
最終章 サブプライム・ローン問題の教訓