真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢と人妻 熱いしたゝり」(2005『痴漢妻 したゝる愛汁』の2009年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:廣田幹夫/脚本:高木裕治/企画:福俵満/プロデューサー:黒須功/撮影:下元哲・岩崎智之/照明:高田宝重/録音:シネキャビン/編集:大永昌弘/助監督:飛田一樹/撮影助手:中村拓/衣裳:杉本京加/ヘア・メイク:嶋津奈央/スチール:奥川彰/車輌:山下雅之/ネガ編集:三陽編集室/タイトル:道川昭/現像:東映ラボ・テック/制作協力:黒須映像工房/出演:小島三奈・阿当真子・藤田浩・江沢大樹)。出演者中阿当真子が、ポスターには合沢萌。改名後の、同一人物ではある。本クレが杉本まことで、ポスターはなかみつせいじといふのと同じ格好。
 裸の女の体の上を、電車のオモチャが自走気味に走る開巻。動力源が特に見当たらないのをみるに、フレーム左右の袖から指で押し引きしてゐるのであらう。
 テレビ番組といふ寸法なのか堂々としたキネコによる、街行く女々に痴漢体験の有無を尋ねて歩くインタビュー。何れも元ネタは判らないが―ピンクの予算規模からして、ここまで撮つてゐるとは考へ難い―電車痴漢もののAVを挿入した上で、もしかするとここだけ新撮か、顔にはモザイクのかけられた“痴漢のプロ”登場。藤田浩の声でプロは、現代社会に蔓延する孤独感を嘆いた上で語る。痴漢とは、「人と人との触れ合ひを確認する」営みであると。仮にこの件も声を被せただけならば、どうせアフレコなのだからといふ話ではあるのだが。
 WEB上のコラムを主戦場とするフェミ系フリーライター・葵真由子(小島)は、編集長・土方寛(江沢)から提供されたネタに目を輝かせる、ついでにオッパイも膨らませる。十年前に発売されたアダルトビデオ「痴漢列島」に出演するプロ痴漢が、昨今経営不振の東都電鉄を買収したことでも話題になつた、新興IT企業「ライフゲート」社長の松江一政(藤田)と同一人物ではないのかといふのだ。忌むべき性犯罪者に正義の鉄槌を下すと同時に、記事の出来の如何によつては、本誌掲載もあり得るといふ土方の言葉に真由子は俄然意欲を燃やす。妻で一応ミステリアスな美女・みどり(阿当)と二人暮らしの松江を自宅に訪ねた真由子は、その遣り取りに割ける尺にも限りがあるとはいへ、取材開始するや性急に“痴漢のプロ”に関する本題を切り出し、勿論その場は早々に決裂する。真由子が屋敷を後にすると、吊革も垂らし電車の車内を模した一室で、松江はまるで電車痴漢するかのやうにみどりを抱く。特別室の安普請さが、逆にリアルだ。
 腰から下で観る分には特に不足はないものの、一旦首から上を使ひ始めてしまふと疑問も多い一作。まづは何はともあれ、松江の正体を割るのが早過ぎはしないか。折角ユニークなプロットながら、序盤で焦点の筈の疑惑にケリをつけてしまつては、サスペンスとして全く成立しない。よしんばさういふ志向では初めからなかつたものとしても、結果的に以降がさしたる新機軸も生み出せぬまゝに、濡れ場濡れ場を連ねるほかなくなつた手詰まり感は禁じ得ない。「痴漢は人と人との繋がりだ」とかいふ松江の豪快な方便を、物語の中に十全に着地させる論理にも気前よく欠いてゐる。ピンクスである時点で徒に女子供に腰を振つてみせるやうなつもりは毛頭ないが、至極当然な真由子の露にする反発に対し、“嫌よ嫌よも”でもなからうに、触られれば気持ちがいいのではないのか?だけではてんで形にならない。松江夫妻による真由子攻略戦に於いて、女性主義者である真由子は、性愛の対象も同性であつたと思はせかけた展開は束の間光つたが、後々真由子は土方と寝てしまふ以上、この趣向も意味を成さない。
 それ以上に画期的に頓珍漢なのが、オーラスに於いて真由子がWEBコラムを介して送る、ネット社会の成員達に対してのメッセージ。生身の人間関係を築くやう勧め、そのためには、「ただ、人に触れればいいんです」ださうだ。大胆などんでん返しを経て、真由子が見事松江陥落に成功したのかと思へば、結局感化されてゐたのには変りがなかつたのか否かがグダグダに不鮮明である点に加へ、廣田幹夫が何を明後日に張り切つてか、ピンクを通して電脳空間の住人に訴へかけようとしてゐるのかが清々しく判らない。主要客層をおとなしく鑑みれば、それは暴投に過ぎないのではなからうか。大体が、近代の延長線上にある現代人が確かに孤独であらうことに疑ひはないとしても、その空白乃至は欠如に際しての、オン・オフの別など単なる形式論に過ぎず、ラインに繋がつてゐるか否かと、孤立に苛まされてゐる苛まされてゐない、あるいは忘れてゐるかの四類型に基く更に幾分かは詳細な整理も、だからどうすればよいのかといふ実質的な意味はさして持つまい。それでゐて紐帯の強い共同体に放り込めば放り込んだで、今度は個人の喪失を嘆き始めるにさうゐないのだから、全く以て始末に終へぬ話ではある。

 話を戻すと全四作の廣田幹夫ピンクにあつて、それでも今作が最もこぢんまりとはいへ裸映画として纏まつてはゐるとはいへ、バジェットも最小であつたのか、撮影の不安定さがそこかしこで目立つ。


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