真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「官能団地妻」(1992『官能団地 悶絶異常妻』の2010年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:鈴木敬晴/企画・製作:田中岩夫/撮影:稲吉雅志/照明:渡辺勝二/音楽:雄龍舎/編集:井上編集室/撮影助手:青木克弘・片山浩・斉藤博/照明助手:須崎文夫/助監督:水野智之・広瀬寛/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/効果:協立音響/撮影協力:土鈴/出演:栗原早記・岸加奈子・小泉あかね・久須美欽一・牧村耕次・早川誠・平岡きみたけ)。出演者中、早川誠と平岡きみたけは本篇クレジットのみ。助監督二人目―要は監督助手的ポジションか―の広瀬寛は、当サイトが仕出かした“巳”の字の脱字ではなく、本篇クレジットがあくまで広瀬寛。
 イメージ・ショット風黒バックの、主演女優と早川誠の情交にて開巻。栗原早記は決して殊更美人といふこともなければ特にスタイルがいい訳でもないものの、適度に生活感も漂はせる、何ともいへない絶妙ないやらしさは有してゐる。そんな濡れ場は、朝の日差しとともに軽やかな夢オチで処理。出勤に六時十二分の始発に乗らなくてはならない、夫の小島(牧村)に起こされ美和子(栗原)は目覚める。美和子が、小島は自嘲気味に“蟻の巣” と称する団地に暮らし始めて五年。単調な日々の暮らしと、淡白な夫婦生活とには不満を覚えぬでもなかつたが、かといつて派手に放埓の羽を伸ばすほどの勇気も美和子にはなく、精々テレクラでの安全な火遊びに興じるくらゐが関の山であつた。そんな美和子に、通りで出会つた私服姿―ここは素直に、制服を着せてゐた方がより設定が判り易かつたやうには思へる―の隣家の女子高生・香澄(小泉)は家族関係に関する不満を零す。死別したのか、再婚した父・大木(大城?/久須美欽一)と激しいセックスに耽る後妻・康代(岸)を、香澄は「牝の匂ひがする」とまで手厳しく嫌悪してゐた。香澄には悪いが、誰であれ男が岸加奈子と二度目以降の結婚状態にあつては、前妻をコロッと忘れてみせるのもそれは仕方なからう。話を戻して、同級生の山下弘美(電話越しの声すら登場せず)から高校の同窓会の案内を受け取つた美和子が、一旦は日取りが団地の寄合とバッティングするため断念しつつ、当時の彼氏・コージ(早川)も出席するとの情報には逡巡する一方、香澄が、“FREEDOM”とロゴの入つたスタンガンを手に黒いライトバンから降りて来た平岡きみたけに拉致される。結局、コージ本人からの正しくラブコールも受け堪へきれずその日の外出の準備を美和子が進めてゐると、画期的に間も悪く血相を変へた康代が飛び込んで来る。何と香澄が誘拐され、しかも犯人は交渉相手に家族ではなく、何故かお隣の美和子を指定して来たといふのだ。美和子と康代が半ば睨み合ふ形の小島家に、コージとの密会を決断した際の思惑は見事に外れ小島が早くに帰宅。仮に、片田舎の団地から通勤に二時間かゝるとすると、康代の不意過ぎる来訪が十九時前なので、出先から直帰したのでなければ、小島が退社したのは残業どころかほぼ思ひきり定時である。さて措きやがて大木も揃ひ、打開の糸口も掴めねばそもそも出発点から腑に落ちない状況に、二組の夫婦は苦悩する。
 心に隙間も抱へるいはゆる団地妻が、二重の意味で藪から棒な重大犯罪に巻き込まれる。舞台が整つてからは団地の一室をメインに進行するいはばシチュエーション・サスペンスは、一旦は頑丈な充実を見せる。犯人からの連絡を一同が固唾を呑んで待つしかないところに、約束を反故にされたコージの電話が入る弾みで美和子のよろめきが露見し、薮蛇に話が拗れる展開は小躍りするほどに面白い。勝手に誘拐犯から指定されただけなのに、まるで自分が悪者かのやうに扱はれる流れにキレた美和子が、翌日納期の宛名書きの内職に衝動的に手をつけ小島からは制止される件も、さりげなく見事で素晴らしい。平岡きみたけが、自身の凶行を終始“ゲーム”と呼称する点は、今となつては手垢のついた感覚でもあるが、当時は未だ新鮮味を保つてゐたのであらうか。何れにせよ、かういつてはある意味悪いが短躯といひ童顔といひ、演出以前に持ちキャラとして未熟さを濃厚に発散する平岡きみたけに、“ゲーム”といふ用語は綺麗に親和する。ところが残念ながら、康代と大木の夜の営みの模様が二度目に挿入される辺り以降の終盤、途中までは十全に積み重ねられた物語は俄に求心力を失しあるいは力尽き、明確に失速してしまふ。終に語られはしない、平岡きみたけの一方的な美和子に対する因縁の詳細は兎も角、香澄が自力で脱出を果たす時点で二つの現場の連関が遮断され、挙句に美和子が下す決断の木に竹を接ぐどころでは済まない頓珍漢さは致命的。泣き腫らしたとでもいふ塩梅で素顔を晒した栗原早記の熱演も虚しく、子供が居ようと居まいと「いいえ、矢張り変らない」とかいふ美和子が辿り着いた結論は直截にまるで意味不明で無造作さも感じさせるが、画面(ゑづら)上は対照的かつ印象的なラスト・ショットに反し、これでは詰まるところは、最大の被害者は小島ではないのかといふ釈然としなさばかりが残される。殊に中盤が抜群に優れてゐた分、映画を収束させる肝心要の最も困難な段取りを素直に越えられなかつた限界が、猛烈に惜しい一作である。

 ところで今作、1999年に「団地妻 変態体位」といふ新題で、既に一度新版公開済みではある。尤も、タイトルにわざわざ謳ふほどのアクロバットが、披露される絡みは別にない。


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