真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「田口ゆかりの裏本番恥戯」(1989/製作・配給:大蔵映画/監督・脚本:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:小畑新生/編集:金子編集室/助監督:青柳一夫・松瀬直仁/音楽:東京BGM/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:田口ゆかり《ロック座》・工藤正人・いか八朗・神田勢山・武藤樹一郎・板垣有美・港雄一・関たかし/特別出演:高崎慶子・風見怜香)。正確なビリングは、特出の女優部がクドマサといか八朗の間に入る。
 山中の舗装道路を、喪服の女が歩いて来るロング。崖つ縁に佇んだ田山ゆかり(大体ハーセルフ)は入水するのかしないのか、揃へて脱いだ草履にタイトル・イン。因みに今作、タイトルがjmdbには「田口ゆかりの裏本番 恥戯」でDMMには「田口ゆかり 裏本番恥戯」とあるが、本篇準拠ではどちらも不正解。母の葬儀から姿を消したゆかりを、妹の千鳥(高崎)と―ゆかりの―恋人の苗字不詳ケンイチ(武藤)が捜しに来る。揃へた草履までは見つけたものの、ゆかり当人は見つからず。ゆかりが飛び出したのは、ケンイチから“強引に誘惑”―ケンイチの弁明ママ。誘惑といふか、普通に迫つてゐるやうにしか見えない―する形で千鳥とケンイチが関係を持つたゆゑ。直後の事後をゆかりに見咎められた千鳥が堂々と逆ギレしてのける、ゆかりもゆかりで後ろ暗いポイントが、ゆかりの運転ミスによる母の事故死。それでゆかりが娑婆にゐるのは執行猶予がついたからなのか、兎も角、爆裂するそれとこれとは感が如何とも抑へ難い。ともいへ、「判つたはよ私が死ねばいいんでせう?死ぬはよ」と逆ギレのクロスカウンターを華麗か苛烈に放つ、ゆかりも矢張りゆかりではある。死に損なひ打ち上げられたゆかりを、山釣りに来てゐた近所の民宿経営・アイダ幸夫(工藤)が救助。山小屋に運び介抱がてら、催した幸夫はゆかりをサクサク犯す。ヤることは全て済ませた上で、謝罪とか告白とか責任とか口にする幸夫はゆかりを自身の民宿に招く。動くなといふのに、幸夫が車を取りに行くや移動を始めたゆかりは、千鳥・ケンイチと遭遇。逃げた山の中で小用を足すゆかりを、山釣りがボウズのアイダ泰三(港)とその甥(関)が発見。山の中に喪服の女、大概突飛なシチュエーションであるにも関らず、ミッチと関たかは至極当然といはんばかりの勢ひでザクザクゆかりを輪姦する。
 とか何とか辿り着いた幸夫の民宿にて、ゆかりが幸夫の父親であつた泰三と双方驚きの再会を果たしたりしながらも配役残り、風見怜香は幸夫との結婚を約され、てゐた親戚の悦子。突如現れたゆかりに、脊髄で折り返した敵対心を燃やす。ところで高崎慶子にせよ風見怜香にせよ、特別扱ひする理由が解せぬ、全く普通の三本柱である。そして問題なのがいか八朗と小林組の裏看板女優・板垣有美に、当時既に芸能生活三十五周年前後を誇る講談師の神田勢山。何だかんだで半ば呆れてプイッと民宿を後にしたゆかりが、“上着”と“浮気”を絡めた他愛ない夫婦(いか八朗と板垣有美)喧嘩に巻き込まれかけつつ、構はず立ち去る、神田勢山は多分いか八の弟役。この三人の出番はフレームにつむじ風のやうに紛れ込むこの場限り、全体何しに出て来たのだか一ッ欠片たりとて判らない。こんなにある意味見事に木に接いだ竹見たことない、結構な山の中まで出張つて撮影してゐる点をも踏まへるならばなほさら、神田勢山を何処から連れて来たんだ。内トラに二三本毛を生やした程度の感覚で気軽に出し易いといふのも含めてか、量産型娯楽映画作家が、時に謎の人脈を発揮する。
 幻の昭和64年にギリッギリ滑り込んだのか、平成の火蓋を切つたのか今となつては定かではない、大御大・小林悟1989年ピンク映画第一作。この年ピンク全十一作と、薔薇族三作。いか八×板垣有美×神田勢山が飛び込んで来る―だけの―件も酷いが、劣るとも勝らないのがその少し前のゆかりの歓迎会と称した宴席。事実上許嫁のエツコがゐるといふのに、幸夫は開口一番「今度僕とゆかりさんが結婚することになりました」。流石小林悟だ、最早とでもいふほかない。藪から棒の素頓狂ぶりがエクストリーム過ぎて、劇中一同と同時に観客ないしは視聴者の度肝も抜いてみせる。挙句前が酷ければ後ろも更に劣るとも勝らず、風見怜香の濡れ場はゆかりに関する押問答を通して―何故か―泰三がエツコも犯す形で処理し、通算三度目に山に入つたゆかりは、エツコの手引きによる関たかともう二名(演出部か)に再々度凌辱される、要は入山する度に犯されてゐる。山に入る女はレイプされる、どんな世界観だ。そして挙句の正しく果てのラストはといふと、何でか知らんけど幸夫とエツコがよもやまさかのV字復縁する傍ら、ゆかりは一応撮影部がそれなりの気概を見せなくもない、砂浜で豪快に自慰に狂つて“完”。要するに、母親を死なせるは妹には男を寝取られるはで満身創痍状態のヒロインが、出し抜けに犯され倒した末終に気が触れる。幾ら量産型娯楽映画、あるいは商業ポルノグラフィーとはいへ、斯くも無体な物語見たことない。流石大御大、とでも深く感銘を受ける以外に、如何なる態度が残されてゐようか。自棄なのか?さうでもない。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« ハミ尻ダンプ... 白く濡れた夏 »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。