真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「派遣女子社員 愛人不倫」(2003/製作:ネクストワン/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:黒川幸則・松岡邦彦/企画:稲山悌二/プロデューサー:秋山兼定/撮影:村石直人/照明:倭武田純/編集:鵜飼邦彦/音楽:戎一郎/助監督:竹洞哲也/出演:松本静香・しのざきさとみ・酒井あずさ・小林節彦・吉田祐健・岡田智宏、他)。本篇クレジットも設けられない他出演者が、計四名。
 離婚後、鵜野瀬(岡田)の写真事務所で派遣社員として働く鈴木万里(松本)が、その日の撮影を終へモデル(相沢知美/クレジット無し)とスタッフ(男二名/同)を適当に送り出した鵜野瀬に、強引にいひ寄られる。と、ここまではオープニング・シークエンスながら恐ろしいことに全くの繋ぎ。後に短い電話のシーンに一度だけ出て来るものの、岡田智宏は完全なる男優部の濡れ場要員に止まる。ついでに劇中触れられることも活かされることも一切ないが、鵜野瀬の下の名前は健一、さりげなさ過ぎる地雷である。
 場面変つて公園のベンチにて、区役所の福祉課に勤務する荊木好喜(小林)が侘しくコンビニ弁当に舌鼓を打つ。そんな荊木を、コップ酒の差し入れと共に戸籍課―そんな課あるのか?―の古田一郎(吉田)が訪ねる。小林節彦と吉田祐健のツー・ショット、漸くここに至つて、“エクセスの黒い彗星”松岡邦彦の映画が本格的に起動した感が強い。ぎこちない主演女優と、スチャラカな役柄の岡田智宏による開巻には危惧が胸を過ぎりもしたが、ここに来て安堵のガッツ・ポーズ。「よし、これは矢張り松岡邦彦の映画だ」、と。独身の荊木は休日、古田に愛人との逢瀬に度々部屋を貸してゐた。けふはそんな日頃のお礼にと、古田は荊木に、荊木でもオトせる女といふ離婚届を提出しに来た女の住民票を手渡す。勿論、豪快に違法行為であることはいふまでもない。住民票は、万里のものであつた。鈴木万里、略すと“スキマン”(アホか>松岡邦彦、か黒川幸則)。古田にハッパをかけられた荊木は、恐々万里の下を訪れてみる。
 主演の松本静香、首から下は如何にも抱き心地の良ささうな堪らない体をしてゐるのだが、首から上とお芝居の方はどうにもぎこちない。無茶苦茶な譬へ方をすると、量産型の葉月螢。そんな松本静香に変つて映画のフロント・マンを務めるのが、小林節彦と吉田祐健のイイ顔オヤジ俳優ツー・トップ。セクロスの味も覚えた離婚女は、愛人に囲ふに与し易い筈である。浜野佐知に知られた日には松岡邦彦も黒川幸則もボコボコにされるに違ひない、スチャラカなプロットに基づいた好色男達の喜劇である。小林節彦と吉田祐健には二人だけで銀幕を支へ得る魅力があることに加へ、初めはオフェンシブな古田がディフェンシブな荊木の優位に立つてゐたものが、荊木が首尾よく万里をモノにするに際して、微妙に二人の間の関係に変化が生じて行くといふ展開は絶品。万里をモノにして有頂天な荊木に対し、焦燥をポーカー・フェイスに押し隠す吉田祐健には笑ひを禁じ得ないと同時に、身震ひさせられる。
 しのざきさとみは古田の愛人・中川仁恵。酒井あずさは、荊木が通ふ理髪店の女主人・松本京。酒井あずさが濡れ場要員で理髪店の女房といふのは、翌年の「親友の恥母 -さかり下半身-」と全く同じポジションでもある。劇中での名前さへ異なるものの、ロケ先の理髪店も同じ場所。
 性善説と性悪説の最も単純な二極分化にふるひ分けるならば、松岡邦彦は、間違ひなく人間といふ生き物を信用してはゐないに違ひない。その上で、一癖も二癖もある大いなる俗物達の悲喜劇を正しく活写するところに、この人の映画の肝はあるのだと思ふ。万里を荊木から拝借する為に、わざと仁恵を荊木に抱かせる古田の姿の、活き活きとしてゐることしてゐること。荊木×万里×古田×仁恵、もつれた関係にケリをつける為に、四人は予め伏線も張り済みの雀卓を囲む。プップカプー♪と軽快にホーン・セクションが鳴る劇伴も小気味良く、卓上と卓下の攻防が苛烈に交錯する中、何時しか四人が組づ解れつの大乱交に移行する件は圧巻。欲をいへば半端なエピローグなど最早要らないので、乱姦が頂点を迎へたところでそのまま映画を終らせてしまつた方が、よりキレが良く望ましかつたやうな素人考へも残らぬではないが。

 とはいへエピローグにも、一ネタ仕込んでおくことは怠らない。新たな愛人候補にと、古田は今度は離婚したロシア女の住民票を取り出す。名前は花村イリーナ、本籍は“ロシア モスクワ エルミタージュ六番地”。エルミタージュは、サンクトペテルブルクなんだけどな。
 縦横無尽に繰り出される名―迷?―台詞の数々も光る。万里の部屋に落とした住民票に関して尋ねられた荊木は、「神様の、思し召し」。ところが後に仁恵を抱いた代償に万里を古田に差し出さざるを得なくなると、古田を万里に紹介するに最大出力でションボリしながら、「・・・・・神様」。古田が荊木を―荊木の―部屋から追ひ出すと、万里「追ひ出したりして、自分勝手な神様ね」、受けて古田は「これでも救ひの神様なんだけどなあ」、何が“神様”だ。挙句にクライマックスの麻雀勝負、戦況は、仁恵の一人勝ちに決しかける。一方卓下では、荊木が万里を陥落寸前にまで攻め立ててゐることを古田は看て取ると、「確かにお前《仁恵》の一人勝ちだ、だが。神はその勝利を喜ばん!」。さう叫んで卓をひつくり返すと、四人は怒涛の乱交へと雪崩れ込んで行く。そこで易々と神の名を持ち出せるところに、我が民族の大いなる大らかさが良くも悪くも現れてゐよう。
 妻と不貞を働いた荊木―のモノ―をチョン切つてしまはうと、剃刀を手に現れる若い理髪師がもう一人登場、定石からいふと竹洞哲也か。


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