真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 緩めて、締めて」(1991『痴漢電車 無理やり奥まで』の1999年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:河中金美・田中譲二/照明:出雲静二・中村誠/音楽:藪中博章/編集:金子編集室/助監督:広瀬寛巳/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:斎藤秀子・並木務/スチール:ブルー&アンバー/録音:ニューメグロスタジオ/現像:IMAGICA/出演:早瀬理沙・神崎亜子・久須美欽一・芳田正浩・石井基正・南城千秋・広田まみ)。
 尺八を吹く主演女優の尻に、着弾した電話の音声が被さる。男役は不特定に撮られてあつて、実際特定出来ない。電話の用件は、天狗OFFICEから風俗のプレイ内容と料金を確認する早瀬理沙の声。正直いつて、そこにその電話がかゝつて来る状況が最後まで見ても結局呑み込めない。男が果てると一転、痴漢電車出発進行。早瀬理沙が、山邦紀の電車痴漢を被弾する。そこそこ攻め込み、パンティの中にまで手を潜り込ませた画に唐突なタイトル・イン。この件も山邦紀が役得感を爆裂させるだけで、ヒロインの開放性といふ以外には何ら以降に繋がる訳でも全くない。とまあとかく、ちぐはぐな開巻ではある。
 改めて、風俗記事の編集プロダクション「天狗OFFICE」。主幹で、劇中呼称は親方の天狗(久須美)はドッカとデスクに両足を上げ、マスミ(早瀬)とオガタ(芳田)が適当に仕事をする。親方は資料を取りに行く口実で、マスミを伴ひ上階の資料室に。とはいへ資料室とは名ばかり、要はヤリ部屋ぢやないかといふオガタの愚痴を口火に、コッテリとした濡れ場を堪能させる。序盤は物語らしい物語も起動しないまゝに、この時点では大して気にもならない。高級デートクラブの体験取材に繰り出したオガタは、マスミへの仄かでもない関心を匂はせつつ、若くてグラマーな娘といふ電話での注文に対し、実際に若くてグラマーな神崎亜子に感激する。神崎亜子が本当にピッチピチで、俺も感激した。脈略をスッ飛ばした洞察力でオガタが取材中であるのを見抜いた神崎亜子は、誌面での顔出しの交換条件にダイヤルQ2のパーティーラインで肉体関係の相手を捕まへ、海外の慈善団体に寄付すると称して金も受け取つてゐる謎の女の素性を調べることを依頼する。モチーフの懐かしさに関しては、懐かしくて当然なので通り過ぎる、二昔も前の映画だ。
 配役残り、“ダイヤルQ2の女”の正体は、隠すなりミスリードしようとする素振りも窺はせずにマスミ。南城千秋はマスミに捕まる、ユニセフも知らない好色漢。但し事後マスミをAVにスカウトする予想外の顔を見せ、狭い界隈の中、神崎亜子第二戦に際してダイヤルQ2に強い奴がゐると“ダイヤルQ2の女”調査に自信を覗かせる、親方の知人であつたりもする。何の条件も設けずに若い頃の窪塚洋介似の石井基正は、電車で痴漢したマスミに、心を奪はれる男前。トメに座るところを見るに、当時はそれなりのネーム・バリューがあつたと思しき―但し現在の目では、三番手扱ひの神崎亜子に全然及ばない―広田まみは、構つて貰へぬ挙句天狗OFFICEにまで乗り込んで来る親方の女房。
 最低限痴漢電車の体はなしてゐる程度の、浜野佐知1991年第二作。博識で有能な―と、いふほどのタマでもない―事務員。電車痴漢を受け容れ、ダイヤルQ2で男を漁る奔放な女。セックスの対価に受け取つた金を、本当にチャリティー寄付する善人。恋心込みで、一個の人格とは思ひ難い様々の相に混乱を来たすオガタと石井基正に、マスミは決然と宣言する「私は一枚のフロッピーディスク」。消去も書き込みも自由、その時々に挿し込むフロッピーの中身がそれぞれ異なる如く、各々の自分に自在に変貌する。マスミが作中所与の視座として辿り着いてゐたフリーダムは一見、あるいは絡みの海の中に埋没した展開の中にあつては漸く魅力的にも思へ、残念ながら話がそこから一切進まない。オーラスは、二対一の電車痴漢。とんでもない人間を好きになつたのではないかと困惑するオガタに、石井基正は行くところまで行くしかないとよくいつてもとりあへずな、直截には御座成りな腹を固める。最初と最後を痴漢電車で締め、マスミと石井基正のミーツは電車痴漢そのものではあるものの、拡げただけの風呂敷は、単なる散らかした布でしかあるまい。南城千秋と寝てゐたことを知り、親方は激昂一番マスミを馘に。元々辞める心積もりでもあつた、オガタも脊髄反射で後を追ふ。一人きりの天狗OFFICEにて、「何であんなことで馘にしちやつたんだ」と黄昏る久須美欽一の姿も、後年熟成する“どうしてかうなつたんだ”で御馴染み、御存知旦々舎の千両役者・栗原良十八番の見せ場と比べると未だ大いに非力さを感じさせる。濡れ場の質量には遜色ないながら、平板な裸映画である。


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